連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

返金不能の前払報酬

 

2018年9月19日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 6ページ

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「返金不能の前払報酬」 目次と概要

 

1.適用指針「返金不能の前払報酬」の概要

 

企業が,契約の開始時又はその前後に,返金不能の前払報酬を顧客に課す場合があります。例えば,スポーツクラブ会員契約の入会手数料,電気通信契約の加入手数料,サービス契約のセットアップ手数料,供給契約の当初手数料などがあります(B 48)。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,契約の目的とされた財又はサービス(スポーツクラブの利用・電気通信など)を提供する義務を識別しますが,多くの場合,返金不能の前払報酬に関連する活動自体により約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,独立した履行義務として会計処理しません。返金不能の前払報酬は,①更新オプションがある場合に当初の契約期間を延長して収益を認識する場合があること(B 49),②一定の期間にわたり充足される履行義務の完全な充足に向けての進捗度をインプット法により測定するにあたって関連する活動(及びコスト)を無視すること(B 51)に留意する必要があります。

他方,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します(B 50)。

適用指針「返金不能の前払報酬」(B 48~51)は,企業が,返金不能の前払報酬を顧客に課す場合に,関連する履行義務の識別や会計処理についての指針を提供しています。

 

企業が,契約の開始時又はその前後に,返金不能の前払報酬を顧客に課すことがありますが,多くの場合,返金不能の前払報酬に関連する活動自体により約束した財又はサービスを顧客に移転しないため,独立した履行義務として会計処理しません。他方,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します。

 

2.返金不能の前払報酬

 

● 返金不能の前払報酬

企業が,契約の開始時又はその前後に,返金不能の前払報酬を顧客に課す場合があります。例えば,スポーツクラブ会員契約の入会手数料,電気通信契約の加入手数料,サービス契約のセットアップ手数料,供給契約の当初手数料などがあります(B 48)。

返金不能の前払報酬は,顧客が対価(手数料)を支払う強制可能な義務であり,契約においてその義務の内容(手数料の金額,支払期限等)が明示されます。支払期限は,契約の開始時又はその後であり,顧客は,契約の目的とされた財又はサービス(スポーツクラブの利用・電気通信など)の提供を受ける前に支払うことを約束します。

これに対し,企業は,当該契約において,顧客に対し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務を負います。

返金不能の前払報酬は,企業が契約の開始時又はその前後において,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転するために行わなければならない契約のセットアップに伴う種々の管理作業などの活動(負担)を経済的に補償する趣旨であることが多く,契約においてその旨(入会手数料,加入手数料など)を明示することもあります(第25項,B 49)。

 

● 履行義務の識別

まず,企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,顧客に対し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務(契約における本来の債務=給付義務)を識別します。

次に,企業は,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転するのかどうかを評価します。

多くの場合,企業が返金不能の前払報酬に関連する活動を行っても顧客に財又はサービスを移転しません(B 49)。例えば,サービスを提供する企業が契約をセットアップするために種々の管理作業を行いますが,それらの作業の履行につれて顧客にサービスを移転することはありません(第25項)。

また,企業が返金不能の前払報酬に関連して約束した財又はサービスを顧客に移転する場合でも,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務と独立した履行義務として会計処理すべきかどうかを評価します(B 50)。

多くの場合,企業は,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制可能な義務を履行するために契約のセットアップに伴う種々の管理作業などの活動を行う必要がありますが,顧客は,返金不能の前払報酬を支払ったからといって,直接,企業にそのような活動を強制することを予定していませんので,必ずしも返金不能の前払報酬と交換に企業がどのような活動を行うのかについて契約において特定して明示する必要がありません。

そのため,返金不能の前払報酬に関連する活動を行うという企業の約束が,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と区分して識別可能でなく,契約の観点において別個のものとはいえず(第27項(b)),独立した履行義務とはいえない場合が少なくありません。

したがって,企業は,多くの場合,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転することがなく,また,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとはいえないので,独立した履行義務を識別しません。

もっとも,企業は,返金不能の前払報酬に関連して,顧客に対し,契約(期間)の更新オプションを付与していないかどうかに留意する必要があります。

 

● 将来の財又はサービスの移転に対する前払

企業が,返金不能の前払報酬に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合,Step3「取引価格を算定する」で,返金不能の前払報酬を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務に配分されます。

したがって,返金不能の前払報酬は,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に(又は充足するつれて)収益を認識しますので,将来の財又はサービスの移転に対する前払といえます(B 49)。

 

☞企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,返金不能の前払報酬に関連した活動により約束した財又はサービスを顧客に移転するのかどうか,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と独立した履行義務として会計処理すべきかどうかを評価します。多くの場合,返金不能の前払報酬に関連した活動により約束した財又はサービスを移転することがなく,また,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとはいえないので,独立した履行義務を識別しません。この場合,返金不能の前払報酬は,契約の目的とされた財又はサービスを顧客に移転することにより履行義務を充足した時に(又は充足するつれて)収益を認識しますので,将来の財又はサービスの移転に対する前払といえます。

 

3.返金不能の前払報酬と更新オプション

 

● 契約(期間)の更新オプション

契約(期間)の更新オプションは,顧客の一方的な意思表示(又は意思表示をしないこと)により契約の存続期間(有効期間)が更新され,企業がこれを拒絶できない場合をいいます。

契約に一定の存続期間(有効期間)の定めがあるときに,いずれかの当事者から拒絶の意思表示がない限り,当然に更新される旨の定め(自動更新条項)は,企業が更新を拒絶することができるので,更新オプションではありません。もっとも,企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により企業が更新を拒絶しないという顧客の妥当な期待が生じているときは,更新オプションに該当する可能性があります。

 

● 履行義務の識別

企業が返金不能の前払報酬に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合でも,顧客に対し,契約(期間)の更新オプションを付与していないかどうかに留意する必要があります。返金不能の前払報酬が契約のセットアップに伴う種々の管理作業などの活動に関連する場合には,同一の顧客に関する更新に際して改めて企業にそのような負担が生じない場合が多いので,顧客は,企業が改めて返金不能の前払報酬を課さずに契約(期間)の更新に応じてくれるものと期待することが少なくありません。企業が,顧客との契約において,顧客からの契約(期間)の更新の申入れに対し,①拒絶してはならない拘束を受ける強制可能な義務を負い,あるいは,②企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により,拒絶しないという顧客の妥当な期待が生じている場合には,契約における約束として識別できます。

そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションの付与に係る履行義務を識別する必要があります(B 40)。

 

● 更新オプションの会計処理

企業が契約(期間)の更新オプションの付与に係る履行義務を識別する場合,Step3「取引価格を算定する」で,返金不能の前払報酬を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②契約(期間)の更新オプションの付与に係る履行義務に対し,それぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分することとなります。

しかし,契約(期間)の更新オプションの独立販売価格の算定が複雑であるため,実務上の便法として,更新オプション付きの契約を,一連のオプションの付いた契約ではなく,単純に予想される更新期間を含む見込み期間にわたる契約とみなし,企業が顧客に提供すると見込んでいるオプションに係る財又はサービス(及びこれに対して支払が見込まれる対価)を,取引価格の当初測定に含める会計処理を容認しています(B 43,BC 393)。

したがって,企業は,返金不能の前払報酬につき,契約の目的とされた財又はサービスに関する当初の契約期間を延長して収益を認識する場合があります(B 49)。

 

☞顧客は,企業が改めて返金不能の前払報酬を課さずに契約(期間)の更新に応じてくれるものと期待することが少なくありません。企業が,顧客との契約において,顧客からの契約(期間)の更新の申入れに対し,①拒絶してはならない拘束を受ける強制可能な義務を負い,あるいは,②企業の取引慣行,公表した方針又は具体的な声明により,拒絶しないという顧客の妥当な期待が生じている場合には,契約における約束として識別できます。そのオプションが当該契約を締結しなければ顧客が受け取れない重要な権利を顧客に提供するときは,そのオプションの付与に係る履行義務を識別する必要があります。この場合,更新オプションの会計処理により,企業は,返金不能の前払報酬につき,契約の目的とされた財又はサービスに関する当初の契約期間を延長して収益を認識する場合があります。

 

4.返金不能の前払報酬とインプット法

 

● インプット法

インプット法は,アウトプット法と並び,一定の期間にわたり充足される履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定する方法であり,履行義務の充足に使用されたインプットが,当該履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づいて収益を認識します(B 18)。

指標として,例えば,消費した資源,費やした労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間などがあります(B 18)。

 

● 履行義務の完全な充足に向けての進捗度の測定

返金不能の前払報酬に関連する活動について独立した履行義務を識別しない場合,企業は,契約開始時に,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を一定の期間にわたり充足された履行義務と判定するときは(第32項,第35項),当該履行義務の完全な充足に向けての進捗度を測定するための適切な方法を選択しなければなりませんが(第41項),インプット法を選択・適用するにあたって,返金不能の前払報酬に関連する活動に係るインプットの取扱いに留意する必要があります。

インプット法は,企業のインプットと財又はサービスの顧客への移転との間に直接的な関係がないため,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないことが少なくありません(B 19)。

企業は,インプットを適用する場合,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しないものの影響を除外しなければなりません(第42項,B 19)。

返金不能の前払報酬に関連する活動が,例えば,契約のセットアップに伴う種々の管理作業など,顧客へのサービスの移転を描写しない場合には,インプット法の適用にあたって,その活動(及び関連するコスト)を無視しなければなりません(B 51)。

 

☞企業が返金不能の前払報酬に関連する活動について独立した履行義務を識別せず,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務を一定の期間にわたり充足された履行義務と判定する場合には,返金不能の前払報酬に関連する活動(例えば,契約のセットアップに伴う種々の管理作業など)が顧客へのサービスの移転を描写しないので,インプット法の適用にあたって,その活動(及び関連するコスト)を無視しなければなりません。

 

5.返金不能の前払報酬に関連する独立の履行義務

 

企業が,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約開始時に,本基準第22項~第30項に従い,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します(B 50)。

この場合,企業は,顧客との契約において,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②返金不能の前払報酬に関連する活動を行う義務を含む複数の履行義務を識別します(複数要素契約)。Step3「取引価格を算定する」で,返金不能の前払報酬を含む契約対価の全部が取引価格として算定され,企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」で,①契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と②返金不能の前払報酬に関連する活動を行う義務に対し,それぞれの独立販売価格の比率に基づいて配分することとなりますが,返金不能の前払報酬について契約上の価格を独立販売価格であると推定してはならないことに留意する必要があります(第77項)。

 

☞企業が,本基準第22項~第30項に従い,返金不能の前払報酬に関連する活動により約束した財又はサービスを顧客に移転し,契約の目的とされた財又はサービスを提供する義務と契約の観点において別個のものとして区分して識別できる場合には,独立した履行義務として会計処理します。

 

投稿者: 片山法律会計事務所