連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

別個の財又はサービスの識別

 

2017年10月8日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 9ページ

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「別個の財又はサービスの識別」 目次と概要

 

 

1.Step2-② 別個の財又はサービスの識別

Step2「契約における履行義務を識別する」では,契約における約束を漏れなく識別した後,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。“別個の財又はサービス”という概念は,次のaとbの特性をいずれも備える会計単位です(第31項)。

a 当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて,顧客が便益を享受することができること

個々の財又はサービスが,最低限,顧客に便益を提供し得る,すなわち別個のものとなり得るという特性を備えていなければならず,それ以上に細分化した会計単位を設定してはなりません(第31項(1))。

b 当該財又はサービスを顧客に移転する約束が,契約に含まれる他の約束と区分して識別できること

たとえ個々の財又はサービスが別個のものとなり得るとしても,分離不能なリスクがあるために契約における約束として他と区分して識別できない複数の財又はサービス(の束)は,それ以上分離せずに会計単位を設定しなければなりません(第31項(2))。

 

☞企業は,識別した契約における約束を,①最低限,顧客に便益を提供し得る単位より細分化しない,②契約における約束として他と区分して識別し得る単位より分離しない,という2つのルールに従い,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。

 

2.契約における約束の目的となる財又はサービス

 

契約における約束の類型とその目的となる財又はサービス

財又はサービスは,企業において将来の経済的便益の流入を期待し,かつ,支配ができる資源,すなわち資産です。サービスは,有体物ではありませんが,たとえ一瞬だけであっても,企業が受け取って使用する時点では資産です(第118項)。 

本基準は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,財又はサービスそのものではなく,まず,契約において財又はサービスを顧客に移転する約束(契約における約束)を識別するものとしています。例えば,企業が顧客に塗装サービスを提供する契約では,塗装に用いられるであろう下塗材,塗料その他の財も顧客に移転しますが,このような契約に明示的に約束されたもの以外の個々の財又はサービスまで網羅的に識別することは,履行義務を識別する目的にとっては必要がなく,無駄な事務負担となります。

そこで,企業は,Step2-①契約における約束の識別のサブ・ステップで,契約における約束を漏れなく識別した後に,Step2-②別個の財又はサービスの識別のサブ・ステップでは,契約における約束の目的となっている財又はサービスに着眼し,別個の財又はサービス(の束)に区切り,又は束ねて識別します。 

本基準は,企業が約束した財又はサービスを識別するのに役立てるため,本基準第116項で,企業が識別すべき契約における約束の類型とその目的となる財又はサービスを例示しています(IFRS/BC 91)。

 

待機する又は利用可能にするサービス(IFRS/BC 91(a))

企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスの性質及び企業の履行の性質を考慮しなければなりません。例えば,典型的なヘルスクラブ契約では,顧客は,ヘルスクラブの利用回数に関係なく(ヘルスクラブを全く利用しなくとも),期間に応じた一定の対価を支払う義務を負います。このような場合には,サービスの内容は,顧客が要求する一時点でヘルスクラブの利用を提供することではなく,一定の期間にわたりヘルスクラブを利用可能にして待機するサービスです(IFRS/BC 160)。 

 

将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与(IFRS/BC 91(b))

顧客又は第三者が,将来,一定の条件が成就したときに,企業に対し,財又はサービスを提供することを強制することができる場合,企業が顧客又は第三者に将来において提供される財又はサービスに対する権利を付与しているといえます。例えば,メーカーが顧客(販売業者)に財を販売するにあたって,販売業者の顧客(エンドユーザー)に追加のサービス(メンテナンスなどのアフターサービス)を提供することを約束することがあります。このような将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与も企業にとっての履行義務を生じさせます(IFRS/BC 92)。 

 

顧客に財又はサービスを移転しない活動

企業は,契約を履行するために独立の活動を行うことが必要であっても,それにより財又はサービスが顧客に移転しない活動を履行義務として識別してはなりません。例えば,多くのサービス契約では,サービスを提供する企業が契約をセットアップするために多額の費用を要する種々の契約管理活動を行うことがありますが,当該活動によりサービスが顧客に移転しませんので,そのような活動は履行義務ではありません(指針4,IFRS/BC 93)。 

 

☞企業は,別個の財又はサービスを識別するため,契約における約束の目的となる財又はサービスに着眼します。 

 

3.別個の財又はサービスの原則

 

別個の財又はサービスの原則

履行義務は,一方では,最低限,個々の財又はサービスが顧客に便益を提供し得る,すなわち別個となり得るという特性を備えていなければなりません。この特性を備えないものは,財又はサービス(資産)かどうか疑念が生じ,それを区分して会計処理すれば,財務諸表利用者にとって目的適合性のない情報となるおそれがあるからです(IFRS/BC 97)。 

他方で,財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束は,契約における約束として他と区分して識別できるという特性を備えていなければなりません(IFRS/BC 94,102)。この特性を備えないものに区分して会計処理すれば,企業が顧客との契約における約束を履行することを忠実に描写しない情報となるおそれがあるからです。例えば,建設型又は製造型の契約では,別個となり得る多くの財又はサービス(さまざまな資材,労働力及びプロジェクト管理サービス)を顧客に移転しますが,異なる時期に移転される別個となり得る財又はサービスをすべて区分して会計処理することは,多くの契約にとって実務的ではなく,当該契約における企業の履行の忠実な描写にならないおそれがあります。 

そこで,本基準は,企業が,約束した財又はサービスを,顧客への移転を忠実に描写する収益認識のパターンとなる方法で実務的に区分するため,“別個の財又はサービス”という概念を採用しています(IFRS/BC 94,95)。

 

別個の財又はサービスの概念

本基準は,「別個のものである(distinct)」という用語の意味(通常の意味では,異なった,区分された,あるいは類似していないものを示します。)を明確化し,次の要件の両方を満たす場合に“別個のもの”と判定するものとしています(第31項,IFRS/BC 95,96)。 

a 個々の財又はサービスの特性(第31項(a))

当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて,顧客が便益を享受することができること。すなわち,当該財又はサービスが別個のものとなり得ること。

b 契約における約束の区分(第31項(b)) 

当該財又はサービスを顧客に移転する約束が,契約に含まれる他の約束と区分して識別できること。すなわち,当該財又はサービスが契約の観点において別個のものであること。

 

☞企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスが,①個々の財又はサービスの特性と②契約における約束の区分に関する両方の要件を満たすときは“別個のもの”として区分することにより,また,いずれかの要件を満たさないときは束ねることにより,別個の財又はサービス(の束)を識別します。

 

4.個々の財又はサービスの特性

 

概要

顧客に約束している財又はサービスは,最低限,個々の財又はサービスが顧客に便益を提供し得る,すなわち別個のものとなり得るという特性を備えていなければならず,それ以上に細分化した会計単位を設定してはなりません。

 

要件

当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて,顧客が便益を享受することができること(第31項(1))

 

要素

顧客がその財又はサービスから便益を得ることができること

顧客が,①財又はサービスを使用,消費,あるいは廃棄における回収額より高い金額による売却ができる場合,又は②経済的便益を生じさせるその他の方法による財又はサービスの保有ができる場合には,顧客がその財又はサービスから便益を享受することができます(指針5)。

当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源と組み合わせて,便益を享受することができること

容易に利用できる資源とは,企業又は他の企業が独立して販売する財又はサービス,あるいは,顧客が企業からすでに獲得した資源(企業が契約に基づきすでに顧客に提供している財又はサービスを含みます。),若しくは他の取引又は事象からすでに獲得した資源をいいます(第117項)。

顧客が当該財又はサービスから便益を享受することができるかどうかは,顧客が当該財又はサービスを使用する可能性のある方法ではなく,当該財又はサービスそのものの特性を基礎として評価します。したがって,顧客が企業以外の源泉から容易に利用できる資源を獲得することを妨げる契約上の制限をすべて無視して評価します(IFRS/BC 100)。

 

指標

企業が特定の財又はサービスを通常は独立に販売するという事実により,顧客が当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源を組み合わせて便益を享受することが示される可能性があります(第117項)。

 

☞企業は,契約における約束の目的となる財又はサービスが,顧客が当該財又はサービスから単独で,あるいは顧客が容易に利用できる他の資源と組み合わせて便益を享受することができるものでないときは,他の財又はサービスと束ねない限り,別個の財又はサービスとして識別できません。

 

5.契約における約束の区分

 

概要

個々の財又はサービスが別個のものとなり得る(第31項(1)の要件を満たす)としても,当該契約において約束された財又はサービスを顧客に移転するという企業の履行を忠実に描写するため,契約における約束として他と区分して識別できない単一の企業の履行により移転する複数の財又はサービス(の束)は,分離せずに会計単位を設定しなければなりません。

 

要件

当該財又はサービスを顧客に移転する約束が,契約に含まれる他の約束と区分して識別できること(第31項(2))

 

分離可能なリスク

本基準は,IFRS第15号と同様に,財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約の中の他の約束と区分して識別可能かどうかの評価の基礎として“分離可能なリスク”の概念を用いています。この概念は,「束の中の個々の財又はサービスは,それらの約束した財又はサービスのうちの1つを顧客に移転する義務を履行するために企業が引き受けるリスクが,その束の中の他の約束した財又はサービスの移転から分離不能なリスクである場合には,別個のものではない」と評価することに役立ちます。分離不能なリスクがあるために別個のものではないと評価するときは,多くの場合,別個のものとなり得る財又はサービスが,企業が契約における約束を履行する過程において結合又は改変されるために,それらの財又はサービスの単純な合計よりも価値の大きい(又は実質的に異なる)複合された財又はサービスの別個の束を移転することを企業が約束している状況を示しています。

本基準は,“分離可能なリスク”という基本原則に基づき,指針6(1)~(3)の補助的諸要因を掲げ,特定の契約又は業界への適用可能性を高めています(IFRS/BC 103~106)。

 

指標

財又はサービスを顧客に移転するという企業の約束が,契約に含まれる他の約束と区分して識別できないことを示す要因には,例えば,次のものが含まれますが,これらに限定されません(指針6)。また,これらの諸要因は相互に排他的なものではなく,複数の要因が該当する場合もあります(IFRS/BC 106)。

 

当該財又はサービスをインプットとして使用し,契約において約束している他の財又はサービスとともに,顧客が契約した結合後のアウトプットである財又はサービスの束に統合するという重要なサービスを提供していること(指針6(1))

主に建設業界において,企業が重要な統合サービス(例えば,さまざまな建設作業の管理と調整)を提供する状況では,顧客に対する企業の約束の相当部分が,個々の財又はサービス(例えば,協力業者が行う作業)が契約の目的とされた結合後のアウトプット(例えば,建設)に組み込まれること(例えば,建設の設計・仕様に従って行われること)を確保することにあり,個々の財又はサービスは,単一のアウトプットの製造・引き渡しのためのインプットにすぎず,それらの移転のリスク(例えば,作業の統合に関連したリスク)は分離不能です(IFRS/BC 107)。

 

当該財又はサービスの一つ又は複数が,契約において約束している他の財又はサービスの一つ又は複数を著しく修正する又は顧客仕様のものとするか,あるいは他の財又はサービスによって著しく修正される又は顧客仕様のものにされること(指針6(2))

主にソフトウェア業界において,ある財又はサービス(例えば,システム統合サービス)が契約の中の他の財又はサービス(例えば,既存のソフトウェア)を大幅に改変又はカスタマイズする場合は,それぞれの財又はサービスは,契約の目的とされた結合後のアウトプット(例えば,システム統合)を作り出すために一緒に集められているインプットにすぎず,それらの移転のリスク(例えば,システム統合に関連したリスク)は分離不能です(IFRS/BC 109,110)。

 

当該財又はサービスの相互依存性又は相互関連性が高く,当該財又はサービスのそれぞれが,契約において約束している他の財又はサービスへの一つ又は複数により著しく影響を受けること(指針6(3))

この要因は,企業が重要な統合サービスを提供しているのかどうか(指針6(1))や,財又はサービスが著しく修正され又は顧客仕様にされているかどうか(指針6(2))が不明確な場合に,個々の財又はサービスが契約に含まれる他の財又はサービスと区分して識別できない場合を判定するためのものです(指針109,IFRS/BC 111)。この要因には,例えば,企業が当該財又はサービスのそれぞれを独立して移転することにより約束を履行することができないために,複数の財又はサービスが相互に著しい影響を受ける場合があります(指針109)。

それぞれの財又はサービスの相互依存性や相互関連性のレベルを考慮するにあたって,契約履行のプロセスの観点から,契約に含まれるさまざまな財又はサービスの相互間に変化が生じるかどうかを考慮する必要があります。ある財又はサービスが機能において他の財又はサービスに依存していたとしても,それぞれの財又はサービスを移転する約束を互いに独立に履行できる場合には,それらの財又はサービスは別個のものです。

ある財又はサービスが契約に含まれる他の財又はサービスへの相互依存性又は相互関連性が高いために,顧客が契約に含まれる他の財又はサービスに重大な影響を与えずに,ある財又はサービスを購入するかどうかの選択ができない場合は,それぞれの財又はサービスは,契約の目的とされた結合後のアウトプットを作り出すために一緒に集められているインプットにすぎず,それらの移転のリスクは分離不能です。

 

☞企業は,たとえ個々の財又はサービスが別個のものとなり得るとしても,分離不能なリスクがあるために契約に含まれる他の約束と区分して識別できない複数の財又はサービスは,契約における約束として束ねない限り,別個の財又はサービスとして識別できません。 

投稿者: 片山法律会計事務所