契約の結合と変更(公開草案版)
連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)
契約の結合と変更
2017年9月19日 弁護士・公認会計士 片山智裕
A4小冊子 11ページ
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「契約の結合と変更」 目次と概要
1.Step1-③ 契約の結合/Step1-④ 契約の変更
契約における取引開始日に通常行うStep1「顧客との契約を識別する」は,Step1-①契約の成立とStep1-②契約の識別のサブ・ステップでほぼ終了ですが,本基準は,同一の顧客(又は顧客の関連当事者)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約が一定の要件に該当するときに単一の契約とみなして処理すること(契約の結合)を義務づけていますので(第24項),企業は,Step1-③契約の結合において,この要件に該当しないかどうかを常に確認する必要があります。
また,企業が顧客との間で契約(既存の契約)を締結した後に,同じ顧客との間で変更契約を締結することがあります。この場合も,企業は,Step1-①契約の成立と②契約の識別のサブ・ステップで新たな変更契約を識別しますが,それにより,企業が既存の契約に従って既に識別していた履行義務の内容や,既に算定,配分していた取引価格に影響を及ぼすことがあります。本基準は,変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものを「契約変更」と呼び,その取り扱いを定めています(第25項~第28項)。そこで,企業は,顧客との間で変更契約を識別したときは,Step1-④契約の変更において,会計処理に影響を及ぼすかどうかを確認し,会計処理に影響を及ぼすときは,本基準に従って処理する必要があります。
2.Step1-③ 契約の結合(概要)
法律制度における契約では,当事者(企業)が相手方(顧客)の同意なく,複数の契約の条件を自由に結合して履行したり,請求したりすることはできません。しかし,以下のようなケースでは,法形式上の複数の契約に従って区分して処理するか,経済的実態に従って一つの契約として処理するかによって収益認識の時期及び金額が異なる可能性があります(第111項,IFRS/BC 71)。
● 価格の相互依存性
ある契約における財又はサービスの対価がその他の契約における財又はサービスの対価に依存する場合(価格の相互依存性),それらの契約を区分して会計処理すると,各契約の履行義務に配分される対価の額は,顧客に移転される財又はサービスの価値(経済的実態)を忠実に描写しないおそれがあります(IFRS/BC 73)。
● 法形式の選択可能性
また,法形式上,複数の契約で財又はサービスの移転を約束しているものの,仮にそれらを一つの契約で約束したものとして,履行義務の識別に関する本基準の定めを適用すると,単一の履行義務として識別される場合(法形式の選択可能性),実質的に同一の経済的実態がありながら,企業が契約を法形式上どのように構成するかによって本基準の適用結果が異なってしまう可能性があります(IFRS/BC 68,73)。
そこで,本基準は,経済的実態を反映させるという会計基準の目的から,企業に対し,一定の要件を満たす複数の契約については,法形式上の契約に従って区分して処理することを容認せず,単一の契約とみなして処理することを義務づけています(第24項,IFRS/BC 73)。
3.契約の結合の要件
本基準は,以下の要件をすべて満たすときに,単一の契約とみなして処理することを義務づけています(第24項)。
a 企業が同一の顧客(又は顧客の関連当事者)との間で複数の契約を締結したこと
b 企業が同時又はほぼ同時に複数の契約を締結したこと
c 次の要件のいずれかに該当すること
ⅰ 当該複数の契約が同一の商業的目的を有するものとして交渉されたこと
ⅱ 1つの契約において支払われる対価の額が,他の契約の価格又は履行により影響を受けること
ⅲ 複数の契約において約束した財又はサービスが, 本基準第29項から第31項に従うと単一の履行義務となること
☞本基準は,経済的実態を反映させるという会計基準の目的から,同一の顧客(その関連当事者を含む。)との間で同時又はほぼ同時に締結した複数の契約に,①価格の相互依存性又は②法形式の選択可能性を示す一定の関係がある場合には,単一の契約とみなして処理することを義務づけています。
4.代替的な取扱い
● 契約に基づく収益認識の単位及び取引価格の配分
次の両方の要件を満たすときは,複数の契約を結合せず,個々の契約において定められている顧客に移転する財又はサービスの内容を履行義務とみなし,個々の契約において定められている当該財又はサービスの金額に従って収益を認識することができます(指針100)。
a 顧客との個々の契約が当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められること
b 顧客との個々の契約における財又はサービスの金額が合理的に定められていることにより,当該金額が独立販売価格と著しく異ならないと認められること
● 工事契約及び受注制作のソフトウェアの収益認識の単位
工事契約又は受注制作のソフトウェアについて,当事者間で合意された実質的な取引の単位を反映するように複数の契約(異なる顧客と締結した複数の契約や異なる時点に締結した複数の契約を含みます。)を結合した際の収益認識の時期及び金額と当該複数の契約について本基準第24項及び第29項の定めに基づく収益認識の時期及び金額との差異に重要性が乏しいと認められる場合には,当該複数の契約を結合し,単一の履行義務として識別することができます(指針101,102)。
5.Step1-④ 契約の変更(概要)
● 契約変更
法律制度における契約は,いったん成立した以上,その当事者間でその契約(既存の契約)の内容を変更する契約(変更契約)が成立しない限り,変更されることはありません。契約を変更するためには,既存の契約とは別に,当事者間で新たに契約(変更契約)が成立しなければなりません(第112項)。
企業は,新たな変更契約について,Step1-①契約の成立と②契約の識別のサブ・ステップを行いますが,変更契約を識別することによって,企業が既存の契約に従って既に識別していた履行義務の内容や,既に算定,配分していた取引価格に影響を及ぼすことがあります。
そこで,本基準は,法律制度において成立した変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものとして,①契約の範囲が変更されるもの,②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものを「契約変更」と呼んで(第25項),その会計処理を定めています。
● 契約変更の会計処理
本基準は,企業が契約変更により,別個の財又はサービスの追加により契約の範囲が拡大する場合において,変更される契約の価格が,追加的に約束した財又はサービスに対する独立販売価格を反映して増額されるときは,契約の範囲の拡大部分を既存の契約から独立した契約として処理し(第27項),それ以外の契約変更については,(a)未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものであるときは,既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理し,(b)別個のものではなく,契約変更日において部分的に充足されている単一の履行義務の一部を構成するときは,既存の契約の一部であると仮定して処理しなければならないと定めています(第28項)。
6.契約変更の要件と会計処理
本基準は,契約変更について,変更後の契約における企業の権利及び義務を忠実に描写するという全体的な目的から,以下の3通りの会計処理を定めています(IFRS/BC 76)。
a 独立した契約として処理する(第27項)
要件(次の両方の要件を満たすこと)
ⅰ 別個の財又はサービスの追加(契約の範囲の拡大)
ⅱ 変更される契約の価格が,追加的に約束した財又はサービスに対する独立販売価格に特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増額されること
増額分が追加の財又はサービスの契約変更時の独立販売価格そのものでなくとも,例えば,新規顧客に販売する際には生じるであろう販売関連コストの分だけ値引きしているなど,具体的な契約の状況を反映するために独立販売価格が適切に調整されているときは,独立販売価格を反映して価格設定されていると評価できます(第113項)。
会計処理
企業は,契約変更を独立した契約として会計処理しなければなりません。このような場合は,追加的な財又はサービスに関して,他の顧客が新たに独立した契約を締結する場合と,既存の顧客がこのような要件を満たす契約変更を行う場合との間には経済的差異がないからです(IFRS/BC 77)。
b 既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理する(第28項(1))
要件(次の両方の要件を満たすこと)
ⅰ 独立した契約として処理する要件(第27項)を満たさないこと
ⅱ 未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものと識別されること
財又はサービスが別個か否かは,本基準第31項,すなわち別個の財又はサービス(の束)という会計単位によって判定します。既存の契約において,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスとして(第29項(2))単一の履行義務を識別しているからといって,契約変更日以前に移転した財又はサービスと,未だ移転していない財又はサービスとが別個のものでないとは限りません。
会計処理
企業は,契約変更を,既存の契約を解約して新しい契約を締結したものと仮定して処理しなければなりません。このような場合,契約変更後に支払われる対価の額が既存の契約の価格又は履行により影響を受けている可能性がありますが,本基準は,契約変更は既存の契約の締結後に生じた新たな事実及び状況に基づいて交渉されており,未だ移転していない財又はサービスが過去に移転したものと別個である以上,過去に移転したものとは区別して将来に向かって処理すべきであること,このような場合にまで,下記cの既存の契約の一部と仮定して実質的に過去に充足した収益の修正をもたらす複雑な処理(累積的キャッチアップベースの処理)をすべきではないことを理由としています(IFRS/BC 78)
c 既存の契約の一部であると仮定して処理する(第28項(2))
要件(次の両方の要件を満たすこと)
ⅰ 独立した契約として処理する要件(第27項)を満たさないこと
ⅱ 未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものと識別されないこと(第28項(1)の要件を満たさないこと)
会計処理
企業は,契約変更を既存の契約の一部であると仮定して処理しなければなりません。本基準は,未だ移転していない財又はサービスは,過去に移転したものとは別個ではなく,契約変更日現在で部分的に充足されている単一の財又はサービス(の束)の一部を構成する以上,過去に移転したものとの関連性を遮断して新しい契約として処理すべきではないこと,当該履行義務の取引価格及び完全な履行に向けての進捗度の測定を見直すことが,建設業界では特に目的適合性があり,一般的に受け入れられていることを理由としています(IFRS/BC 80)
d 未だ移転していない財又はサービスが,契約変更日前に移転した財又はサービスと別個のもの(第28項(1))と既存の単一の履行義務の一部(第21項(b))との組合せである場合
契約変更が独立した契約として処理する要件(第27項)を満たさず,未だ移転していない財又はサービスが,契約変更日前に移転した財又はサービスと別個のもの(第28項(1))と既存の単一の履行義務の一部(第28項(2))との組合せである場合は,企業は,契約変更が変更後の契約における未充足(部分的な未充足を含む。)の履行義務に与える影響を,第28項(1)と(2)の方法の目的を考慮して処理しなければなりません。
☞企業は,①別個の財又はサービスの追加により契約の範囲が拡大し,②変更される契約の価格が,追加的に約束した財又はサービスに対する独立販売価格を反映して増額されるときは,契約変更を独立した契約として処理します。それ以外の契約変更は,(a)未だ移転していない財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものであるときは,既存の契約を解約して新しい契約を締結したと仮定して処理し,(b)別個のものでないとき(同じ財又はサービス(の束)の一部であるとき)は,既存の契約の一部であると仮定して処理します。
7.代替的な取扱い
契約変更による財又はサービスの追加が既存の契約内容に照らして重要性が乏しい場合には,当該契約変更について処理するにあたり,本基準第28項(1)又は(2)のいずれの方法も適用することができます(指針91)。
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