価格の成立範囲
2016年6月1日号(「公正な価格」を考える10号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕
1 価格の成立範囲
以上のとおり,価格と価値との間には,「価格」が常に「売り手にとっての価値」以上,「買い手にとっての価値」以下で成立するという一定の関係があります。そして,裁判所が決定する公正な価格は,売り手にとっての客観的な価値以上,買い手にとって客観的な価値以下になるはずです。この“売り手にとっての客観的な価値以上,買い手にとっての客観的な価値以下”の範囲を「価格の成立範囲」と呼んでいいでしょう。
2 組織再編における価格と価値との関係
取引対象が売り手の環境から買い手の環境に移転する組織再編では,「売り手にとっての価値」は“組織再編がない仮定での価値”と,「買い手にとっての価値」は“組織再編がある前提での価値”と言い換えることができます。そして,組織再編がない仮定での客観的な価値以上,組織再編がある前提での客観的な価値以下に「公正な価格」が存在すると考えられます。正のシナジーが生じる(価値が増加する)通常の組織再編のケースでは,この価格の成立範囲内で「公正な価格」を決定することは,増加価値(シナジー)を売り手と買い手の間で公正に配分することにほかなりません。では,この増加価値(シナジー)を売り手と買い手の間で“公正に配分する”ためには何を基準にしたらいいのでしょうか?
この問いを突き詰めていくと,売り手と買い手のシナジーへの貢献度合いを基準に配分するのが公平であるといえるでしょう。つまり,観念的には,全体の増加価値(シナジー)のうち,もともと売り手が保有していた対象事業に属する経営資源が貢献して価値が増加した部分は売り手に配分されるように,また,もともと買い手が保有していた経営資源が貢献した部分は買い手に配分されるような価格が「公正な価格」といえるのです。
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