2017年1月21日号(「公正な価格」を考える33号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

株主の利害を捨象し,多数決に支配されない企業自体の経済的合理性に従った価格
 「公正な価格」の最も重要な条件となる“独立当事者間価格”は,要するに,株主の利害を捨象し,多数決に支配されない企業自体の経済的合理性に従った価格,を意味します。
 例えば,親会社(買い手)と子会社(売り手)の合併や,経営陣(買い手)による株主(売り手)からの株式取得(MBO)などでは,株主の利害が絡み,多数決に支配されて企業自体の経済的合理性に沿わない歪んだ価格が成立するおそれがあります。売り手(子会社)の過半数の株式を有する親会社が買い手であれば,買い手はもちろん,売り手(子会社)の意思決定も親会社である買い手の思い通りになるわけですから,価格交渉が期待できません。同じように,MBOでは,対象会社の経営陣が買い手(買収会社)の過半数の株式を有するなど対象会社の株式を低い価格で取得する利益を有しており,この経営陣が公開買付けの価格の決定に影響力を持つような場合には,対象会社の株式を高い価格で売却する少数株主の利益を擁護することが期待できません。
 このようにみてくると,価格の公正性を害する要因は,売り手と買い手が別の法人格を有していても,株主の多数決によって意思決定を行うために,その支配株主(多数株主)にも着眼すると,売り手ないしその支配株主と買い手ないしその支配株主が同一人であって価格交渉が期待できないところにあることがわかります。

 言い換えれば,企業が,株主の利害を捨象し,株主による多数決に支配されずに企業の利害だけを考慮して意思決定した価格が“独立当事者間価格”にほかなりません。このような意思決定は,概ね少数株主の立場で行う意思決定であるといってもよく,取締役が忠実義務に基づき,企業自体(すなわち少数株主)の利益を擁護する公正な手続に従って株主総会の意思決定を図ることによって実現できる可能性があります。

投稿者: 片山法律会計事務所