有償支給取引(日本基準版)
連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(日本基準版)
有償支給取引
2018年12月25日 弁護士・公認会計士 片山智裕
A4小冊子 10ページ
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「有償支給取引」 目次と概要
1.有償支給取引
● 有償支給取引
有償支給取引とは,企業が対価と交換に原材料等(以下「支給品」といいます。)を外部(以下「支給先」といいます。)に譲渡し,支給先における加工後,当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含みます。)を購入する一連の取引をいいます(指針104)。
我が国製造業で行われている有償支給取引は,製品製造過程の一部を支給先に委託したものとみられる経済的実態を備えている場合が少なくありません。企業が支給先に支給品を供給する目的は,支給先から調達する加工後の支給品の品質を維持・管理することにあります。また,企業が支給品を対価と交換に供給する目的は,必ずしも企業が支給品の全量を無条件で買い戻さないことを前提とした経済的な合理化や生産体制の最適化にあり,支給先から支給品を担保として資金提供を受けることではなく,取引の実態は金融取引ではありません。
● 有償支給取引の会計処理の問題点
有償支給取引の会計処理については,次の2点が問題となります。
企業が当初の支給品の譲渡時に収益を認識するかどうか
企業が,当初の支給品の譲渡時に収益を認識した後に,支給先によって加工された製品を買い戻して顧客に最終製品を販売するときにも収益を認識することが適切かどうかという問題があります。当初の譲渡契約(支給品の対価の部分)に関する限り,結果的には企業と支給先との間で支給品を往復し,多くの場合,当初の譲渡対価と買戻対価を相殺処理しています。もし,この契約から生じる収益を認識すると,収益を人為的に水増しするために経済的実質のない契約が財務報告に悪用されるおそれがあります。
そこで,適用指針は,支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益が二重に計上することは適切ではないとしています(指針179)。
企業が当初の支給品の譲渡時に支給品(棚卸資産)の消滅を認識するかどうか
有償支給取引では,企業が譲渡した支給品にその後も継続的に関与しており,買戻契約かどうか及びその契約条件を考慮し,支給品に対する支配が支給先に移転しているかどうかを判定する必要があります(指針8)。
有償支給取引では,一般に,支給先の意思に基づく行為(加工)が完了しない限り,企業が支給品を買い戻さないので,当初の支給品の譲渡時では企業が未だ買い戻す義務を負っていない(買戻契約ではない)事後の再売買であるか,又は企業が買い戻す義務を負っていても,加工の完了その他の条件が付されたプット・オプションに近いものであるといえます。
そこで,企業は,有償支給取引について,まず,当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否か(買戻契約か否か)を判断し,支給品を買い戻す義務を負っている場合には,次に,支給品を買い戻す義務に付されている条件の実質(支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうか)を考慮し,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定します。
☞有償支給取引とは,企業が対価と交換に原材料等(支給品)を外部(支給先)に譲渡し,支給先における加工後,当該支給先から当該支給品(加工された製品に組み込まれている場合を含みます。)を購入する一連の取引をいいます。有償支給取引の会計処理は,①企業が当初の支給品の譲渡時に収益を認識するかどうか,②企業が当初の支給品の譲渡時に支給品(棚卸資産)の消滅を認識するかどうかの2点が問題となります。
2.有償支給取引と買戻契約
● 買戻契約
企業が譲渡した支給品にその後も継続的に関与する有償支給取引については,支給先による当該支給品の支配に与える影響によってどのように会計処理するのかを決定する目的で,買戻契約かどうか及びその契約条件を考慮する必要があります(指針8)。
買戻契約は,①企業が顧客に商品又は製品を売り渡すこと(売買契約),②企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有すること(反対売買の権利義務),③②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)の3つを要素とします。
企業が顧客に商品又は製品を売り渡すこと(①売買契約)
有償支給取引は,企業(売主)が支給品の財産権を支給先(買主)に移転することを約し,支給先がその代金を支払うことを約する売買契約を基礎としますので,①の要素があります。
企業が当該商品又は製品を買い戻す義務又は権利を有すること(②反対売買の権利義務)
有償支給取引において企業が支給先から購入する加工後の支給品は,一般に,当初において販売した支給品を構成部分としており,企業がそのような支給品を買い戻す義務又は権利を約束する場合も②の要素を満たします(指針153)。
買戻契約は,②の要素に関する反対売買の権利義務の発生要件に着眼し,(A)期限の到来により当然に発生する契約と(B)条件の成就により当然に発生する契約に分類し,(B)の典型例として(C)当事者の選択(意思表示)により発生する契約につき(a)企業(元の売主)の選択による場合と(b)顧客(元の買主)の選択による場合に分類できます。
適用指針「買戻契約」は,当事者の選択以外の条件が付された買戻契約を除き,一般的に,企業が買い戻す義務又は権利の形態を以下の3つに分類し(指針153),その処理を定めています。
(1) 企業が商品又は製品を買い戻す義務(先渡取引)
(2) 企業が商品又は製品を買い戻す権利(コール・オプション)
➝ (1)又は(2)では,企業はリース取引又は金融取引として処理し(指針69),商品又は製品を引き続き認識し,顧客から受け取った対価について金融負債を認識します(指針70)。
(3) 企業が顧客の要求により商品又は製品を買い戻す義務(プット・オプション)
➝ (3)では,企業は,顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有している場合には,(1)又は(2)と同様の処理をしますが(指針72,73),顧客がプット・オプションを行使する重要な経済的インセンティブを有していない場合には,返品権付きの販売として処理します(指針72,73)。
以上に対し,適用指針「買戻契約」は,当事者の選択以外の条件が付された買戻契約については,直接にはその処理を定めていませんので,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,その条件が,顧客が商品又は製品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,いずれかの買戻契約の形態に整合的な処理をします。
IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」でも,例えば,生鮮食品や医薬品の業界で,企業が,市場での企業の評判を維持する目的で,顧客(販売業者又は小売業者)に売り渡した商品又は製品を一定の期限を超えて消費者に販売することを防止するために顧客から買い戻す権利(コール・オプション)を有している場合において,直ちに融資契約として処理するのではなく,企業が買い戻す権利に条件(顧客が商品又は製品を第三者に販売せずに保有していること)が付されている実質を考慮し,プット・オプションとして返品権付きの販売と整合的に処理するものとしています(IFRS/2011ED BC 320)。
②の約束が①と同一の機会に行われること(同一機会)
有償支給取引では,企業が必ずしも当初の支給品の譲渡と同一の機会に,企業が当該支給品を買い戻す義務又は権利に関する約束をしているとは限りません。企業が支給品に対する支配を支給先に移転した後に,支給先との間で当該支給品を買い戻すことを事後的に約束することは,買戻契約ではありません。そのような事後的な約束は,当初に支給先に当該支給品を引き渡した時点で,支給先が当該支給品の使用を指図する能力や当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力に影響を与えません(IFRS/BC 423)。もっとも,このようなケースでは,当初の支給品の譲渡時に,企業が当該支給品を買い戻す義務又は権利に関して,契約書の中で明示的に定められていなくとも,取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意されていないかどうかを考慮する必要があります。
● 有償支給取引と買戻契約
有償支給取引は,一般に,企業が将来の一定の期限で支給品の全量を無条件で買い戻すのではなく,支給先が加工を完了してはじめてそれを買い戻します。企業から支給先へ支給品が譲渡された後の取引や契約の形態はさまざまであり(指針177),当初の支給品の譲渡時に,必ずしも企業が買い戻す権利又は義務を約束しているとは限らず,企業が買い戻す権利又は義務を約束する場合であっても,支給先が加工を完了することが条件とされており,将来,発生することが不確実な事実にかかっています。支給先が加工を完了するだけでなく,加工後の支給品が契約において合意された条件(品質・性能・仕様等)に適合することなどの条件も付されている場合が少なくありません。
したがって,有償支給取引は,まず,買戻契約かどうかを判定し(指針177),買戻契約の場合であっても,一般に,条件が付された先渡取引,又は当事者の選択(意思表示)以外の条件が付されたコール・オプションやプット・オプションに該当しますので,直ちに,買戻契約の先渡取引又はコール・オプション(指針69)やプット・オプション(指針72,73)に従った処理をするのではなく,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,その条件が,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,いずれの買戻契約の形態に整合的な処理をするべきかを判定する必要があります。
☞有償支給取引では,当初の支給品の譲渡時に,必ずしも企業が買い戻す義務又は権利を約束しているとは限らず,企業が約束している場合であっても,支給先が加工を完了することが条件とされています。企業は,まず,買戻契約かどうかを判定し,買戻契約の場合には買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,その条件が,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討し,いずれの買戻契約の形態に整合的な処理をするべきかを判定する必要があります。
3.有償支給取引における買戻契約の識別
● 買戻契約の識別
企業は,有償支給取引について,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定するため,まず,当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否か(買戻契約か否か)を判断します(指針104,178)。
有償支給取引において,支給先によって加工された製品の全量を買い戻すことを当初の支給品の譲渡時に約束している場合には,企業は当該支給品を買い戻す義務を負っていると考えられますが,その他の場合には,企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否かの判断を取引の実態に応じて行う必要があります(指針178)。
企業が支給品を買い戻す義務は,契約書の中で明示的に定められることもありますが,取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合も少なくありません。取引慣行を考慮するときには,企業と顧客との間の継続的取引関係でその慣行に従う意思を示す事実及び状況(例えば,企業がこれまで支給品を買い戻してきた実績があるかどうか)も重要になります。
有償支給取引では,当初の支給品の譲渡時に,必ずしも企業が買い戻す権利又は義務を約束しているとは限りません。例えば,単に企業から支給した支給品を加工したものであれば,企業が買い戻す場合があるだけで,支給先が要求しても買い戻すとは限らないこともあります。
当初の支給品の譲渡時に企業が買い戻す権利又は義務を約束していない場合には,事後に支給先によって加工された製品を買い戻したとしても,事後に再売買を約束しただけであり,買戻契約ではありません。このような場合には,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得しており,事後の再売買の約束は,支給先が当該支給品の使用を指図する能力や当該支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力に影響を与えません。
支給先の要求があっても,企業が無条件で支給品の買い戻しを拒否することができるなど,企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合には,一般には,買戻契約ではなく,支給先が支給品に対する支配を獲得します。ただし,企業が一方的な意思表示により支給先から支給品を買い戻す権利を有する場合は,買戻契約のコール・オプションに該当する可能性がありますので(指針153(2)),この場合には,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定します。
● 買戻条件の実質
企業は,有償支給取引について,支給品を買い戻す義務を負っている場合には,次に,支給品を買い戻す義務に付されている条件を識別し,その条件の実質(支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうか)を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討します。
企業が支給品を買い戻す義務を負っている場合でも,支給先の意思に基づく行為(加工)の完了が条件とされており,条件が付された先渡取引とみることもできますが,条件が付されたプット・オプションに近いものといえます。後者の場合は,支給先が企業に対して支給品の買い戻しを求める(すなわち,プット・オプションを行使する)ことを余儀なくされるかどうか(重要な経済的インセンティブを有しているかどうかに限りません。)が,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに影響を与えます。
そこで,企業は,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定するため,支給品を買い戻す義務に付されている条件を識別し,支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうかを考慮する必要があります。
企業が支給品を買い戻す義務の条件は,契約書の中で明示的に定められることもありますが,取引慣行,公表した方針等から黙示的に含意される場合も少なくありません。支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうかは,支給先の契約上の義務だけでなく,企業と支給先との間の継続的取引関係における取引慣行,企業がこれまで支給品を買い戻してきた実績(割合)なども考慮します。支給先にとって(当該契約限りの)重要な経済的インセンティブを有している場合に限らず,(継続的取引関係において)支給先が事実上支給品を売り戻すことを余儀なくされる場合も含みます。
☞企業は,有償支給取引について,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定するため,まず,当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っているか否か(買戻契約か否か)を判断し,支給品を買い戻す義務を負っている場合には,次に,支給品を買い戻す義務に付されている条件を識別し,その条件の実質(支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされるかどうか)を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかに与える影響を検討します。
4.有償支給取引における会計処理
● 概要
企業は,有償支給取引について,当初の支給品の譲渡時に収益を認識せず,代わりに,支給品を買い戻したときにその買戻対価に含まれる材料費相当額(になることが確定していない仮勘定)として有償支給取引に係る負債を認識します。
また,企業は,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するどうかを判定し,支給先が支配を獲得する場合は支給品(棚卸資産)の消滅を認識し,支給先が支配を獲得しない場合には引き続き支給品(棚卸資産)を認識します。企業は,有償支給取引が買戻契約かどうかを識別し,買戻契約の場合には,買戻契約に付されている条件の実質を考慮し,支給先が支給品に対する支配を獲得するかどうかを判定します。
なお,適用指針は,支給先が支給品に対する支配を獲得しない場合でも,個別財務諸表については,支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識する処理を容認しています(指針104)。
● 支給先が支給品に対する支配を獲得する場合
買戻契約ではない場合(事後の再売買の場合)
当初の支給品の譲渡時に企業が支給品を買い戻す義務を負っていない場合は,買戻契約ではありませんので,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得しています。したがって,企業は,当該支給品(棚卸資産)の消滅を認識します(指針104)。
他方,企業が事後に支給先によって加工された製品を買い戻して顧客に最終製品を販売するときに,支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益を二重に計上することは適切ではないと考えられます(指針179)。当初の譲渡契約(支給品の対価の部分)に関する限り,契約の経済的実質(すなわち,契約の結果として,企業の将来キャッシュ・フローのリスク,時期又は金額が変動すると見込まれるかどうか)がないにもかかわらず,収益を人為的に水増しするために財務報告に悪用されるおそれがあるからです(第19項(4)参照)。したがって,企業は,当該支給品の譲渡に係る収益を認識してはなりません(指針104)。
現金対価が少額又は皆無の非貨幣性交換は,複数の企業が収益を人為的に水増しするために相互に財又はサービスの往復を行うなど過去に財務報告における悪用が見られた領域ですが,本基準は,必ずしも非貨幣性交換に限らず,“契約の結果として,企業の将来キャッシュ・フローのリスク,時期又は金額が変動すると見込まれる”という経済的実質がない契約は,本基準の適用対象となる顧客との契約として取り扱わないこととしています(第19項(4),IFRS/BC 41)。有償支給取引についても,当初の譲渡契約(支給品の対価の部分)に関する限り,結果的には企業と支給先との間で支給品を往復し,多くの場合,当初の譲渡対価と買戻対価を相殺処理しています。もし,この契約から生じる収益を認識すると,収益を人為的に水増しするために経済的実質のない契約が財務報告に悪用されるおそれがあるので,当初の支給品の譲渡対価につき収益を認識してはならないものとしています。
支給先が支給品に対する支配を獲得する買戻契約の場合
企業が一定の条件で支給品を買い戻す義務を負っているが,企業と支給先との間の契約条件や継続的取引関係において,支給先が当該支給品を売り戻すことなく,支給品の消費・処分,第三者への売却ができる場合には,支給先が支給品を売り戻す(企業に買い戻させる)権利(プット・オプション)を有する買戻契約(指針153(3))に類似し,支給先が支給品の使用を指図する能力や支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を有しており,支給品に対する支配を獲得しています。
このような有償支給取引は,返品権付きの販売と整合的に処理すべきですが,企業が支給品の移転と交換に権利を得ると見込む(買戻しが見込まれない)対価があるとしても,“買戻契約でない場合(事後の再売買の場合)”と同様に収益を認識することは適切でないと考えられます。したがって,“買戻契約でない場合(事後の再売買の場合)”と同じ処理(仕訳)になり,返金負債及び返品資産に代えて有償支給取引に係る負債・資産を認識し,支給品を買い戻さないことが確定したときに,プット・オプションの消滅時の処理と同様に,有償支給取引に係る負債の消滅を認識し,収益を認識することになると考えられます。
● 支給先が支給品に対する支配を獲得しない買戻契約の場合
企業が一定の条件で支給品を買い戻す義務を負っているが,企業と支給先との間の契約条件や継続的取引関係において,支給先が当該条件を充足して支給品を売り戻すことを余儀なくされる場合には,先渡取引(指針153(1))に類似し,支給先は支給品の使用を指図する能力や支給品からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力が制限されており,支給品に対する支配を獲得しません(指針180)。したがって,企業は,当該支給品(棚卸資産)の消滅を認識しません(指針104)。
このような有償支給取引は,金融取引と整合的に処理すべきであり(指針180),企業は,支給品の譲渡に係る収益を認識してはなりません(指針104)。
しかし,譲渡された支給品は,物理的には支給先において在庫管理が行われているため,企業による在庫管理に関して実務上の困難さがある点が指摘されています。これを踏まえ,適用指針は,個別財務諸表においては,支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識することができることとしています。なお,その場合でも,支給品の譲渡に係る収益と最終製品の販売に係る収益が二重に計上されることを避けるために,当該支給品の譲渡に係る収益は認識しないこととしています(指針104,181)。
☞企業は,有償支給取引について,当初の支給品の譲渡時に収益を認識せず,代わりに,支給品を買い戻したときにその買戻対価に含まれる材料費相当額(になることが確定していない仮勘定)として有償支給取引に係る負債を認識します。企業は,当初の支給品の譲渡時に支給先が支給品に対する支配を獲得するどうかを判定し,支給先が支配を獲得する場合は支給品(棚卸資産)の消滅を認識し,支給先が支配を獲得しない場合には引き続き支給品(棚卸資産)を認識します。なお,適用指針は,支給先が支給品に対する支配を獲得しない場合でも,個別財務諸表については,支給品の譲渡時に当該支給品の消滅を認識する処理を容認しています。
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