取引価格の配分(公開草案版)
連載「新しい収益認識基準で変わる契約実務」(公開草案版)
取引価格の配分
2017年11月25日 弁護士・公認会計士 片山智裕
A4小冊子 10ページ
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「取引価格の配分」 目次と概要
1.Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」の概要
企業は,取引価格を算定した後の次のステップで,契約における取引開始日に,それぞれの履行義務に対して取引価格を配分します。
このステップの適用は,次のとおり,1.契約における取引開始日と,2.契約における取引開始日後に取引価格が変動したときの2つに分けられます。
1 履行義務への取引価格の配分
企業は,契約における取引開始日に,独立販売価格の比率に基づき,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して取引価格を配分します(第63項)。
2 取引価格の変動
企業は,契約における取引開始日後に取引価格が変動したときは,独立販売価格の事後的な変動を考慮せず,契約における取引開始日と同じ基礎により変動した取引価格を履行義務に配分しなければなりません(第71項)。
☞企業は,①契約における取引開始日と,②契約における取引開始日後に取引価格が変動したときに,算定した取引価格を,財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得ると見込む対価の額を描写するように,それぞれの履行義務に配分します。
2.Step4-① 取引価格の配分
Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」では,まず,企業は,契約における取引開始日において,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約における取引開始日の独立販売価格の比率に基づき,算定した取引価格を配分します(第65項)。
契約における約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には,企業は,契約における財又はサービスの束について顧客に値引きを行っているものとして,当該契約の値引き全体がどの履行義務に対するものかについて観察可能な証拠がある一定の要件を満たす場合を除き,契約におけるすべての履行義務に対して比例的に配分しなければなりません(第67項,第68項)。
企業は,一定の要件を満たす場合には,変動対価及びその事後的な変動のすべてを,1つの履行義務(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる一つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第69項)。
3.配分の目的
配分の目的
取引価格を配分する目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行うことにあります(第62項)。
本基準は,この目的を達成するため,企業は,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づき,取引価格を配分することとしています(IFRS/BC 266)。ただし,値引きの配分(第67項,第68項),変動対価の配分(第69項,第70項)に定める例外があります(第63項)。
契約に履行義務が一つしかない場合
契約に単一の履行義務しかない場合には,基本的に取引価格の配分に関する本基準第65項~第70項は適用されません。ただし,企業が,一連の別個の財又はサービス(特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである複数の財又はサービス)を移転する約束が単一の履行義務として識別され(第29項(2)),かつ,契約において約束された対価に変動対価が含まれる場合には,変動対価の配分(第69項,第70項)が適用される場合があります。
☞配分の目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,財又はサービスの顧客への移転と交換に企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行うことにあります。
4.独立販売価格の算定
独立販売価格とは
独立販売価格とは,財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格をいいます(第8項)。
独立販売価格の算定の方法
企業は,取引価格の配分にあたって,次の場合に分けて,約束した財又はサービスの独立販売価格を算定します。
● 独立販売価格を直接観察できる場合
企業が同様の状況において独立して類似の顧客に販売する場合における当該財又はサービスの観察可能な価格がある場合には,その観察可能な価格が,独立販売価格の最善の見積りであるといえます。財又はサービスの契約上の価格や定価は,当該財又はサービスの独立販売価格である場合がありますが,そのように推定されるわけではありません(第125項)。
● 独立販売価格を直接観察できない場合
独立販売価格を直接観察できない場合には,企業は,配分の目的(第62項)と整合する取引価格の配分となる独立販売価格を見積らなければなりません(第125項)。
☞企業は,取引価格の配分にあたって,別個の財又はサービスの独立販売価格(財又はサービスを独立して企業が顧客に販売する場合の価格)を算定します。企業が同様の状況において独立して類似の顧客に販売する場合における観察可能な価格が独立販売価格の最善の見積りとなります。独立販売価格が直接観察できない場合には,企業は,配分の目的と整合するように独立販売価格を見積ります。
5.独立販売価格の見積りの方法
独立販売価格の見積りの方法
企業が顧客に独立して販売する場合における当該財又はサービスの観察可能な価格がない場合には,企業は,その代わりに独立販売価格を見積らなければなりません。
その見積りの方法は,配分の目的に整合する独立販売価格の忠実な描写である限りは,制限がありません。本基準は,独立販売価格の見積りのための適切な方法を例示していますが(指針31),独立販売価格の見積りの方法は,それらの例示に限られず,また,特定の方法を禁止することもしていません(IFRS/BC 268)。
実態適用の原則
企業は,独立販売価格を見積るにあたって,合理的に入手できるすべての情報(市場の状況,企業固有の要因,顧客に関する情報等)を考慮し,観察可能な入力数値を最大限利用しなければなりません(第66条,IFRS/BC 268)。
一貫適用の原則
企業は,類似の状況においては,独立販売価格の見積方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第66条,IFRS/BC 268)。
独立販売価格を見積るための適切な方法の例
財又はサービスの独立販売価格を見積るための適切な方法には,例えば,次の方法がありますが,これらに限定されません(指針31)。
● 調整した市場評価アプローチ
企業は,財又はサービスが販売される市場を評価して,顧客が支払うと見込まれる価格を見積ります。このアアプローチには,企業が,他の企業における類似した財又はサービスの価格を参照して,企業のコストと利益相当額を考慮して当該価格を調整することも含まれます(指針119)。
● 予想コストに利益相当額を加算するアプローチ
企業は,履行義務を充足するために発生するコストを見積り,当該財又はサービスの適切な利益相当額を加算して独立販売価格を見積ります。
● 残余アプローチ
企業は,契約における取引価格の総額から契約において約束した他の財又はサービスについて観察可能な独立販売価格の合計額を控除して残余の財又はサービスの独立販売価格を見積ります(IFRS/BC 270)。
ただし,企業は,次のⅰ又はⅱのいずれかに該当する場合に限り,残余アプローチを使用できます。
ⅰ 販売価格が大きく変動する状況
企業が同一の財又はサービスを異なる顧客に同時又はほぼ同時に幅広い価格帯で販売していること(すなわち,典型的な独立販売価格が過去の取引又は他の観察可能な証拠から識別できないため,販売価格が大きく変動性する。)
例えば,知的財産及び他の無形資産に関する契約では,それらの財又はサービスを顧客に提供する際に企業に発生する追加コストが少額又は皆無であるため,価格設定の変動性が高くなります。こうした変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有している状況では,契約における独立販売価格を算定する最も信頼性の高い方法は,残余アプローチであることが多いといえます(IFRS/BC 271)。
ⅱ 販売価格が確定していない状況
企業が当該財又はサービスの価格を未だ設定しておらず,当該財又はサービスを独立して販売したことがないこと(すなわち,販売価格が確定していない。)
独立販売価格の見積りの複数の方法の組合せ
企業は,契約における約束した財又はサービスのそれぞれの独立販売価格を,複数の方法を組み合わせて見積ることが必要になる場合があります。企業は,複数の方法を組み合せて独立販売価格を見積る場合には,取引価格をそのように見積った独立販売価格で配分することにより,配分の目的(第62項)及び独立販売価格の見積りに関する原則(第66項)に従っているかどうかを評価しなければなりません(指針120)。
例えば,契約の中に含まれる3つ以上の財又はサービスのうち,複数の独立販売価格が大きく変動する又は確定していないときに,残余アプローチを使用して独立販売価格が大きく変動する又は確定していない複数の財又はサービスの独立販売価格の合計額を見積り,その後,残余アプローチ以外の方法を使用して個々の財又はサービスの独立販売価格を見積り,残余アプローチによる当該独立販売価格の合計額に対して比例的に見積る場合がありますが,取引価格をそのように複数の方法を組み合わせて見積った独立販売価格で配分することが適切なのかどうかを評価 する必要があります(指針32,120,IFRS/BC 272)。
☞企業は,独立販売価格の見積りにあたって,合理的に入手できるすべての情報を考慮し,観察可能な入力数値を最大限利用します。適切な見積りの方法の例として,①調整した市場評価アプローチ,②予想コストに利益相当額を加算するアプローチ,③残余アプローチがあります。残余アプローチは,財又はサービスの販売価格が,(a)大きく変動する状況か,又は(b)確定していない(独立して販売したことがない)状況に限って使用できます。
6.代替的な取扱い
● 重要性が乏しい財又はサービスに対する残余アプローチの使用
適用指針は,指針31の定めにかかわらず,履行義務の基礎となる財又はサービスの独立販売価格を直接観察できない場合で,当該財又はサービスが,契約における他の財又はサービスに付随的なものであり,重要性に乏しいと認められるときには,当該財又はサービスの独立販売価格の見積方法として,指針31(3)における残余アプローチを使用することができると定めています(指針99)。
7.独立販売価格に基づく配分
企業は,契約における取引開始日において,契約において識別されたそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約における取引開始日の独立販売価格の比率に基づき,取引価格を配分します(第65項)。
本基準は,独立販売価格に基づく配分を原則(デフォルト)とすることにより取引価格の配分に規律をもたらし,企業内及び企業間の比較可能性を高めています(IFRS/BC 280)。
もっとも,独立販売価格に基づく配分は手段にすぎませんので,収益認識モデルにおける配分の目的(第62項)を達成するため,必ずしも企業が顧客から権利を得ると見込む対価の額の忠実な描写とならない場合として,例外的に値引きの配分(第67項,第68項),変動対価の配分(第69項,第70項)の方法を定めています(第63項,IFRS/BC 279,280)。
8.値引きの配分
概要
契約における約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には,企業が契約における財又はサービスの束について顧客に値引きを行っているものとして取り扱います。この値引きは,一部の履行義務に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例してすべての履行義務に配分されます(第67項,第126項)。
もっとも,例えば,契約における約束した財又はサービスに利益相当額の高いものと低いものがあるために,契約全体としては利益が生じるのに,値引きの配分によって利益相当額の低い履行義務の充足時に損失が生じる可能性があります。値引きを独立販売価格に比例して配分する結果は,必ずしも企業が特定の履行義務の充足について権利を得る対価の額を忠実に描写しません(IFRS/BC 277)。
そこで,本基準は,値引き全体が契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に関するものであるという観察可能な証拠がある場合に限り,値引き全体を当該一つ又は複数の履行義務に配分することとしています(第68項)。
要件
企業は,次のa~cの要件のすべてを満たす場合には,契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に値引き全体を配分しなければなりません(第68項)。
a 契約における別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを,通常は単独で販売していること
b 当該別個の財又はサービスのうちの一部を束にしたものについても,通常はそれぞれの束における財又はサービスの独立販売価格から値引きして販売していること
c bにおける財又はサービスの束のそれぞれに対する値引きが,当該契約の値引きとほぼ同額であり,それぞれの束における財又はサービスを評価することにより,当該契約の値引き全体がどの履行義務に対するものかについて観察可能な証拠があること
取引価格の配分の方法
企業は,第68項に従って値引きを配分する場合には,当該値引きを配分した後に,残余アプローチ(指針31(3))により,財又はサービスの独立販売価格を見積ります(指針33)。
例えば,企業が,通常,製品Xを@40で,製品Yを@55で,製品Zを@45で,製品Wを@15~45で(大きく変動する),独立して販売するとともに,製品YとZを組み合わせて対価60で販売している状況において,製品W~Zを組み合わせて対価130で販売するとします。
この場合,企業は,製品YとZを組み合わせて販売するときに40値引きをするという観察可能な証拠があり,製品Xの独立販売価格@40を直接観察できますので,製品W~Zを組み合わせたときの対価130のうち対価100を製品X~Yに配分し,値引き40全体をYとZに配分すべきであるという観察可能な証拠があります。次に,残余アプローチを使用して,製品Wの独立販売価格を@30と見積ります。企業は,複数の方法を組み合せて製品Wの独立販売価格を見積った結果@30を検討し,観察可能な販売価格の範囲内(15~45)であると確認し,この配分結果は,配分の目的(第62項)及び独立販売価格の見積りに関する原則(第66項)に従っていると評価します(設例16-2)。
このように,値引き全体が契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に関するものであるという観察可能な証拠があるというための要件(第68項)は,通常,3つ以上の別個の財又はサービスのある契約に適用されます。これらの要件をすべて満たす状況は多くはありませんので,値引きをすべての履行義務に対して比例的に配分すべきではない状況は,制限的であるといえます(IFRS/BC 282)。
☞企業は,値引き全体が契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)に関するものであるという観察可能な証拠がある状況として本基準第68項の要件のすべてを満たす場合に限り,値引き全体を当該1つ又は複数の履行義務に配分します。
9.変動対価の配分
概要
契約において約束された対価に変動対価が含まれる場合には,その変動する可能性のある金額は,1つの履行義務(あるいは1つの別個の財又はサービス)に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例してすべての履行義務に配分されます(第70項)。
もっとも,契約において約束された変動対価は,契約全体に帰属する場合もあれば,次のいずれかのように,財又はサービスの顧客への移転と交換に権利を得る対価の額を忠実に描写するため,契約の特定の一部に帰属させることが適切な場合もあります(第127項,IFRS/BC 278)。
a 契約における履行義務のうち1つ又は複数(ただし,すべてではない。)
例えば,企業が約束した財又はサービスを所定の期間内において移転することを条件に割増金を受け取る場合には,当該財又はサービスに割増金(変動対価)を配分することが適切です(IFRS/BC 284)。
b 第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つ又は複数の別個の財又はサービス
例えば,ホテル管理サービスを1年間にわたり提供する契約において顧客が稼働率の2%を基礎として決定される変動対価を支払うことを約束するときは,企業が,毎日の個々の管理サービスにつき,特性が実質的に同じであり,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第29項(2))として単一の履行義務を識別する場合でも,日次の稼働率により対価の不確実性が解消されるため,日次に決定される変動対価を毎日の個々の管理サービスに配分することが適切です(IFRS/BC 285)。また,例えば,2年間の清掃サービスにおける2年目の対価が所定の物価上昇率に基づき増額される場合にも,その増額分は,2年目の個々の清掃サービスに配分することが適切です(第127項(2))。
そこで,本基準は,変動対価が契約における履行義務(あるいは別個の財又はサービス)の一つに関連する場合は,変動対価のすべてを,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することとしています(第69項)。
要件
企業は,次のa及びbの要件のいずれも満たす場合には,変動対価及びその事後的な変動のすべてを,1つの履行義務(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第69項)。
a 変動性のある支払の条件が,当該履行義務を充足するための活動や当該別個の財又はサービスを移転するための活動(あるいは当該履行義務の充足による特定の結果又は別個の財又はサービスの移転による特定の結果)に個別に関連していること
b 契約における履行義務及び支払条件のすべてを考慮した場合,変動対価の額のすべてを当該履行義務あるいは当該別個の財又はサービスに配分することが,企業が権利を得ると見込む対価の額を描写すること
取引価格の配分の方法
企業は,第69項に従って変動対価を配分するときは,取引価格のうち第69項の要件を満たさない残りの取引価格については,取引価格の配分に関する本基準第62項~第68項を適用して配分しなければなりません(第70項)。
☞企業は,契約において約束された変動対価について,①変動性のある支払の条件が,一つの履行義務の充足(あるいは第29項(2)に従って識別された単一の履行義務に含まれる一つの別個の財又はサービスの移転)のための活動(又はその特定の結果)に個別に関連し,かつ,②変動対価の額のすべてを当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するときは,変動対価及びその事後的な変動のすべてを当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分します。
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