顧客の未行使の権利
連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」
追加的な財又はサービスに対する顧客のオプション
2018年8月15日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕
A4小冊子 8ページ
ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。
お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。
このページでは,その要約のみ配信しております。
ニュースレターのお申込み(無料)はこちらよりお願いいたします。PDFファイルにてメール送信いたします。
お申込みいただいた方には,過去の連載分と今後配信するニュースレターもメール送信いたします。
また,事務所セミナーなどのご案内をご郵送することもあります。
「顧客の未行使の権利」 目次と概要
1.適用指針「顧客の未行使の権利」の概要
企業は,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合があります。例えば,ギフトカード(商品券)や返金不能のチケットの販売などがあります(BC 396)。
このような場合,企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務として,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務を一つだけ識別します。また,顧客又は第三者による権利行使に応じて財又はサービスを移転する前に,契約において約束した対価を受け取ったときは,本基準第106項に従い,対価が支払われた時に,対価の金額で契約負債を認識しなければなりません(B 44)。
最後に,企業は,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」で,当該履行義務を一定の期間にわたり充足される履行義務と判定しますが,企業が履行義務を完全に充足するときのアウトプットから,顧客又は第三者により行使されないと見込まれる権利(非行使部分)を除いて,当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定することが,収益認識のパターンの忠実な描写となる場合があります。その場合,非行使部分の金額について,顧客又は第三者による権利行使に応じた財又はサービスの移転のパターンと比例的に収益を認識することになります(B 46)。
適用指針「顧客の未行使の権利」(B 44~47)は,企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合に,顧客又は第三者により行使されない権利(非行使部分)の金額について,どのように収益を認識するのかについての指針を提供しています。
☞企業は,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務を一つだけ識別しますが,適用指針「顧客の未行使の権利」に定める一定の要件の下に,企業が履行義務を完全に充足するときのアウトプットから顧客又は第三者により行使されないと見込まれる権利(非行使部分)を除いて,当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定します。
2.将来において財又はサービスを受け取る権利
● 将来において財又はサービスを受け取る権利
企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合があります。例えば,ギフトカード(商品券)や返金不能のチケットの販売などがあります(BC 396)。
このような企業の約束の性質には,以下のような特徴がみられます。
● “権利(の付与)”が現在の契約の目的とされていること
企業は,現に顧客と締結した契約において,将来における顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて財又はサービスを移転するために待機する義務を負います。契約の目的(とされた財又はサービス)は,あくまで“権利(の付与)”であって,企業が将来において移転するであろう財又はサービス自体ではありません。また,企業は,現在の契約とは別途に,将来,財又はサービスを移転するときに,新たに顧客又は第三者と契約を締結するわけではありません。
本基準は,このような契約の目的(現在の契約において約束した財又はサービス)を「顧客が再販売するか又は自らの顧客に提供することのできる将来において提供される財又はサービスに対する権利の付与」としています(第26項(g))。
● 権利の全部が行使されない可能性があること
企業は,現に顧客と締結した契約において,将来における顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて財又はサービスを移転するために待機する義務を負いますが,顧客又は第三者が財又はサービスを受け取る権利の全部を行使しない(あるいは行使せずに権利が消滅する)ことが見込まれる場合があります。そのような顧客又は第三者により行使されない権利を“非行使部分”と呼びます(B 45)。そのような契約でも,企業が履行義務を一つだけ識別しますので,当該契約における取引価格の全部が当該履行義務に配分されます。
☞企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合は,契約の目的が“権利(の付与)”であり,企業は,将来における顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて財又はサービスを移転するために待機するという履行義務を一つだけ識別します。将来において財又はサービスを受け取る権利は,全部が行使されないために“非行使部分”の存在が見込まれる場合がありますが,契約における取引価格の全部が当該履行義務に配分されます。
3.履行義務の識別と契約負債の認識
● 履行義務の識別
企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務として,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務を一つだけ識別します。
● 契約負債の認識
企業が,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与し,顧客又は第三者による権利行使に応じて財又はサービスを移転する前に,契約において約束した対価を受け取るか,又は受け取る無条件の権利(債権)を取得したときは,本基準第106項に従い,対価が支払われた時又は支払期限が到来した時のいずれか早い時に,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務について,対価の金額で契約負債を認識しなければなりません(B 44)。
企業が,そのような契約負債を認識したときは,将来において顧客又は第三者による権利行使に応じて財又はサービスを移転し,履行義務を充足した時に,当該契約負債の認識を中止し,代わりに収益を認識しなければなりません(B 44)。
☞企業は,顧客との契約の目的として,将来において財又はサービスを受け取る権利を顧客に付与する場合に,顧客又は第三者の権利行使に応じて財又はサービスを移転する前に,契約において約束した対価を受け取るか,又は受け取る無条件の権利(債権)を取得したときは,本基準第106項に従い,対価が支払われた時又は支払期限が到来した時のいずれか早い時に対価の金額で契約負債を認識し,財又はサービスを移転して履行義務を充足した時に当該契約負債の認識を中止し,代わりに収益を認識します。
4.非行使部分から生じる収益
● 非行使部分の会計処理
権利(オプション)の付与についての履行義務に関し,権利の全部を行使しない(あるいは行使せずに権利が消滅する)ことが見込まれまる場合に,本基準は,契約における企業の履行につれて財又はサービスの移転を基礎に収益を認識する方法を採用しています(BC 398)。
この会計処理は,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務が,実質的には,顧客又は第三者に移転する個々の財又はサービスから構成されるとみて,個々の財又はサービスに対して,企業が見積る非行使部分から生じる収益を含めて(増額して)取引価格を配分したかのように取り扱います。
本基準は,①顧客又は第三者による一方的な意思表示(権利行使)に応じて企業が財又はサービスを移転するという契約に基づく企業の履行を忠実に描写していること,②顧客又は第三者が権利の全部を行使する(非行使部分が存在しない)と企業が予想する場合には,企業は,経済取引として,契約において約束する対価を増額する可能性がある(例えば,返金不能の航空券を販売する航空会社は,非行使部分が予想されない場合には,航空券についておそらくもっと高い価格を課すであろう。)ことを理由に,この会計処理が非行使部分に関する収益認識の最も適切なパターンを表すものと判断しています(BC 398)。
将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務は,一定の期間にわたり充足される履行義務に分類されますが,履行義務の完全な充足に向けての進捗度として,顧客又は第三者の“権利”を採用し(アウトプット法),現在までに行使した権利に応じて企業が移転した財又はサービスと残りの権利に応じて企業が移転すべき財又はサービスとの比率に基づいて収益を認識します(B 15)。この会計処理は,履行義務の完全な充足に向けての進捗度の測定にあたって,企業が履行義務を完全に充足するときのアウトプット(顧客又は第三者の権利)から,見込まれる非行使部分を除くことを意味しています。
● 非行使部分の見積りの制限
非行使部分の存在及び範囲は,将来において顧客又は第三者が一方的な意思表示(権利行使)を(どれくらい)するかどうかという将来の事象の発生又は不発生を条件として確定することになります。非行使部分は,契約において約束された対価ではありませんが,契約における企業の履行につれて財又はサービスの移転を基礎に収益を認識する方法を採用する場合には,企業が見積る非行使部分の範囲が大きければ大きいほど,それが確定する前に企業が認識する収益が大きくなり,それが確定したときに,いったん認識した収益を戻し入れる可能性があります。
そこで,本基準は,非行使部分の変動性に関する見積りについては,変動対価の見積りの制限と同様の制限を受けるべきであるとして,将来における財又はサービスを移転するために待機するという企業の履行義務を過小評価しないようにしました(BC 399)。
● 収益の認識
企業は,将来において財又はサービスを移転するために待機するという履行義務(一定の期間にわたり充足される履行義務)について,以下のとおり,当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定します。
企業が契約負債における非行使部分の金額に対する権利を得ると見込んでいる場合
企業は,見込まれる非行使部分の金額を,顧客又は第三者が行使する権利のパターンに比例して収益として認識しなければなりません(B 46)。
企業が非行使部分の金額に対する権利を得ると見込んでいるかどうかを決定するために,企業は,変動対価の見積りの制限に関する本基準第56項~第58項を適用します(B 46)。
企業が契約負債における非行使部分に対する権利を得ると見込んでいない場合
企業は,見込まれる非行使部分の金額を,顧客又は第三者が残りの権利を行使する可能性がほとんどなくなった時に収益として認識しなければなりません(B 46)。
☞企業は,企業が契約負債における非行使部分の金額に対する権利を得るかどうかを変動対価の見積りの制限に関する本基準第56項~第58項を適用して決定し,①権利を得ると見込んでいる場合には,見込まれる非行使部分の金額を,(非行使部分の存在及び範囲に関する不確実性がその後に解消される際に,認識した収益の累計額の重大な戻入れが生じない可能性が非常に高い範囲で,)顧客又は第三者が行使する権利のパターンに比例して収益として認識し,②そうでない場合には,見込まれる非行使部分の金額を,顧客又は第三者が残りの権利を行使する可能性がほとんどなくなった時に収益として認識します。
投稿者: