2016年7月1日号(「公正な価格」を考える13号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

1 裁判上の公正な価格と非上場株式の非流動性ディスカウント
 従来より,裁判上の公正な価格は,このような各制度の立法趣旨に従い,売り手又は買い手の状況に応じて法的に評価すべきであり(裁判目的の評価),その評価結果は必ずしも取引上の適正な価格(取引目的の評価)とは同一にならないとする見解が支配的でした。
 特に非上場株式については,取引目的の評価にあたって,流動性が低いことを理由として30%程度の減価(非流動性ディスカウント)を行うことに異論はみられませんが,裁判目的の評価にあたって,これを行うべきかどうかが議論されていました。
2 最高裁平成27年3月26日決定の射程(適用範囲)
 この問題について,冒頭に紹介した平成27年3月26日付け最高裁決定は,「非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ,裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に,非流動性ディスカウントを行うことはできない」と判示しました。その理由として,①収益還元法は,類似会社比準法等とは異なり,市場における取引価格との比較という要素を含まないこと,②組織再編等の反対株主に株式買取請求権を保障する趣旨は,会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為に反対する株主に会社からの退出の機会を与え,退出を選択した株主には企業価値を適切に分配することにあることを挙げています。

 そうすると,この判例の射程は,“組織再編等にあたって非上場会社の株式の買取請求権を行使した反対株主と会社との間の裁判上の公正な価格を評価するにあたって,市場における取引価格との比較という要素を含まない評価法を採用する場合には非流動性ディスカウントを行うことができない”ということと考えられます。

 したがって,非上場会社の株式の算定評価にあたって非流動性ディスカウントを行うことができないという判旨は,①裁判所が,組織再編等にあたって株式買取請求権を行使した反対株主と会社との間の裁判上の「公正な価格」を決定するときに(裁判目的の評価),②マーケット・アプローチ以外の評価法を採用して算定評価する場合に適用されると考えられます。この最高裁決定は,取引上の適正な価格の算定評価について判示したものではなく,あくまで組織再編等に伴う価格決定申立制度における裁判上の公正な価格について判示したものであり,例えば譲渡等承認請求に伴う場合など他の価格決定申立制度にも適用するかどうかには言及していません。

投稿者: 片山法律会計事務所