2016年6月11日号(「公正な価格」を考える11号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

1 株式の価格と種類
 これまでみてきたとおり,価格と価値との間には,「価格」が常に「売り手にとっての価値」以上,「買い手にとっての価値」以下で成立するという一定の関係があります。一物多価といわれる「価値」については,様々な概念や種類がありましたが,「価格」についても幾つかの種類があります。
 実務上,株式の価格が取り上げられる場面をみてみますと,主として次の3つの適正な価格を問題としていることがわかります。
(1) 取引上の適正な価格
 株式の取引・組織再編にあたって行う株式価値の算定評価(取引目的の評価)は,価格交渉・意思決定の目安とすることや,取締役らが注意義務を尽くして価格を交渉し,決定したことの根拠とし,株主に対する説明責任を担保することを目的としています。特に売主と買主との間に資本関係等による支配従属関係がある場合には,当事者間で価格交渉が期待できないため,適正な価格の成立を確保するための特別な手当てとして株式価値の算定評価が必要になります。
(2) 裁判上の公正な価格
 価格決定申立事件にあたって行う株式価値の算定評価(裁判目的の評価)は,裁判所が決定する公正な価格を主題とします。冒頭で紹介した最高裁決定は,この裁判上の公正な価格について判示したものです。
(3) 税務上の適正な価格
 株式の相続はもちろんですが,株式の取引にあたっても,財産評価基本通達に基づく株式の価額の算定評価(課税目的の評価)を行うことがありますが,これは,取引にあたってあらかじめ合意すべき価格と法人・個人の課税上の取り扱いを予測し,税務調査に備えることを目的としています。
2 裁判上の公正な価格の性質
 本ブログでは,3つの価格の種類のうち,裁判上の公正な価格について,これまでみてきた価値と価格との間の一定の関係(「価格の成立の範囲」)を基礎にして,その基本的な考え方や判断枠組みを考察していくものですが,冒頭に紹介した平成27年3月26日付け最高裁決定が,裁判上の公正な価格は,取引上の適正な価格と異なり,価格決定申立制度を設けた法の趣旨に基づいて法的に評価することを明らかにしています。

投稿者: 片山法律会計事務所