裁判上の公正な価格は法的に評価すること
2016年7月11日号(「公正な価格」を考える14号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕
1 取引上の適正な価格と非上場株式の非流動性ディスカウント
最高裁平成27年3月26日決定にかかわらず,株式価値評価実務では,取引目的の評価にあたって,過去に実際に行われた取引の価格との比較という要素のないインカム・アプローチやネットアセット・アプローチであっても,現に行おうとする非上場株式の取引に着眼し,非流動性ディスカウントを行っています。非上場株式については,買い手を探すコスト,デューデリジェンス・株式価値算定に伴う専門家コスト,偶発債務・簿外債務等のリスクに対するディスカウントが生じますので(買い手が将来的に当該株式を売却しようとするときも同様です。),株主が非上場株式をインカム・アプローチやネットアセット・アプローチで算定評価した価値でキャッシュに交換することは著しく困難だからです。
上記最高裁決定は,あくまで裁判目的の評価について判示したものであって,このような取引目的の評価についてまで非流動性ディスカウントを否定したものではありません。
2 裁判上の公正な価格は法的に評価すること
以上のとおり,裁判上の公正な価格は,取引上の適正な価格と異なり,価格決定申立制度を設けた法の趣旨に基づいて法的に評価するものです(裁判目的の評価)。裁判上の公正な価格が法的な評価であることを前提として,これまでみてきた価値と価格との間の一定の関係(「価格の成立の範囲」)を基礎にして,裁判上の公正な価格の基本的な考え方や判断枠組みを考察していきます。
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