2017年3月1日号(「公正な価格」を考える37号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

1 「公正な価格」の株価参照日(期間)
 「公正な価格」の基準日は,いくつか留意点があります。
 まず,株式買取請求者によって,株式買取請求の日が異なるので,決定される「公正な価格」も異なることがあります。特に上場株式は,日々価格が変動するので,株式買取請求の日が異なれば,「公正な価格」も異なってきます。
 また,「公正な価格」の基準日と,裁判所が「公正な価格」の決定にあたって考慮する「株価参照日」や「株価参照期間」は異なります。

 例えば,上場株式について,組織再編行為を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有していたであろう価格(ナカリセバ価格)を決定するときは,組織再編についての適時開示やプレスリリースによって組織再編を行う(可能性が高い)という情報が織り込まれた後の市場株価を直接参照することができません。そのため,株式買取請求日よりも,かなり前の日又は期間の市場株価を参照します。そして,株価参照日(期間)から基準日までの株価の変動のうち,組織再編を行う(可能性が高い)という情報を原因とする株価変動の影響を排斥し,それ以外の一般的な市場株価の変動要因を織り込んで,基準日の株価に時点補正する必要があります。
2 時点補正
 株価参照日(期間)が基準日と異なる場合には,原則として,株価参照日の株価から基準日の株価に時点補正をする必要があります。

 時点補正の方法としては,情報開示というイベント後の株価の変動のうち,市場の一般的価格変動要因とイベント要因を定量的に分析する手法(イベント分析)があります。その標準的な方法として,回帰分析という変数間の相関関係を分析し,定量化する統計的手法があります。

投稿者: 片山法律会計事務所