2016年11月21日号(「公正な価格」を考える27号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

売り手である株主が組織再編に反対する理由
 現に行われた組織再編によって生じる増加価値(シナジー)その他価値の変動を「公正な価格」に反映させるべきかどうか,という問題を考えるにあたっては,売り手である株主が,①組織再編を行うこと自体に反対したのか,②組織再編対価(比率)が不公正であることを理由に反対したのかを分けて考察する必要があります。
 組織再編によって客観的な企業価値が毀損する場合には,売り手である株主は,組織再編を行うこと自体に反対しているとみられますので,それによって生じる減少価値を反映させない組織再編前の株式の交換価値を補償する必要があります。旧商法では,法文自体が「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ公正ナル価格」と定めていましたので,このように解釈する根拠がありました。そして,現会社法下においても,組織再編によって客観的な企業価値が毀損する場合には,売り手である反対株主には,組織再編前の株式の交換価値を補償する必要があると考えられます。
 これに対し,組織再編によって客観的な企業価値が増大する場合には,売り手である株主は,組織再編対価(比率)が不公正であることを理由に反対しているとみられますので,それによって生じる増加価値を反映させた上で,仮に公正な組織再編対価(比率)を定めていたとすれば,反対株主が得られたであろう株式の交換価値を補償する必要があると考えられます。このような考え方について,売り手である株主は,現に行われた組織再編に反対したのだから,それによって生じる増加価値を配分する必要がないという批判は当たりません。組織再編によって客観的な企業価値が増大する場合には,株主は,組織再編を行うこと自体に反対したのではなく,組織再編対価(比率)が不公正であるという理由で反対したとみるべきだからです。現会社法下では,旧商法が定めていた「決議ナカリセバ其ノ有スベカリシ」という法文の表現による制約がなくなりましたので,このような解釈ができるようになりました。

投稿者: 片山法律会計事務所