2016年11月11日号(「公正な価格」を考える26号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

「公正な価格」を考える2つの視点
 「公正な価格」が価格である以上,価格決定申立制度における実際の具体的な売り手を前提として考察する必要がありますが,売り手が少数株主であるという前提に立つと,「公正な価格」をどのように決定すべきかに関して,次の2つの問題が生じます。
(1) 組織再編によって生じる価値の変動を反映すべきか
 一つは,売り手である株主が,株主総会で組織再編などの議案に反対する議決権を行使しているため,現に行われた組織再編によって生じる増加価値(シナジー)その他価値の変動を「公正な価格」に反映させるべきかどうか,という問題です。この問題は,多くの組織再編では価値が増加するので,シナジーの価値増加分を反対株主にも配分すべきかどうか,というテーマで議論されることもあります。売り手である株主は,現に行われた組織再編に反対したわけですから,それによって生じる増加価値又は減少価値を反映させない組織再編前の株式の交換価値を補償すれば足りる,又は補償する必要があるとも考えられるのです。しかし,この問題を考えるにあたっては,売り手である株主が,①組織再編を行うこと自体に反対したのか,②組織再編対価(比率)が不公正であることを理由に反対したのかを分けて考察する必要があります。
(2) 実際に合意された組織再編対価(比率)を採用すべきか
 もう一つは,組織再編などの手続において実際に対象会社と買収会社との間で合意に至った組織再編対価(比率)を,売り手である少数株主と会社(対象会社又は買収会社)との間の株式買取請求に関する「公正な価格」として採用してよいかどうか,という問題です。組織再編では,対象会社と買収会社との間で企業価値を評価,算定し,条件交渉を行い,組織再編対価(比率)の合意に至ります。そのため,裁判所が「公正な価格」を決定しようとするときには,対象となる株式について,既に対象会社と買収会社によって評価,算定された企業価値や合意に至った組織再編対価(比率)が存在していることが多いので,これらの価値や価格を「公正な価格」として採用してよいかどうかという現実問題があります。しかし,この問題を考えるにあたっては,対象会社と買収会社が独立の経済主体として価格を交渉したかなど公正な手続により組織再編対価(比率)の合意に至っているかどうかを吟味する必要があります。

投稿者: 片山法律会計事務所