履行義務の充足

一定の期間にわたり充足される履行義務

20211129

弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

※本文中で引用,参照する会計基準書等の条項は,末尾の凡例に表示の略語で記載しています。

Step5- 一定の期間にわたり充足される履行義務

Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」では,企業は,まず,履行義務の属性を判定します(Step-①履行義務の属性の判定)。

企業は,資産に対する支配を顧客に一定の期間にわたり移転する3類型の要件(第38(1)(3))のいずれかに該当する場合には,一定の期間にわたり充足される履行義務と判定し(第38項),一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,履行義務の充足に係る進捗度を見積り,当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します(第41項)。

企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,次の1又は2から,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写するような適切な見積りの方法を決定します(指針15)。

1 アウトプット法

アウトプット法は,現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積り,契約において約束した残りの財又はサービスとの比率に基づき,収益を認識する方法をいいます(指針17)。

2 インプット法

インプット法は,履行義務の充足に使用されたインプットが契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づき,収益を認識する方法をいいます(指針20)。

履行義務の充足に係る進捗度

l  進捗度の見積りの目的

進捗度を見積る目的は,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写することにあります(IFRS39項)

企業はこの目的に整合する適切な見積方法を選択しなければならず,本基準は経営者の自由な選択を認めていません(IFRS/BC 159)。理論上は,現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積る方法(アウトプット法)の方が企業の履行を忠実に描写する目的に適いますが,選択にあたっては,見積りにかかるコストも考慮すべきであり,低コストで合理的な代用数値を提供するのであれば,履行義務の充足に使用されたインプットにより見積る方法(インプット法)も適切となります(IFRS/BC 164)。

l  単一性の原則

企業は,一定の期間にわたり充足される履行義務のそれぞれについて,単一の方法で履行義務の充足に係る進捗度を見積ります(第42項)。

企業は,特定の履行義務にいったん選択した進捗度の見積方法をみだりに変えてはなりません。

l  一貫適用の原則

企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りについて,類似の履行義務及び状況に首尾一貫した方法を適用します(第42項)。

企業は,2つ以上の類似の特性のある履行義務又は類似した状況があるにもかかわらず,みだりに異なる進捗度の見積方法を選択してはなりません(IFRS/BC 161)。

l  見積りの見直し

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を各決算日に見直します(第43項)。

企業は,各決算日に新たに入手できるようになった情報に基づいて,履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット等に関して過去に見積った数値を見直す必要があります。

企業が当該進捗度の見積りを変更する場合は,会計上の見積りの変更(企業会計基準第24号「会計方針の開示,会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第4(7))として処理します(第43項)。

進捗度の見積方法の選択

l  進捗度の見積方法の選択

企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積りにあたって,財又はサービスの性質を考慮し,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写する目的に整合する適切な見積りの方法を選択しなければなりません(指針15)。

履行義務の充足に係る進捗度の見積方法は,大きくアウトプット法とインプット法の2つに分けられます(指針15IFRS/BC 162)。

l  進捗度の見積りの留意点

企業は,履行義務の充足に係る進捗度の見積り(見積方法の選択及びその適用)にあたって,次のa及びbを考慮します(指針16)。

a 履行義務を充足する際に顧客に支配が移転する財又はサービスの影響を当該進捗度の見積りに反映する

アウトプット法では,顧客に支配を移転した財又はサービスを漏れなくアウトプットの見積りに含めることに留意します。選択するアウトプットによっては,顧客に支配を移転した財又はサービスの一部がアウトプットの見積りに含まれない場合があるので,選択したアウトプットが履行義務の充足に係る進捗度を忠実に描写するような方法でアウトプット法を適用します(指針18)。

b 履行義務を充足する際に顧客に支配を移転しない財又はサービスの影響を当該進捗度の見積りに反映しない

インプット法では,財又はサービスを顧客に移転する際の企業の履行を描写しないものの影響や,履行義務の充足に係る進捗度に寄与しないインプット(コスト),顧客に財又はサービスの支配を移転しない活動及び関連するインプット(コスト)を見積りから除外することに留意します(指針21,22(1),60)。

アウトプット法

l  アウトプット法

アウトプット法は,現在までに移転した財又はサービスの顧客にとっての価値を直接的に見積り,契約において約束した残りの財又はサービスとの比率に基づき,収益を認識する方法をいいます(指針17)。

顧客にとっての価値は,契約における企業の履行の客観的な見積りを指し,個々の財又はサービスの市場価格又は独立販売価格や,財又はサービスに組み込まれたと顧客が認識している価値を評価する必要はありません(IFRS/BC 163)。

l  指標の例

アウトプット法に使用される指標として,例えば,現在までに履行を完了した部分の調査,達成した成果の評価,達成したマイルストーン,経過期間,生産単位数,引渡単位数等があります(指針17)。

Ø  検針日基準

従来まで,毎月,月末以外の日に実施する計量により確認した顧客の使用量に基づき,収益を計上し,決算月に実施した計量の日から決算日までに生じた収益が翌月に計上される実務(検針日基準)が見られます。電気事業及びガス事業では,決算日までの顧客による使用量が確認できない場合や,計量により確認した使用量に応じて複数の単価が適用される場合など,決算月に実施した計量の日から決算日までに生じた収益を見積ることに困難が伴うことがあります。しかし,本指針は,見積りの困難性に対する評価が十分に定まらず,代替的な取扱いを定めていません(指針188)。

l  留意点

アウトプット法の欠点は,履行義務の充足に係る進捗度を見積るために使用されるアウトプットが直接的に観察できない場合があり,過大なコストをかけないとアウトプット法の適用に必要な情報が利用できない場合があることです(指針123)。

アウトプット法を選択する場合には,企業は,選択するアウトプットが,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を適切に描写するかどうかに留意し(IFRS/BC 166),例えば,次のa及びbを考慮します。

a 選択したアウトプットが顧客に支配が移転している財又はサービスの一部を見積っていない場合がある

選択したアウトプットが顧客に支配が移転している財又はサービスの一部を見積っていない場合には,企業の履行を忠実に描写していません(指針123)。例えば,生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法において,企業の履行により顧客が支配する仕掛品又は製品が決算日に生産されているのに,当該仕掛品又は製品がアウトプットの見積りに含まれていない場合があります(指針18)。特にアウトプットの見積りに含まれない顧客が支配する仕掛品が契約又は財務諸表全体のいずれかに対して重要性がある場合に注意する必要があります(指針124)。

b 選択したアウトプットの単位が一律に顧客にとって同価値でない場合がある

選択したアウトプットの単位が一律に顧客にとって同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。例えば,生産単位数又は引渡単位数に基づくアウトプット法において,企業が設計と製造の両方を顧客に提供するため,選択したアウトプットの単位が一律に同価値でない場合には,企業の履行を忠実に描写していません。逆に,企業が長期的に製造する標準品目を個々に顧客に移転するため,選択したアウトプットの単位が一律に同価値である場合には,企業の履行を忠実に描写します(IFRS/BC 166)。

l  実務上の便法

現在までに企業の履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応する対価の額を顧客から受け取る権利を有している場合(例えば,提供したサービスの1時間ごとに固定額を請求する契約)には,企業は,請求する権利を有している金額で収益を認識することができます(指針19IFRS/BC 167)。

この実務上の便法は,顧客から受け取る権利を有している対価の額が,現在までに企業の履行が完了した部分に対する顧客にとっての価値に直接対応していない場合には使用できません(IFRS/BC 167)。

インプット法

l  インプット法

インプット法は,履行義務の充足に使用されたインプットが契約における取引開始日から履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット合計に占める割合に基づき,収益を認識する方法をいいます(指針20)。

企業のインプットが履行期間を通じて均等に費消される場合には,企業が収益を定額で認識することが適切となることがあります(指針20)。

l  指標の例

インプット法に使用される指標として,例えば,消費した資源,発生した労働時間,発生したコスト,経過期間,機械使用時間等があります(指針20)。

l  留意点

インプット法の欠点は,インプットと財又はサービスに対する支配の顧客への移転との間に直接的な関係がなく,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を忠実に描写しない場合があることです(指針125)。他方で,アウトプット法の適用に過大なコストがかかるときは,低コストで合理的な代用数値を提供するインプット法が適切になる場合もあります(IFRS/BC 164)。

インプット法を選択する場合には,企業は,選択するインプットが,約束した財又はサービスに対する支配を顧客に移転する企業の履行(履行義務の充足)を描写しないものの影響を反映しないように留意し(指針21),例えば,次のa~cを考慮します。

a 契約締結・管理活動

契約締結活動(例えば,契約のセットアップに関する活動)又は契約管理活動が顧客に財又はサービスを移転しないために履行義務でない場合には(指針4参照),当該活動及び関連するコストの影響をインプットの見積りから除外します(指針60

b 発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に寄与しない場合

コストに基づくインプット法を使用するにあたって,例えば、履行義務を充足するために生じた想定外の金額の材料費,労務費又は他の資源の仕損のコスト等,契約の価格に反映されていない著しく非効率な履行に起因して発生したコストに対応する収益は認識しません(指針22(1),125)。

c 発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しない場合

コストに基づくインプット法を使用するにあたって,発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しない場合には,インプット法を修正し,発生したコストの額で収益を認識するかどうかを判断します。

例えば,エレベーターの据付けを含むリフォーム工事契約において,現場に納入されたエレベーターを事後に据え付けるケースでは(設例9),顧客が当該履行義務の重要部分である財(エレベーター)に対する支配を,サービス(据付け)に対する支配と異なる時点で獲得するので,発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しません(IFRS/BC 169)。

そこで,契約における取引開始日に,次のⅰ~ⅳの要件のすべてが満たされると見込まれる場合には,企業の履行を忠実に描写するために,インプット法に使用される財のコストの額で収益を認識することが適切になります(指針22(2))。

ⅰ 当該財が別個のものではないこと

ⅱ 顧客が当該財に関連するサービスを受領するより相当程度前に,顧客が当該財に対する支配を獲得することが見込まれること

ⅲ 移転する財のコストの額について,履行義務を完全に充足するために見込まれるコストの総額に占める割合が重要であること

ⅳ 企業が当該財を第三者から調達し,当該財の設計及び製造に対する重要な関与を行っていないこと(ただし,本人と代理人の区分に関する指針3947に従うと,企業が本人に該当する場合)。

Ø  未据付資材の会計処理

本基準は,コストに基づくインプット法を使用するにあたって,発生したコストが履行義務の充足に係る進捗度に比例しない場合に行うインプット法の修正を,その代表的なケースから「未据付資材の会計処理」と呼び,設例9で解説しています。

≪事例(設例9)≫

X111月に,企業は,顧客との間でリフォーム工事契約を締結し,対価5,000で,3階建て建物を改装して新しいエレベーターを設置することを請け負いました。企業は,エレベーターの設計や製造には関与しませんが,顧客に移転する前にエレベーターに対する支配を獲得し,自ら本人として顧客にエレベーターを納入し,設置します。

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を見積るため,コストに基づくインプット法を選択し,合計予想原価を4,000(うちエレベーター1,500)と見積ります。

インプット法  取引価格    5,000

予想原価    4,000 (うちエレベーター1,500

予想利益    1,000

顧客は,X112月に,エレベーターが現地に引き渡された時にエレベーターに対する支配を獲得しますが,エレベーターはX26月までは設置されません。決算日(X112月)の企業の実績原価は,エレベーター1,500,その他の原価500の合計2,000でした。

① 棚卸資産の認識

企業は,他の当事者からエレベーターの移転を受けた時は,本人としてエレベーターの支配を獲得するので,次のとおり,棚卸資産を認識します。

   

     棚卸資産の消滅

企業は,X112月,顧客にエレベーターを移転し,顧客がその支配を獲得したので,エレベーターを棚卸資産から売上原価に振り替え,実績原価に算入します。

   

※もし,進捗度の見積りにあたって企業が未だ据付けを行っていない財のコストを除外する場合には,この仕訳をせず,財を据え付けるまで棚卸資産に計上しておく方法も考えられますが,顧客が財に対する支配を獲得しながら,企業がその財を棚卸資産として認識し続けることになるため,適切であるとはいえません(IFRS/BC 171)。

③ 収益の認識

企業は,決算日(X112月)に,コストに基づくインプット法に従い,実績原価に基づき進捗度を見積り,次のとおり,収益を認識します。

         

     ◎ 実績原価2,000÷合計予想原価4,00050% 対価5,000×50%=2,500

企業が,エレベーターの調達コストを進捗度の見積りに含めると,そのコストに対応する契約全体の利益を認識することになります。しかし,企業の履行は,エレベーターの据付けであって,その設計や製造には関与しておらず,据付けの前に契約全体の利益を認識することは,企業の履行の程度を過大に評価し,収益を過大に表示することになります。

そこで,本基準は,このような状況では,企業は,エレベーターの移転について,その調達コストと同額で収益を認識すべきであり,コストに基づくインプット法による進捗度の見積りからその調達コストを除外すべきであるとします(IFRS/BC 171)。

【インプット法の修正(未据付資材の会計処理)】

企業は,決算日(X112月)に,未据付資材の会計処理(指針22(2))に従い,コストに基づくインプット法を修正し,実績原価からエレベーターの調達のコストを除外して進捗度を見積り,エレベーターの移転に対応する収益はその調達コストと同額とし,次のとおり,収益を認識します。

  インプット法(修正前)  ➡  インプット法(修正後) 未据付資材

取引価格    5,000       取引価格  3,500   取引価格  1,500

予想原価    4,000       予想原価  2,500    予想原価  1,500

     予想利益    1,000       予想利益  1,000   予想利益     0

     

    ◎ 実績原価500÷合計予想原価2,50020% 対価3,500×20%=700

      収益700 + エレベーターの収益(=調達コスト)1,500 2,200

※未据付資材の会計処理は,建設型契約の部分集合について(要件ⅰ),全体との比較でコストが多額な財だけについて(要件ⅲ),かつ,企業が実質的に単純な調達サービスを顧客に提供している場合にだけ(要件ⅳ),顧客が当該財に対する支配を当該財に関連するサービスに対する支配と相当程度前に獲得する状況で(要件ⅱ)適用することを意図しています。このような状況で,収益を当該財のコストの範囲で認識することにより,当該契約における企業の利益相当額の描写が,顧客が自ら当該財を調達して企業がそれを据え付け又は建設活動に使用する場合に企業が認識するであろう利益相当額と同様になることを確保します(IFRS/BC 172)。

合理的な進捗度の見積り

l  収益認識の停止

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる場合にのみ,一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識します(第44項)。

企業は,進捗度を適切に見積るための信頼性のある情報が不足しており,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には(第139項),一定の期間にわたり充足される履行義務について収益を認識しません(第44項)。

l  原価回収基準

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないが,当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで,原価回収基準により回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識します(第45項)。

原価回収基準とは,履行義務を充足する際に発生する費用のうち,回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識する方法をいいます(第15項)。

特に契約の初期の段階では,履行義務を完全に充足するまでに予想されるインプット等を合理的に見積ることができないが,それでも最終的には発生する費用を回収することが見込まれる場合があります。そのような場合には,企業が履行義務の完全な充足に向けて進捗しているという事実を反映するために少なくとも何らかの収益を認識すべきであることから,本基準は,発生した原価の範囲内でのみ収益を認識することにします(IFRS/BC 180)。この取扱いによると,工事契約に係る財務指標を歪め期間比較を困難にするおそれがあるとの意見もありましたが,本基準は,履行義務の完全な充足に向けて進捗しているという事実を反映するために一定の額の収益を認識すべきであるというIFRS15号の根拠を否定するまでには至らないと考えられるので,この取扱いを取り入れることとしています(第153項)。

Ø  見積りの見直し

履行義務の充足に係る進捗度は各決算日に見直すので(第43項),当該進捗度を合理的に見積ることができるか否か,履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれるか否かも各決算日に見直すことになります。したがって,当該見直しにおいて,契約における取引開始日後に状況が変化し,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができなくなったが,当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には,その時点から原価回収基準により処理します(第154項)。

代替的な取扱い

l  契約の初期段階における原価回収基準の取扱い

本基準第45項に従うと,一定の期間にわたり充足される履行義務について,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができないが,当該履行義務を充足する際に発生する費用を回収することが見込まれる場合には,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができる時まで,原価回収基準により処理することになります。ただし,詳細な予算が編成される前等,契約の初期段階においては,その段階で発生した費用の金額に重要性が乏しいと考えられ,当該契約の初期段階に回収することが見込まれる費用の金額で収益を認識しないとしても,財務諸表間の比較可能性を大きく損なうものではないと考えられます(指針172)。

そこで,本指針は,一定の期間にわたり充足される履行義務について,契約の初期段階において,履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積ることができない場合には,当該契約の初期段階に収益を認識せず,当該進捗度を合理的に見積ることができる時から収益を認識することができると定めます(指針99)。

工事契約等から損失が見込まれる場合の取扱い

本基準の適用開始により廃止される企業会計基準第15号「工事契約に関する会計基準」における工事損失引当金の取扱いを踏襲し,次のとおり定めます(指針162,163)。

工事契約について,工事原価総額等(工事原価総額のほか,販売直接経費がある場合にはその見積額を含めた額)が工事収益総額を超過する可能性が高く,かつ,その金額を合理的に見積ることができる場合には,その超過すると見込まれる金額(工事損失)のうち,当該工事契約に関して既に計上された損益の額を控除した残額を,工事損失が見込まれた期の損失として処理し,工事損失引当金を計上します(指針90)。受注制作のソフトウェアにも工事契約に準じて適用します(指針91)。なお,見込まれる工事損失の中に為替相場の変動による部分が含まれている場合であっても,その部分を含めて会計処理の要否及び計上すべき工事損失の額の算定を行うことになると考えられます(指針162)。

工事損失引当金は,貸借対照表の流動負債の区分に,その内容を示す科目をもって表示します。また,工事損失引当金の繰入額は,損益計算書の売上原価として表示します。なお,同一の工事契約に関する棚卸資産と工事損失引当金がともに計上されることとなる場合には,貸借対照表の表示上,相殺して表示することができます(指針106)。受注制作のソフトウェアにも工事契約に準じて適用します(指針106-2)。

なお,その他の顧客との契約から損失が見込まれる場合の取扱いについては,企業会計基準注解(18)に従って引当金の計上の要否を判断することが考えられます(指針162)。

 

【凡例】 第〇項   企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」

指針〇    同適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」

設例〇   同適用指針設例

IFRS第〇項    IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」

     IFRS/BC    IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」(結論の根拠)

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