2016年7月21日号(「公正な価格」を考える15号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

組織再編の対価の分類
 組織再編の対価は,「金銭その他の財産」(金銭等)であればよく,その種類は,一般に株式・種類株式・社債・新株予約権・新株予約権付社債やそれ以外の財産(金銭)に分類されます。
 しかし,価値と価格との間の一定の関係(「価格の成立の範囲」)を考察するためには,組織再編の対価自体が内在的に組織再編による価値の変動(シナジー効果)を反映するか否かの観点から分類することが重要になります。

 例えば,存続会社の株式を対価とする吸収合併の場合,消滅会社の株主は,組織再編の対価として存続会社の株式の交付を受けますが,吸収合併後もその存続会社の株式を保有すれば,取引対象となった消滅会社の事業や経営資源が,存続会社の事業や経営資源とのシナジーによって,組織再編後に将来的に生み出していく経済的便益を享受することになります。このように,存続会社(新設会社・承継会社・完全親会社)の株式・種類株式を対価とする組織再編では,組織再編の対価自体が内在的に組織再編による価値の変動(シナジー効果)を反映します。
 これに対し,現金を対価とする組織再編では,現金の交付を受けた取引の当事者ないしその株主は,その現金を保有しても,取引対象となった企業や事業,経営資源が組織再編後に将来的に生み出していく経済的便益を享受することはありません。このように,現金を対価とする組織再編では,組織再編にあたって取引の当事者がシナジー効果を適切に評価,配分して組織再編の対価の額を決定しない限り,組織再編の対価自体は,組織再編による価値の変動(シナジー効果)を反映することができません。
 前に,現金を対価とする事業譲渡を例にとって価値と価格の関係を説明しましたが,現金を対価とする組織再編では,組織再編の対価とシナジー効果を別々に考察することができるので,価値と価格の関係を比較的容易に理解することができます。

投稿者: 片山法律会計事務所