2017年2月1日号(「公正な価格」を考える34号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

多数株主と少数株主との利益相反関係がある会社の「公正な価格」
 このような考え方に沿い,最近に至って,注目すべき最高裁決定が出ました。
 平成28年7月1日付け最高裁決定は,子会社の発行済株式の70%以上を保有する親会社が子会社を完全子会社化することを計画し,子会社の全株式を一定の買付価格で公開買付けを行い,取得できなかった株式を全部取得条項付種類株式とし,買付価格と同額で取得したところ,反対株主が価格決定の申立をした事案について,「多数株主が株式会社の株式等の公開買付けを行い,その後に当該株式会社の株式を全部取得条項付種類株式とし,当該株式会社が同株式の全部を取得する取引において,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられ,公開買付けに応募しなかった株主の保有する上記株式も公開買付けに係る買付け等の価格と同額で取得する旨が明示されているなど一般に公正と認められる手続により上記公開買付けが行われ,その後に当該株式会社が上記買付け等の価格と同額で全部取得条項付種類株式を取得した場合には,上記取引の基礎となった事情に予期しない変動が生じたと認めるに足りる特段の事情がない限り,裁判所は,上記株式の取得価格を上記公開買付けにおける買付け等の価格と同額とするのが相当である。」と判示しました。
 前掲平成24年2月29日付け最高裁決定では,「相互に特別な資本関係がない会社間において」という限定下で,「株主の判断の基礎となる情報が適切に開示された上で適法に株主総会で承認されるなど一般に公正と認められる手続」を踏んでいるときは,原則として,実際に合意された組織再編対価(比率)を「公正な価格」とみる旨を判示していました。
 上記平成28年7月1日付け最高裁決定は,「多数株主又は上記株式会社と少数株主との間に利益相反関係が存在する」場合であっても,「一般に公正と認められる手続」を踏んでいるときは,原則として,実際に合意された組織再編対価(比率)を「公正な価格」とみる旨判示したという意義があり,かつ,完全子会社化を目的に行う公開買付け及び全部取得条項付種類株式の取得のケースにおける「一般に公正と認められる手続」の事例判断を示したことが注目されます。

投稿者: 片山法律会計事務所