「公正な価格」の近時の動向
2016年3月1日号(「公正な価格」を考える1号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕
はじめに
企業の法務や財務を担当する方の中には,組織再編をしたり,非上場株式を譲渡したりするときに,公認会計士等の専門家に株価算定を求めたという経験がある方も少なくないと思います。しかし,「どうして専門家に株価算定を求めるのでしょうか?」と問われると,答えに窮し,疑問に直面することになるかも知れません。企業の担当者は,組織再編や株式譲渡にあたって,単に取引の相手方と株式の価格を交渉し,合意すればよいというものではなく,株式買取請求権などの会社法の手続や,適正な価格でないときの課税上の取り扱いなど税務面にも配慮しなければならず,株式の価格をめぐる問題は決して単純ではありません。
また,こうした分野に経験のある企業の担当者は「公正な価格」という言葉を耳にしたことがあると思います。近時では,組織再編の分野で株式の「公正な価格」が問題とされ,レックスホールディングス事件(平成21年5月29日),TBS事件(平成23年4月19日),テクモ事件(平成24年2月29日)などの最高裁判例が集積し,「公正な価格」の判断枠組みが明らかになりつつあります。直近では,非上場株式の「公正な価格」の評価にあたっていわゆる非流動性ディスカウント(株式に市場性がないことを理由とする減価)を行うことはできないとする平成27年3月26日付け最高裁決定が出ています。しかし,これらの決定理由の中には「シナジー」,「プレミアム」,「非流動性ディスカウント」などの用語や様々な表現が飛び交い,株式の価格や価値について,全体を通した体系的,統一的な説明がありませんので,多くの実務家や企業の担当者から分かりづらいと言う声をよく聴きます。
弁護士片山のブログでは,著書やセミナーにおける皆様からの反響や質問をフィードバックし,“「公正な価格」を考える”というテーマを連載し,そもそも株式の「価格」と「価値」はどのような関係にあるかや,会社法や税法との関係で「公正な価格」の位置づけを考察し,「公正な価格」の基本的な考え方と判断枠組みを解説していきます。
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