連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)

 

現金以外の対価と顧客に支払われる対価

 

2017年11月15日 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 7ページ

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

このページでは,その要約のみ配信しております。

NEWSLETTER11-2 

ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。

お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。

また,事務所セミナーなどのご案内をご郵送することもあります。

 

 

「現金以外の対価と顧客に支払われる対価」 目次と概要

 

1.Step3-③ 現金以外の対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,契約において約束された対価が現金以外の対価である場合は,企業は,当該対価を時価により算定する必要があります(第56項)。

 

2.現金以外の対価の測定

 

現金以外の対価の時価

企業は,財又はサービスと交換に顧客から現金を受け取る場合,流入する資産の価値すなわち受け取る現金の額で取引価格を測定しますので,これと整合させるため,企業が財又はサービスと交換に顧客から現金以外の対価(財又はサービスの形態のほか,金融商品や有形固定資産の形態の場合もあります。)を受け取る場合も,流入する資産の価値すなわち現金以外の対価の時価で取引価格を測定すべきです(IFRS/BC 248)。

 

現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合

企業が現金以外の対価の時価を合理的に見積ることができない場合には,企業は,当該対価と交換に顧客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として間接的に当該対価を測定しなければなりません(第57項)。

例えば,IFRS第2号「株式に基づく報酬」で,企業は,受け取った財又はサービスの公正価値を信頼性をもって見積ることができない場合には,付与した資本性金融商品の公正価値を基礎としてそれらを間接的に測定することとしています。このように,受け取る資産と交換に引き渡す資産の公正価値の方が高い信頼性をもって見積ることができる場合は,その公正価値を基礎として間接的に測定することは,他の会計基準と整合的であるといえます(IFRS/BC 249)。

 

☞企業は,顧客が現金以外の対価を約束している場合,当該対価の時価を取引価格として測定する必要があります。もし,当該対価の時価を合理的に見積ることができない場合には,企業は,当該対価と交換に顧客に約束した財又はサービスの独立販売価格を基礎として間接的に当該対価を測定します。

 

3.変動対価の見積りの制限の適用

 

現金以外の対価の変動性

現金以外の対価の時価の見積りは,企業が現金で受け取る変動対価と同様に変動する可能性がありますが,その変動性には,次の両方があります(IFRS/BC 250,251)。

● 将来の事象の発生又は不発生によって変動する可能性

 現金以外の対価の受け取りに条件が付されている場合(例えば,業績に基づく割増として株式を受け取る企業の権利が将来の事象の発生又は不発生に左右される場合)。

● 現金以外の対価自体の価格又は価値の変動

 現金以外の対価自体の価格又は価値が変動する場合(例えば,対価である株式の1株当たりの価格が変動する場合)。

 

変動対価の見積りの制限の適用

企業は,現金以外の対価の時価が変動する理由が,株価の変動等,対価の種類によるものだけではない場合(例えば,企業が顧客との契約における義務を履行するにつれて時価が変動する場合)には,変動対価の見積りの制限に関する本基準第51項を適用しなければなりません(第58項)。

変動対価の見積りの制限に関する規律(本基準第51項・指針25,26)は,受け取る対価の種類が現金かそれ以外かにかかわらず,企業の履行に関連する同種の不確実性に適用すべきです。例えば,業績に基づく割増として株式を受け取る企業の権利の時価は,株式自体の価格又は価値の変動だけでなく,業績に基づく割増を受け取るかどうかの不確実性にも関連しています。本基準は,このように現金以外の対価の時価が変動する理由が企業の履行に関連する不確実性にもある場合には,時価の見積りにあたって,変動対価の見積りの制限(本基準第51項・指針25,26)を適用することとしています(IFRS/BC 252)。

 

☞企業は,現金以外の対価の時価が変動する理由が対価の種類によるもの(対価自体の価格又は価値の変動)だけでない場合には,変動対価の見積りの制限(本基準第51項)を適用する必要があります。

 

4.企業による契約の履行に資するための財又はサービス

 

顧客が企業による契約の履行に資するために財又はサービス(例えば,材料,設備又は労働)を拠出する場合には,企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を獲得するかどうかを判定しなければなりません(第59項)。

企業は,拠出された財又はサービスに対する支配を獲得する場合には,当該財又はサービスを,顧客から受け取る現金以外の対価として処理しなければなりません(第59項)。したがって,企業は,契約において約束された現金対価の額に,拠出された財又はサービスの時価を加算して取引価格を算定し,契約におけるそれぞれの履行義務に配分します。

これに対し,企業が拠出された財又はサービスに対する支配を獲得しない場合には,当該財又はサービスは依然として顧客が支配していますので,取引価格に含めません。

 

5.Step3-④ 顧客に支払われる対価

 

Step3「取引価格を算定する」において,企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して対価を支払う又は支払うと見込まれる場合には,当該対価を取引価格(収益)から減額する必要があります(第60項)。

ここにいう対価は,現金の額や顧客が企業に対する債務額に充当できる金額等であって,顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価でないものをいいます。

 

6.顧客に支払われる対価

 

顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価とは,企業が顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して支払う又は支払うと見込まれる対価であって,顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価でないものをいいます。

企業は,顧客に支払われる対価を,取引価格から減額します(第60項)。

 

類似の支払の会計処理

企業が顧客又は顧客の顧客に対価を支払う又は支払うと見込まれる場合,その対価は,(a) 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金のほか,(b) 顧客から受領する財又はサービスと交換に支払われる対価,あるいは(c) 両者の組合せの形式による場合があります(IFRS/BC 255)。顧客に支払われる対価の形態には,現金のほか,企業に対する債務額に充当できるクレジット又は他の項目(例えば,クーポン又はバウチャー)も含まれます(IFRS第70項)。

企業は,これら類似の支払が以下のいずれであるかを決定し,会計処理します(IFRS2010ED 48)。

a 顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金

 企業は,取引価格の減額として会計処理します(第60項)。

 顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第47項~第51項(変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第60項)。

b 顧客から受け取る別個の財又はサービスと交換に支払われる対価

 企業は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します(IFRS第71項)。

c aとbの組合せ

 顧客に支払われる対価が,企業が顧客から受領する別個の財又はサービスの時価(公正価値)を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格の減額として会計処理します(IFRS第71項)。

 企業が顧客から受領する財又はサービスの時価(公正価値)を合理的に見積ることができない場合には,顧客に支払われる対価の全額を取引価格の減額として会計処理します(IFRS第71項)。

 

類似の支払と区別する指標

企業が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個の財又はサービス(顧客の財又はサービス)を顧客から受領し,当該財又はサービスと交換に顧客に支払われる対価は,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理しなければなりません(IFRS第71項)。

仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理するかどうかは,企業が受領する財又はサービス(顧客の財又はサービス)が,顧客への移転を約束した財又はサービス(企業の財又はサービス)とは別個のものであるかどうか(本基準第31項,第117項・指針5,6,109参照)が指標となります(IFRS/BC 256)。

例えば,企業が顧客である販売業者に製品を販売するとともに,顧客から製品陳列サービス(製品の在庫保管・展示等)の提供を受け,当該サービスに対する支払を行うとします。

製品陳列サービスは,企業が取り扱う製品なしに単独で便益を享受することができませんが,企業が取り扱う製品は企業が容易に利用できる他の資源であり,それと組み合わせて便益を享受することができます(第31項(1)参照)。

したがって,企業は,顧客から受領する製品陳列サービスが,顧客への移転を約束した製品とは別個のものであると判定し,顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価として,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理します。

 

顧客に支払われる対価の一部についての取引価額の減額

企業が約束した財又はサービスと交換に顧客から受け取る対価の額と,当該顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価の額が,たとえそれらが別々の事象である場合であっても,関連していることがあります。例えば,顧客が,企業から移転される財又はサービスに対して,もし企業に提供する別個の財又はサービスと交換に企業から支払を受けていなければ支払ったであろう対価の額よりも多く支払うことがあります。そうした場合に収益を忠実に描写するため,企業が受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価として会計処理する金額は,当該財又はサービスの時価(公正価値)に限定し,時価を超過する金額があれば取引価格の減額として処理します(IFRS/BC 257)。

上記(製品陳列サービス)の事例で,もし,顧客に支払われる対価が製品陳列サービスの時価を超える場合には,企業は,その超過額を取引価格の減額として会計処理します。

 

顧客の顧客に支払われる対価

顧客に支払われる対価には,企業が直接,顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者に対して支払う又は支払うと見込まれる対価も含まれます。

例えば,企業が小売業者に製品を販売するとともに,新聞のチラシで消費者に割引クーポンを発行するとします。小売業者は,企業の製品の販売にあたって,消費者から割引クーポンの提示を受けたときは,代金を値引きするとともに,回収した割引クーポンを企業に提出し,企業から,消費者に値引いた金額を補償してもらいます。

このように,企業が直接,顧客(小売業者)から企業の財又はサービスを購入する他の当事者(消費者)に支払う対価も,顧客に支払われる対価に含まれます。この場合の対価の形態は,顧客(小売業者)が企業に対する債務額に充当できる割引クーポンであり,企業は,顧客に対し,消費者が企業の製品の購入にあたって提示した割引クーポンを企業に提出することを条件として,消費者に値引いた金額を補償することを約束しています。

企業は,顧客から,割引クーポンと交換に別個の財又はサービスを受け取っていませんので,取引価格の減額として会計処理します。

 

☞企業は,顧客(あるいは顧客から企業の財又はサービスを購入する他の当事者)に対して対価を支払う又は支払うと見込まれる場合に,顧客に支払われる対価と類似の支払を区別し,①顧客への移転を約束した財又はサービスに係る値引き又は返金については,取引価格を減額し,②顧客から受領する別個の財又はサービスと交換に支払われる対価については,仕入先からの他の購入と同じ方法で会計処理し,③①と②の組合せについては,企業が顧客から受領する別個の財又はサービスの時価を超える場合にその超過額を取引価格の減額として会計処理します。

 

7.取引価格の減額の方法

取引価格の減額の会計処理を行う時点

顧客に支払われる対価を取引価額から減額する場合には,企業は,次のa又はbのいずれか遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益を減額しなければなりません(第61項)。

a 関連する財又はサービスの移転に対する収益を認識する時

b 対価を支払うか又は支払を約束する時

顧客に支払われる対価を取引価額から減額する場合には,関連した履行義務の充足時に収益を減額して認識します。また,企業が履行義務を充足して収益を認識した後になってはじめて顧客に支払われる対価を約束する場合もありますが,この場合は,既に認識した収益を直ちに減額することになります。

 

顧客に支払われる対価の変動性

顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合には,企業は,変動対価に関する本基準第47項~第51項(変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります(第60項)。

本基準は,企業が遅くとも顧客に支払われる対価を「約束」する時点で取引価格に反映すべきである旨を明確化しています。企業は,将来の事象の発生又は不発生を条件として顧客に支払われる対価を約束する場合も,約束の時点で,その不確実性を反映して取引価格を測定します。例えば,顧客が所定の数を購入することを条件とした顧客に支払われる対価の約束は,企業が当該約束をした時に取引価格に反映します(IFRS/BC 258)。

上記(割引クーポンの発行)の事例で,企業は,①小売業者に製品を引き渡した時,又は②消費者にクーポンを発行した時(=企業が顧客(小売業者)に対して消費者に値引いた金額を補償することを約束した時)のいずれか遅い時に,取引価格(収益)を減額します。その時点では,消費者が割引クーポンを行使するかどうかという不確実性のため,顧客に支払われる対価に変動する可能性のある部分が含まれています。そこで,企業は,変動対価に関する本基準第47項~第51項に従い,変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価も含めて,取引価格を見積ります。

 

☞企業は,①約束した財又はサービスの移転に対する収益を認識する時,又は②対価を支払うか又は支払を約束する時(支払が将来の事象の発生又は不発生を条件とする場合であっても)の遅い方が発生した時点で(又は発生するにつれて),収益を減額します。企業は,企業が対価の支払を約束する時点で,顧客に支払われる対価に変動対価が含まれている場合は,変動対価に関する本基準第47項~第51項(変動対価の見積りが制限されるかどうかの評価を含みます。)に従って取引価格を見積ります。

投稿者: 片山法律会計事務所