適用指針

返金が不要な顧客からの支払

返金が不要な顧客からの支払

「返金が不要な顧客からの支払」 目次と概要

1.適用指針「返金が不要な顧客からの支払」の概要
企業が,契約における取引開始日又はその前後に,顧客に返金が不要な支払を課す場合があります。例えば,スポーツクラブ会員契約の入会手数料,電気通信契約の加入手数料,サービス契約のセットアップ手数料,供給契約の当初手数料などがあります(指針141)。
企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約の目的とされた財又はサービス(スポーツクラブの利用・電気通信など)を提供する義務を識別しますが,多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動自体により約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,独立した履行義務として会計処理しません。返金が不要な顧客からの支払は,①契約更新オプションがある場合に契約更新される期間を考慮して収益を認識する場合があること(指針58),②一定の期間にわたり充足される履行義務に係る進捗度をコストに基づくインプット法により見積るにあたって関連する活動及びコストの影響を除くこと(指針60)に留意する必要があります。
他方,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します(指針59)。
適用指針「返金が不要な顧客からの支払」(指針57~60)は,企業が,顧客に返金が不要な支払を課す場合に,関連する履行義務の識別や会計処理についての指針を提供しています。

☞企業が,契約における取引開始日又はその前後に,顧客に返金が不要な支払を課すことがありますが,多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動自体により約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,独立した履行義務として会計処理しません。他方,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します。

2.返金が不要な顧客からの支払
● 返金が不要な顧客からの支払
企業が,契約における取引開始日又はその前後に,顧客に返金が不要な支払を課す場合があります。例えば,スポーツクラブ会員契約の入会手数料,電気通信契約の加入手数料,サービス契約のセットアップ手数料,供給契約の当初手数料などがあります(指針141)。
返金が不要な顧客からの支払は,顧客が対価(手数料)を支払う強制可能な義務であり,契約においてその義務の内容(手数料の金額,支払期限等)が明示されます。支払期限は,契約における取引開始日又はその後であり,顧客は,契約の目的とされた財又はサービス(スポーツクラブの利用・電気通信など)の提供を受ける前に支払うことを約束します。
これに対し,企業は,当該契約において,顧客に対し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を負います。
返金が不要な顧客からの支払は,企業が契約における取引開始日又はその前後において,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転するために行わなければならない契約のセットアップに伴う契約管理活動(負担)を経済的に補償する趣旨であることが多く,契約においてその旨(入会手数料,加入手数料など)を明示することもあります(指針141,142)。

● 履行義務の識別
まず,企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,顧客に対し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(契約における本来の債務=給付義務)を識別します。
次に,企業は,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転するのかどうかを判断します(指針57)。
多くの場合,企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行っても財又はサービスが顧客に移転しません(指針142)。例えば,サービスを提供する企業が契約をセットアップするために契約管理活動を行いますが,それらの活動によりサービスが顧客に移転することはありません(指針4)。
また,企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連して約束した財又はサービスを顧客に移転する場合でも,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務と独立した履行義務として処理すべきかどうかを判断します(指針59)。
多くの場合,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務を履行するために契約のセットアップに伴う契約管理活動を行う必要がありますが,顧客は,返金が不要な支払をしたからといって,直接,企業にそのような活動を強制することを予定していませんので,必ずしも返金が不要な顧客からの支払と交換に企業がどのような活動を行うのかについて契約において特定して明示する必要がありません。
そのため,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行うという企業の約束が,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と区分して識別できず,契約の観点において別個のものとはいえず(第34項(2)),独立した履行義務とはいえない場合が少なくありません。
したがって,企業は,多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転することがなく,また,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとはいえないので,独立した履行義務を識別しません。
もっとも,企業は,返金が不要な顧客からの支払に関連して,顧客に対し,契約更新オプションを付与していないかどうかに留意する必要があります。

● 将来の財又はサービスの移転に対する前払
企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合,Step3「取引価格を算定する」で,返金が不要な顧客からの支払を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務に配分されます。
したがって,返金が不要な顧客からの支払は,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するつれて収益を認識しますので,将来の財又はサービスの移転に対する前払といえます(指針58)。

☞企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,返金が不要な顧客からの支払に関連した活動により約束した財又はサービスを顧客に移転するのかどうか,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と独立した履行義務として処理すべきかどうかを判断します。多くの場合,返金が不要な顧客からの支払に関連した活動により約束した財又はサービスが顧客に移転することがなく,また,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとはいえないので,独立した履行義務を識別しません。この場合,返金が不要な顧客からの支払は,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に又は充足するつれて収益を認識しますので,将来の財又はサービスの移転に対する前払といえます。

3.返金が不要な顧客からの支払と更新オプション
● 契約更新オプション
契約更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。
契約に一定の存続期間(有効期間)の定めがあるときに,いずれかの当事者から拒絶の意思表示がない限り,当然に更新される旨の定め(自動更新条項)は,企業が更新を拒絶することができるので,更新オプションではありません。もっとも,取引慣行,公表した方針等により企業が更新を拒絶しないという顧客の合理的な期待が生じているときは,更新オプションに該当する可能性があります。

● 履行義務の識別
企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合でも,顧客に対し,契約更新オプションを付与していないかどうかに留意する必要があります。返金が不要な顧客からの支払が契約のセットアップに伴う契約管理活動に関連する場合には,同一の顧客に関する更新に際して改めて企業にそのような負担が生じない場合が多いので,顧客は,企業が改めて返金が不要な支払を課さずに契約(期間)の更新に応じてくれるものと期待することが少なくありません。企業が,顧客との契約において,顧客からの契約(期間)の更新の申入れに対し,①拒絶してはならない拘束を受ける強制力のある義務を負い,あるいは,②取引慣行,公表した方針等により,拒絶しないという顧客の合理的な期待が生じている場合には,契約における約束として識別できます。
そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションの付与に係る履行義務を識別する必要があります(指針48)。

● 更新オプションの会計処理
企業が契約更新オプションの付与に係る履行義務を識別する場合,Step3「取引価格を算定する」で,返金が不要な顧客からの支払を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②契約更新オプションの付与に係る履行義務に対し,それぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分することとなります。
しかし,契約更新オプションの独立販売価格の算定が複雑であるため,実務上の便法として,更新オプション付きの契約を,一連のオプションの付いた契約ではなく,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなし,企業が顧客に提供すると見込んでいるオプションに係る財又はサービス(及びこれに対して支払が見込まれる対価)を,取引価格の当初測定に含める会計処理を容認しています(指針51,IFRS/BC 393)。
したがって,企業は,返金が不要な顧客からの支払につき,契約の目的とされた財又はサービスに関して契約更新される期間を考慮して収益を認識する場合があります(指針58)。

☞顧客は,企業が改めて返金が不要な支払を課さずに契約(期間)の更新に応じてくれるものと期待することが少なくありません。企業が,顧客との契約において,顧客からの契約(期間)の更新の申入れに対し,①拒絶してはならない拘束を受ける強制力のある義務を負い,あるいは,②取引慣行,公表した方針等により,拒絶しないという顧客の合理的な期待が生じている場合には,契約における約束として識別できます。そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションの付与に係る履行義務を識別する必要があります。この場合,更新オプションの会計処理により,企業は,返金が不要な顧客からの支払につき,契約の目的とされた財又はサービスに関して契約更新される期間を考慮して収益を認識する場合があります。

4.返金が不要な顧客からの支払とインプット法
● インプット法
インプット法は,アウトプット法と並び,一定の期間にわたり充足される履行義務に係る進捗度を測定する方法であり,履行義務の充足に使用されたインプットと契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプットの比率に基づき収益を認識します(指針20)。
指標として,例えば,消費した資源,発生した労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間などがあります(指針20)。

● 履行義務の充足に係る進捗度の見積り
返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合,企業は,契約における取引開始日に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を一定の期間にわたり充足された履行義務と判定するときは(第36項,第38項),履行義務の充足に係る進捗度を見積るための適切な方法を選択しなければなりませんが,コストに基づくインプット法を選択・適用するにあたって,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動に係るインプットの取扱いに留意する必要があります。
インプット法は,インプットと財又はサービスの顧客への移転との間に直接的な関係がなく,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないことが少なくありません(指針117)。
企業は,インプットを適用する場合,顧客に財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写しないものの影響を除外しなければなりません(指針21)。
返金が不要な顧客からの支払に関連する活動が,例えば,契約締結活動(契約のセットアップに関する活動)又は契約管理活動で発生するコストなど,顧客に財又はサービスを移転しない場合は,当該活動及び関連するコストの影響をインプットから除外します(指針60)。

☞企業が,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動について独立した履行義務を識別せず,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を一定の期間にわたり充足された履行義務と判定する場合には,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動(例えば,契約のセットアップに伴う契約管理活動など)が顧客へのサービスの移転を描写しないので,インプット法の適用にあたって,当該活動及び関連するコストの影響を除外しなければなりません。

5.返金が不要な顧客からの支払に関連する独立の履行義務
企業が,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します(指針59)。
この場合,企業は,顧客との契約において,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行う義務を含む複数の履行義務を識別します(複数要素契約)。Step3「取引価格を算定する」で,返金が不要な顧客からの支払を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②返金が不要な顧客からの支払に関連する活動を行う義務に対し,それぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分することとなりますが,返金が不要な顧客からの支払について契約上の価格を独立販売価格であると推定してはならないことに留意する必要があります(第125項)。

☞企業は,返金が不要な顧客からの支払に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します。

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