2017年2月21日号(「公正な価格」を考える36号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

1 「公正な価格」の判断枠組み
 以上にみてきたとおり,「公正な価格」の判断枠組みについて,最高裁は,①組織再編行為によりシナジー効果その他の企業価値の増加が生じない場合(企業価値を毀損する組織再編)は,当該株式買取請求がされた日における,組織再編行為を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有していたであろう価格(ナカリセバ価格)とし,②それ以外の場合(企業価値が増大する組織再編)は,組織再編対価が公正なものであったならば,当該株式買取請求がされた日において,その株式が有していると認められる価格としています(前掲平成24年2月29日付け最高裁決定)。
2 「公正な価格」の基準日
 「公正な価格」を決定する基準時については,株主総会承認決議時とする見解と,株式買取請求時とする見解が分かれていましたが,これが争われた事件の最高裁平成23年4月19日決定によって,株式買取請求時とすることで確立しました。
 理論的には,反対株主が株式買取請求をした時点で,反対株主と会社との間に売買契約が成立したのと同様の法律関係が生じ,反対株主は,会社の承諾を得ない限り,株式買取請求を撤回できなくなることが理由とされています。特に上記①のいわゆる「ナカリセバ価格」は,株主総会承認決議を基準時とするのが自然ではありますが,株式買取請求の期間は,会社法上,組織再編の効力発生日の20日前から前日までとされており,株主総会承認決議から相当の期間経過している場合も考えられます。その場合,反対株主が,株主総会承認決議時からの株価の推移をみてから株式買取請求をするかどうかを決定することは,株価変動リスクを回避し,投資機会を得ることになって相当ではないからです。
 なお,「公正な価格」の基準日は,組織再編の効力発生日ではありません。反対株主は,株式買取請求をした以上,それを撤回することができないにもかかわらず,それ以降の株価の変動リスクを負う理由がないからです。

投稿者: 片山法律会計事務所