2016年11月1日号(「公正な価格」を考える25号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

1 売り手は少数株主である
 これまで,存続会社の株式を対価とする吸収合併のケースを例にとって価格と価値の関係を考察してきましたが,以上を踏まえて,「公正な価格」を考えてみます。
 「公正な価格」は,価値ではなく,価格であることから,実際の具体的な売り手と買い手を前提として考察することが不可欠です。価格決定申立制度において,裁判所が「公正な価格」を決定する株式の買い手は株式発行会社として個別に特定されますが,売り手は株式発行会社の株主というだけではなく,さらにその属性を特定(限定)することができます。
 譲渡制限付株式の譲渡等承認請求者と株式発行会社又は指定買取人との間の価格決定申立制度などを除き,多くの価格決定申立制度では,組織再編などの議案に関する株主総会の決議に反対した株主に株式発行会社に対する株式買取請求権を保障し,当該反対株主と株式発行会社との間の価格の決定という構造となっています。このような反対株主は,株主総会で組織再編などの議案に反対したにもかかわらず,多数決(特別決議は出席株主の3分の2以上)によって当該議案が成立したわけですから,株式発行会社にとって少数株主であることになります。そこで,「公正な価格」を考察するときは,売り手は少数株主であることを前提とします。
2 売り手は組織再編の行為に反対するのか組織再編の対価に反対するのか
 株式の価格を決定するにあたって,売り手の株主について,その属性を限定するだけでなく,株主総会における組織再編などの議案に反対する理由を具体的に想定することも可能です。株主は,組織再編などの議案に反対する議決権の行使にあたって,その理由を明示する必要はありませんが,株主が経済合理性に従って行動することを前提とすれば,組織再編によって客観的な企業価値が毀損するか否かによって,①組織再編を行うこと自体に反対する場合と,②組織再編対価(比率)が不公正であることを理由に反対する場合とを分けて想定することができます。

投稿者: 片山法律会計事務所