適用指針

請求済未出荷契約 / 消化仕入契約

2022123

弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

※本文中で引用,参照する会計基準書等の条項は,末尾の凡例に表示の略語で記載しています。

適用指針「請求済未出荷契約」の概要

一時点で充足される履行義務について,企業は,資産に対する支配を顧客に移転した時点を決定するにあたって,支配の移転の指標として「企業が資産の物理的占有を移転したこと」(第40(3))を考慮します。しかし,物理的占有は,基本的に占有者の“意思”を捨象するため,次の1又は2のように,物理的占有が移転しないのに資産に対する支配が移転する場合があります。

1 企業が資産の物理的占有を保持しながら資産に対する支配が企業から顧客に移転する場合

典型的な契約として,請求済未出荷契約(指針7779)があります。

2 顧客が資産の物理的占有を保持しながら資産に対する支配が企業から顧客に移転する場合

典型的な契約として,消化仕入契約(設例30)・寄託品使用高払契約があります。企業は,これらの契約に基づき,既に顧客に資産の物理的占有を移転しています。

適用指針「請求済未出荷契約」(指針7779)は企業が顧客に移転することを約束した商品・製品の物理的占有を保持している状況で収益を認識する場合の要件と会計処理を定めます。また,設例30「消化仕入契約」は,企業が顧客に商品・製品の物理的占有を移転した後に顧客が販売・使用・消費等のために払い出す時に当該商品・製品を購入することを約束する消化仕入約や寄託品使用高払契約の取扱いの指針を提供します。

請求済未出荷契約

l  請求済未出荷契約

請求済未出荷契約とは,企業が商品・製品について顧客に対価を請求したが,将来において顧客に移転するまで企業が当該商品・製品の物理的占有を保持する契約をいいます(指針77)。

例えば,顧客に商品・製品の保管場所がない場合や,顧客の生産スケジュールの遅延等の理由により,顧客の要請を受け,企業がこのような契約を締結する場合があります(指針159)。

l  物理的占有の移転を伴わない支配の移転

企業が商品・製品を販売するにあたって請求済未出荷契約が成立した場合には,①企業が顧客に提供した当該商品・製品に関する対価を収受する現在の権利を有していることの指標(第40(1))を満たし,多くの場合,当該契約に当該商品・製品の法的所有権を顧客に移転する旨の明示の合意があるか,又は少なくとも黙示の合意が含まれると解釈することができるため,②顧客が当該商品・製品の法的所有権を有していることの指標(第40(2))を満たします。

したがって,多くの場合,請求済未出荷契約が成立した時点で,顧客が当該商品・製品に対する支配を獲得し,当該商品・製品の物理的占有の移転が伴わないことは,顧客がその支配を獲得することを妨げるものではありません。

企業は,当該商品・製品を支配せず,代わりに顧客に対して保管サービスを提供している場合があります(IFRS/B 80)。

請求済未出荷契約の要件と会計処理

l  請求済未出荷契約の制限

企業は,商品・製品を移転する履行義務をいつ充足したかを判定するにあたって,顧客が当該商品・製品の支配をいつ獲得したかを考慮します(指針78)。

しかし,企業が,商品・製品の物理的占有を保持したまま,その支配を顧客に移転したと判定することを無制限に許容すれば,請求済未出荷契約が財務報告において収益認識時期の操作に悪用されるおそれがあります。

そこで,本指針は,企業が顧客に移転することを約束した商品・製品の物理的占有を保持している状況では,本基準第40項の指標を考慮するだけでなく,請求済未出荷契約の成立やその実態,当該商品・製品の客観的な状態について一定の要件を満たさない限り,当該商品・製品の支配を顧客に移転したと判定すること(収益を認識すること)を制限します。

l  要件

企業は,顧客に移転することを約束した商品・製品の物理的占有を保持している状況では,本基準第39条・第40項を適用したうえで,次のa~eの要件をすべて満たす場合にのみ,顧客が当該商品・製品の支配を獲得したと判定する(指針79)。

a 企業と顧客との間に請求済未出荷契約(企業が商品・製品について顧客に対価を請求したが,将来において顧客に移転するまで企業が当該商品・製品の物理的占有を保持する契約)が成立したこと

請求済未出荷契約の成立が前提となるので(指針79),企業は,Step1「顧客との契約を識別する」で,商品・製品の販売(売買契約)に加え,本基準第19項に従って,請求済未出荷契約を識別する必要があります。請求済未出荷契約が成立している場合には,企業が顧客に提供した当該商品・製品に関する対価を収受する現在の権利を有し(第40(1)参照),多くの場合,企業が当該商品・製品の法的所有権を顧客に移転する旨の合意が含まれると解釈することができます(第40(2)参照)。

b 請求済未出荷契約を締結した合理的な理由があること(例えば,顧客からの要望による当該契約の締結)

本指針は,請求済未出荷契約に合理的な理由を伴うことを要件としており,特に企業からの要望による場合には合理的な理由かどうかを慎重に検討する必要があります。

c 当該商品・製品が,顧客に属するものとして区分して識別されていること

種類物(不特定物)の給付を目的とする契約では,企業が契約で定めた数量を超えて同一の種類物の物理的占有を保持する可能性があり,契約の目的物(商品・製品)が客観的・具体的に区分して識別されていなければ,法律上,当該商品・製品の法的所有権が顧客に移転しません(第40(2)参照)。

d 当該商品・製品について,顧客に対して物理的に移転する準備が整っていること

顧客が商品・製品の支配を獲得するためには,現時点で,顧客の指図に応じて,いつでも顧客に当該商品・製品の物理的占有を移転する準備が整っている必要があります。

上記c,dの要件を満たす場合には,法律上,債務者(企業)の住所・営業所等で種類物(不特定物)を引き渡すべき債務(取立債務)につき,債権者(顧客)に移転する目的物(法的所有権の対象)が特定します(第40(2)参照)。

e 当該商品・製品を使用する能力あるいは他の顧客に振り向ける能力を企業が有していないこと

企業が当該商品・製品を使用したり別の顧客に振り向けたりする能力を有する場合には,顧客が当該商品・製品を支配していないことになります。

l  会計処理

企業は,顧客に移転することを約束した商品・製品の物理的占有を保持している状況で,請求済未出荷契約の要件をすべて満たし,顧客が当該商品・製品の支配を獲得したと判定した場合には,次のa及びbの処理をします。

a 収益の認識

企業は,顧客が請求済未出荷の商品・製品の支配を獲得した時点を決定し,当該商品・製品の販売による収益を認識します。

b 残存履行義務の検討

企業は,取引価格の一部を配分する残存履行義務(例えば,顧客の商品・製品に対する保管サービスに係る義務)を負うかどうかについて,本基準第32項~第34項に従って判定します(指針160)。

消化仕入契約・寄託品使用高払契約

l  消化仕入契約・寄託品使用高払契約

消化仕入契約寄託品使用高払契約は,企業が商品・製品の物理的占有を顧客に移転したが,顧客が将来において販売・使用・消費等のために払い出す時に,企業が当該商品・製品の対価を請求する契約をいいます。

例えば,企業が顧客の店舗に商品を搬入,陳列したり,顧客の病院に医薬品を備え置いたり,顧客のタンクに原料を搬入したりした後,顧客が商品・医薬品・原料の販売・使用・消費等を行うことをもって購入の意思を表示する場合が該当します。

なお,消化仕入契約は,小売業界において小売業者からみた仕入先との契約の種類の一つであり,通常の売買契約は,消化仕入契約と対比して「買取仕入契約」と呼ばれます(設例30)。

消化仕入契約は,供給者が商品の法的所有権を保持している点において,法律上の委託販売契約(取次委託)と類似します。委託販売契約では供給者(委託者)から需要者に法的所有権が直接に移転し,流通業者(受託者)は商品の法的所有権を一時的にも取得することがありません。これに対し,消化仕入契約では供給者から商品の法的所有権がいったん小売業者に移転した後直ちに需要者に移転します。

l  物理的占有の移転を伴わない支配の移転

企業が商品・製品を販売するにあたって,顧客との間に消化仕入契約・寄託品使用高払契約が成立した場合には,企業は,顧客に対し,契約に従った一定の利用(販売・使用・消費等)のために商品・製品を払い出すことだけを許可し,それ以外の利用を制限する権利を有しています。そのため,企業は,当該商品・製品を払い出すまでは依然として当該商品・製品の使用を指図する能力や当該商品・製品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有しており,当該商品・製品を支配しています。逆に,顧客は,当該商品・製品を払い出すまでは,当該商品・製品を支配しておらず,代わりに企業に対して保管,販売の手配等のサービスを提供している場合があります。

その後,顧客が販売・使用・消費等のために当該商品・製品を払い出した時点で,企業が顧客に提供した当該商品・製品に関する対価を収受する現在の権利を有していること(第40(1))を満たし,多くの場合,当該時点で当該商品・製品の法的所有権を移転する旨の明示の合意があるか,又は少なくとも黙示の合意が含まれると解釈することができるため,②当該商品・製品の法的所有権が移転すること(第40(2))を満たします。

したがって,多くの場合,顧客が販売・使用・消費等のために商品・製品を払い出した時点で,顧客が当該商品・製品に対する支配を獲得し,当該商品・製品の物理的占有の移転が伴わないことは,顧客がその支配を獲得することを妨げるものではありません。

消化仕入契約の会計処理

l  会計処理の概要

消化仕入契約は,一般に,供給者が商品・製品を需要者(最終顧客)に提供するプロセスに流通業者が関与しているケースであり,次のa又はbにより会計処理します。

a 供給者の会計処理

企業が供給者である場合には,企業は,適用指針「委託販売契約」(指針75,76)に従って処理します。

b 流通業者の会計処理

企業が流通業者である場合には,企業は,適用指針「本人と代理人の区分」(指針3947)に従って処理します。

l  供給者の会計処理

消化仕入契約における売主(仕入先)である企業からみると,企業(供給者)が商品・製品を需要者(最終顧客)に提供するプロセスに他の当事者(流通業者)が関与しており,一般に,需要者が当該商品・製品を支配する前に,企業から他の当事者に当該商品・製品の物理的占有を移転します。

企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,一時点で充足される履行義務について,顧客が当該商品・製品の支配を獲得した時点を決定するため,本指針「委託販売契約」に従って,他の当事者にその物理的占有を移転した時点で(第40(3)参照),当該他の当事者が当該商品・製品を支配したかどうかを判定します(指針75)。

この判定にあたって,他の当事者に当該商品・製品の物理的占有を移転した時点だけではなく,需要者に当該商品・製品が移転される前に当該他の当事者が当該商品・製品を支配するかどうかも併せて検討します。この検討は,企業の立場から,当該他の当事者が,本指針「本人と代理人の区分」に従って,当該商品・製品が需要者に移転される前に他の当事者が当該商品・製品を支配するかどうかを評価することにほかなりません。

消化仕入契約では,多くの場合,法律上の契約の性質が売買契約であり,他の当事者が当該商品・製品の法的所有権を取得します。しかし,当該商品・製品の法的所有権は他の当事者を一時的に経由して需要者に移転するにすぎないため,他の当事者が必ずしも当該商品・製品を支配するとはいえず(指針45),一般に企業が在庫リスクを有しています(指針47(2))。そのため,需要者に当該商品・製品を移転する約束の履行に対する主たる責任(指針47(1))や価格の設定における裁量権(指針47(3))を考慮し,次のa又はbのいずれであるかを評価します。

a 需要者に移転するまで他の当事者が商品・製品を支配しない場合

需要者に移転するまで他の当事者が商品・製品を支配しない場合には,企業にとって需要者が“顧客”であり,他の当事者と需要者との間に成立した売買契約を“顧客との契約”として取り扱い,当該商品・製品と交換に権利を得ると見込む対価(顧客対価)を収益として認識します。企業と他の当事者との間の消化仕入契約は,会計上,委託販売契約として取り扱います。

b 需要者に移転する前に他の当事者が商品・製品を支配する場合

需要者に移転する前に他の当事者が商品・製品を支配する場合には,企業にとって他の当事者が“顧客”であり,他の当事者との間の消化仕入契約を独立の販売として取り扱い,当該商品・製品と交換に権利を得ると見込む対価(顧客対価)を収益として認識します。

l  流通業者の会計処理

消化仕入契約における買主(小売業者)である企業からみると,他の当事者(供給者)が商品・製品を需要者(最終顧客)に提供するプロセスに企業(流通業者)が関与しており,一般に,需要者が当該商品・製品を支配する前に,他の当事者から企業に当該商品・製品の物理的占有を移転します。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」において,本指針「本人と代理人の区分」に従って,企業の約束の性質について,①需要者に対し,企業が商品・製品を自ら提供することを約束しているのか(企業は本人である),他の当事者に対し,他の当事者によって商品・製品が顧客に提供されるように手配することを約束しているのか(企業は代理人である)を判定します(指針3940)。

消化仕入契約では,一般に企業は在庫リスクを負いません(指針47(2))。そのため,需要者に当該商品・製品を移転する約束の履行に対する主たる責任(指針47(1))や価格の設定における裁量権(指針47(3))を考慮し,次のa又はbのいずれであるかを評価します。

a 需要者に移転するまで企業が商品・製品を支配しない場合

需要者に移転するまで企業が商品・製品を支配しない場合には,企業にとって他の当事者が“顧客”であり,企業と他の当事者との間の消化仕入契約を,会計上,委託販売契約として取り扱い,代理人として商品・製品を販売する手配サービスと交換に権利を得ると見込む対価(報酬・手数料)を収益として認識します。

b 需要者に移転する前に企業が商品・製品を支配する場合

需要者に移転する前に企業が商品・製品を支配する場合には,企業にとって需要者が“顧客”であり,本人として商品・製品と交換に権利を得ると見込む対価(顧客対価)を収益として認識します。企業と他の当事者との間の消化仕入契約は,独立の販売として取り扱い,仕入先からの購入と同様の方法で処理します。

寄託品使用高払契約の会計処理

l  寄託品使用高払契約の会計処理

寄託品使用高払契約について,企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,一時点で充足される履行義務について,“支配”の概念(第37項)を適用するほか,支配の移転の指標(第40(1)(5))を考慮し,顧客が当該商品・製品に対する支配を獲得した時点を決定し,その時点で収益を認識します(第39項)。

寄託品使用高払契約では,企業は,顧客が商品・製品を購入する前に当該商品・製品の物理的占有を顧客に移転していますが,多くの場合,その時点では顧客は当該商品・製品に対する支配を獲得しておらず,顧客が使用・消費等のために当該商品・製品を払い出した時点で当該商品・製品に対する支配を獲得します。

 

【凡例】 第〇項   企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」

指針〇    同適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」

設例〇   同適用指針設例

IFRS/B          IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」付録B(適用指針)

     IFRS/BC    IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」(結論の根拠)

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