連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

取引価格の変動

 

2017年12月7日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 7ページ

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「取引価格の変動」 目次と概要

 

1.Step4-② 取引価格の変動

 

Step4「契約における履行義務に取引価格を配分する」では,企業は,契約における取引開始日において,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して取引価格を配分しますが,その後に取引価格が変動したときは,独立販売価格の事後的な変動を考慮せず,契約における取引開始日と同じ基礎により,それぞれの履行義務に対して取引価格の変動を配分しなければなりません(第71項)。

取引価格の事後的な変動のうちすでに充足した履行義務に配分された額については,取引価格が変動した期の収益の額を修正する必要があります(第71項)。

契約変更によって生じる取引価格の変動は,契約変更に関する本基準第25項~第28項に従って処理します。契約変更が本基準第27項の要件を満たさず,独立した契約として処理されない場合は,①取引価格の変動が契約変更の前に約束された変動対価の額に起因し,当該契約変更を本基準第28項(1)に従って処理している場合には,取引価格の変動を契約変更の前に識別した履行義務に配分し,②契約変更が本基準第28項(1)に従って処理されない場合には,取引価格の変動を契約変更の直後に充足されていない又は部分的に充足されていない履行義務に配分します(第73項)。

 

2.取引価格の事後的な変動

 

取引価格の変動の理由

不確実な事象の確定(不確実性の解消)や他の状況の変化などのさまざまな理由が,約束した財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を変動させます(第128項)。

例えば,企業が契約における取引開始日に見積った変動対価について,その後に不確実な事象が確定するに従って,又は不確実な事象に関する新たな情報が入手できるようになるに従って,企業が権利を得ると見込む対価の額が変動します(第52項,IFRS/BC 224)。

 

取引価格の事後的な変動の取り扱い

契約における取引開始日以後に取引価格が変動する場合には,次のいずれかの取り扱いが考えられます(IFRS/BC 225)。

① 当該変動を変動の発生時に純損益に認識する。

② 当該変動を履行義務に配分する。

このうち①の取り扱いは,約束した財又はサービスの顧客への移転を忠実に描写しない収益認識のパターンとなるおそれがあります。また,取引価格の変動により直ちにかつ全部を収益に認識することは実務において濫用のおそれがあります。取引価格の変動を収益とは区分して利得又は損失として表示したとしても,契約について認識される収益の合計額が,企業が契約に基づいて権利を得る対価の額と等しくならないため,結果として収益認識のパターンを維持することができません(IFRS/BC 226)。

②の取り扱いは,取引価格の事後的な変動を,契約における取引開始日における配分の方法論と整合的な方法で配分するものであり,変動対価の見積りの変更が,変動性のある支払条件に個別に関連している履行義務に配分されることが確保されます(IFRS/BC 286)。

そこで,本基準は,取引価格の変動を契約において識別されたすべての履行義務に配分することとし,すでに充足した履行義務に配分される取引価格は,直ちに収益を修正することとしています(IFRS/BC 227)。

 

☞企業は,契約における取引開始日以後に取引価格が変動したときは,それぞれの履行義務に対して取引価格の変動を配分し,すでに充足した履行義務に配分される取引価格は,直ちに収益を修正します。

 

3.取引価格の変動の会計処理

 

契約における取引開始日と同じ基礎による配分

企業は,取引価格の事後的な変動については,契約における取引開始日と同じ基礎により契約における履行義務に配分しなければなりません(第71項)。

本基準は,約束した財又はサービスの顧客への移転のパターンを忠実に描写するために,取引価格の事後的な変動を契約における取引開始日における配分と同じ方法で配分することにより,取引価格の変動以外の要因によって契約における取引開始日に設定した財又はサービスの顧客への移転のパターンに影響を与えないようにしています。

この原理は,取引価格の変動を除き,契約における取引開始日における配分の方法を変更してはならないことを意味します。そこで,本基準は,以下の点を注意的に明らかにしています(IFRS/BC 286)。

● 独立販売価格の事後的な変動を反映してはならない。

 企業は,契約における取引開始日以後の独立販売価格の変動を反映するために取引価格の再配分をしてはなりません(IFRS第88項)。

● 変動対価の配分の方法を変更してはならない。

 企業は,変動対価の配分に関する第69項の要件を満たす場合にのみ,取引価格の事後的な変動のすべてを関連する履行義務(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる一連の別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第72項)。

 

履行義務への配分と収益認識

企業は,取引価格の事後的な変動が配分されたそれぞれの履行義務が,未だ充足していないものか,すでに充足したものかによって,次のとおり会計処理を行います。

● 履行義務を未だ充足していないとき

 企業は,Step4「契約における履行義務に取引価格を配分する」において,取引価格の変動を当該履行義務に配分します。その後,Step5「企業が履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」において,当該履行義務を充足した時に又は充足するにつれて,当該履行義務に配分した取引価格を収益として認識します。

● 履行義務をすでに充足したとき

 企業は,Step4「契約における履行義務に取引価格を配分する」において,取引価格の変動を当該履行義務に配分し,直ちに(取引価格が変動した期に)収益を修正します(第71項)。

 

☞企業は,取引価格の変動を,契約における取引開始日と同じ基礎により(契約における取引開始日における配分の方法を変更せずに)履行義務に配分しなければなりません。そのため,企業は,契約における取引開始日以後の独立販売価格の変動を考慮したり,本基準第69項に従った変動対価の配分の方法を変更したりしてはなりません。

 

4.契約変更による取引価格の変動

 

本基準は,法律制度において成立した変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものとして,①契約の範囲が変更されるもの,②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものを「契約変更」と呼んで,第25項~第28項にその会計処理を定めています。

契約変更のうち②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものは,契約における取引開始日以後に取引価格を変動させます。しかし,契約変更に伴う契約の価格の変更は,契約における取引開始日以後の当事者間の独立の交渉から生じるのに対し,変動対価の見積りの変更は,契約における取引開始日に識別され合意された変数の変化から生じることから,契約変更から生じる取引価格の変動と変動対価の見積りの変更は,異なる経済事象の結果であるといえます(IFRS/BC 82)。

そこで,本基準は,契約変更によって生じる取引価格の変動は,Step1-④契約の変更のサブ・ステップにおいて,第25項~第28項に従って処理することとしています(第73項)。この契約変更の会計処理に加えて,Step4-②取引価格の変動のサブ・ステップで会計処理を行う必要はありません。

 

☞企業は,契約変更によって生じる取引価格の変動は,本基準第25項~第28項に従って契約変更の会計処理を行います。

 

5.契約変更後に生じる取引価格の変動

 

企業は,契約変更が本基準第27項の要件を満たさず,独立した契約として処理されない場合には,契約変更を行った後に生じる取引価格の変動は,取引価格の変動に関する本基準第71項・第72項を適用して,次のa又はbのいずれかの方法で配分しなければなりません(第73項)。

なお,企業が契約変更を本基準第27項に従って独立の契約として処理している場合には,既存の契約か,又は契約変更による新たな独立した契約のいずれかについて,取引価格の変動の会計処理(第71項・第72項)を行います。

a 取引価格の変動が契約変更の前に約束された変動対価の額に起因し,当該契約変更を本基準第28項(1)に従って処理している場合には,取引価格の変動を契約変更の前に識別した履行義務に配分する(第73項(1))

企業が,顧客が変動対価を約束する契約において取引開始日以後に契約変更を行い,本基準第28項(1)に従って既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理した後になって,契約変更の前に約束された変動対価に関連して取引価格が変動することがあります。

このような取引価格の変動は,契約変更の前に識別した履行義務に配分するか,契約変更の後に識別した履行義務に配分するかのいずれかが考えられますが,約束された変動対価と不確実性の解消が契約変更の影響を受けない場合には,取引価格の変更を契約変更の前に識別した履行義務に配分することが適切です(IFRS/BC 83)。

b 契約変更を本基準第28項(1)に従って処理されない場合には,取引価格の変動を契約変更の直後に充足されていない又は部分的に充足されていない履行義務に配分する(第73項(2))

aに該当しない取引価格の変動については,企業は,変更後の契約において識別した履行義務に配分します。

 

☞企業は,①本基準第28項(1)に従って既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理した後,契約変更の前に約束された変動対価の額に起因して取引価格が変動したときは,取引価格の変動を契約変更の前に識別した履行義務に配分しますが,②そうでない場合は,取引価格の変動を変更後の契約において識別した履行義務に配分します。 

投稿者: 片山法律会計事務所