履行義務の充足

顧客による検収

20221 28

弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

※本文中で引用,参照する会計基準書等の条項は,末尾の凡例に表示の略語で記載しています。

適用指針「顧客による検収」の概要

検収とは,約束した財又はサービスが契約において合意された条件(数量品質性能仕様等)に従っているかどうかを検査して受領することをいいます

企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,一時点で充足される履行義務について,財又はサービスに対する支配を顧客に移転した時点を決定するため,顧客による検収が次の1~3のいずれの場合であるかに区分して検収又は試用販売の契約条項の影響を考慮します(第40(5)IFRS/B 83)。

1 企業が合意された仕様に従っていると客観的に判断することができる場合

顧客に移転する財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができる場合には,顧客による検収は形式的なものであり,顧客が財又はサービスに対する支配を獲得する時点に関する判断に影響を与えません(指針80)。

2 企業が合意された仕様に従っていると客観的に判断することができない場合

顧客に移転する財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができない場合には,顧客による検収が完了するまで,顧客は当該財又はサービスに対する支配を獲得しません(指針82)。

3 試用販売

企業が商品・製品を顧客に試用目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を約束していない場合には,顧客が商品・製品を検収するまであるいは試用期間が終了するまで,当該商品・製品に対する支配は顧客に移転しません(指針83)。

適用指針「顧客による検収」(指針8083)は,顧客による検収が予定されている契約(試用販売を含みます。)において,財又はサービスに対する支配を顧客に移転する時点についての指針を提供します。

検収

l  検収

検収とは,約束した財又はサービスが契約において合意された条件(数量品質性能仕様等)に従っているかどうかを検査して受領することをいいます

検収は,商法526条が定める「検査」に該当します。商法526条は,商人間の売買について,買主(顧客)が売主(企業)から提供を受けた目的物を遅滞なく検査することを義務づけ,適時に契約不適合(瑕疵)を発見して通知しなければ,売主に対する責任追及を制限します。

l  検収の契約条項

顧客との契約では,多くの場合,検収が予定されており,取引の実情に応じて,商法526条の任意規定を明確化又は修正する特約(検収の契約条項)を定めます。

例えば,商法526条は,顧客が受領して目的物を「遅滞なく」検査することを義務づけますが,顧客との契約では,これを明確化し,目的物の納品,納入又は受領後,顧客が所定の期間内に検査結果を通知することを義務づけ,通知がないまま所定の期間を経過したときは検査に合格したものとみなす旨を定める場合が少なくありません。また,約束した財又はサービスが契約に適合しないこと(契約不適合)を,民法改正前の用語に倣い,「瑕疵」と表現することも多く見受けられます。

l  物理的占有の移転を伴わない支配の移転

商品・製品の販売では,顧客との契約において,検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める場合が少なくありません。このような契約では,「引渡し」により商品・製品の法的所有権を顧客に移転する旨の明示の合意があるか,又は少なくとも黙示の合意が含まれると解釈できるため,「引渡し」の時点で顧客が当該商品・製品の法的所有権を有していること(第40(2))を満たし,当該商品・製品に対する支配を獲得することとなります。

検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める契約では,通常,企業が顧客の住所・営業所等に商品・製品の物理的占有を移転することを「納品」,「納入」等のように「引渡し」と異なる用語で表現します。このような場合,「納品」,「納入」等の時点では,企業が商品・製品の物理的占有を移転したこと(第40(3))を満たしますが,顧客が当該商品・製品の法的所有権を有していること(第40(2))を満たさず,顧客は未だ当該商品・製品に対する支配を獲得していません。

したがって,検収の完了(検査の合格)をもって「引渡し」と定める契約では,一般に,企業が「納品」,「納入」等により商品・製品の物理的占有を顧客に移転しますが,顧客がその物理的占有を保持しながら検収の完了をもって当該商品・製品に対する支配が企業から顧客に移転します。

l  検収と支配の移転

検収は,顧客が自ら検査して企業が合意された仕様に従った資産を移転し,履行義務を充足したことを確認する行為であり,顧客が資産を検収したことは,顧客が当該資産の使用を指図し,当該資産からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力を獲得したことの指標となります(指針14(5),80)。

もっとも,商品・製品の販売では,多くの場合,検収の完了(検査の合格)をもって商品・製品の法的所有権が顧客に移転するので,法的所有権(第40(2))の指標とは別に,検収(第40(5))の指標を考慮する必要がありません。

しかし,顧客との契約において,検収の完了前に法的所有権が移転する旨の定めがある場合や法的所有権の移転時期が不明確な場合には,検収の契約条項の影響を検討することにより,顧客が企業から提供を受けた資産の検収を完了するまで当該資産に対する支配を獲得しないという消極的な指標として有用になる場合があります。

顧客による検収の会計処理

企業は,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,一時点で充足される履行義務について,財又はサービスに対する支配を顧客に移転した時点を決定するため,顧客による検収が次のa~cのいずれの場合であるかに区分して検収又は試用販売の契約条項の影響を考慮します(第40(5)IFRS/B 83)。

a 企業が合意された仕様に従っていると客観的に判断することができる場合

ⅰ 財又はサービスに対する支配を顧客に移転した時点

顧客に移転する財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができる場合には,顧客による検収は形式的なものであり,顧客が財又はサービスに対する支配を獲得する時点に関する判断に影響を与えません。

例えば,所定の大きさや重量を確認する場合のように検査の内容が客観的で比較的単純な場合には,企業は,顧客による検収の前に契約において合意された仕様に従っていることを判断することができます(指針80)。また,類似の財又はサービスに関する企業の取引実績により,顧客に提供した財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていることを客観的に示すことができる場合もあります(IFRS/B 84)。

このような契約では,企業は,顧客による検収の前に,財又はサービスに対する支配を顧客に移転する場合があります。

ⅱ 残存履行義務の検討

企業は,顧客による検収の前に,財又はサービスに対する支配を顧客に移転する場合には,取引価格の一部を配分する残存履行義務(例えば,設備の据付け)を負うかどうかについて,本基準第32項~第34項に従って判断します(指針81)。

b 企業が客観的に判断できない場合

顧客に移転する財又はサービスが契約において合意された仕様に従っていると企業が客観的に判断することができない場合には,顧客による検収が完了するまで,顧客は当該財又はサービスに対する支配を獲得しません(指針82)。

c 試用販売

企業が商品・製品を顧客に試用目的で引き渡し,試用期間が終了するまで顧客が対価の支払を約束していない場合には,顧客が商品・製品を検収するまであるいは試用期間が終了するまで,当該商品・製品に対する支配は顧客に移転しません(指針83)。

 

【凡例】 第〇項   企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」

指針〇    同適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」

IFRS/B          IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」付録B(適用指針)

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