履行義務の充足

ライセンス供与

202216

弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

※本文中で引用,参照する会計基準書等の条項は,末尾の凡例に表示の略語で記載しています。

適用指針「ライセンスの供与」の概要

ライセンスとは,企業の知的財産に対する顧客の権利をいい(指針61),企業の知的財産に対して顧客の権利を設定することをライセンス供与といいます。ライセンスの本質は,知的財産の保有者(ライセンサー)が,相手方(ライセンシー)に対し,許諾した一定の知的財産の利用を制限しない(不作為)義務を負うことにあります。

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,ライセンスを目的とする契約(ライセンス契約)では,ライセンスを供与する約束を独立の履行義務として識別し,ライセンスを含む契約では,ライセンスを供与する約束が契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と束ねて単一の履行義務を識別し(指針61),逆に,別個のものである場合には,独立の履行義務として識別します。

企業は,ライセンスを供与する約束を独立の履行義務として識別した場合には,Step「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約における取引開始日に,ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利又はライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利のいずれを提供するものかを区分し,を一定の期間にわたり充足される履行義務として,を一時点で充足される履行義務として処理します(指針62)。

また,企業は,顧客が契約において知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価(売上高又は使用量に基づくロイヤルティ)については,変動対価の額に関する不確実性が解消される(顧客に売上高又は使用量の実績が生じる)まで収益の認識が禁止されます(指針67)。

適用指針「ライセンスの供与」(指針6168)は,ライセンスを供与する約束を独立の履行義務として識別するかどうかや,ライセンス供与における企業の約束の性質(履行義務の属性)をどのように判定するか,売上高又は使用量に基づくロイヤルティの収益認識の制限など,ライセンスの供与の会計処理を定めます。

ライセンス供与

l  ライセンス供与

ライセンスとは,企業の知的財産に対する顧客の権利をいい(指針61),企業の知的財産に対して顧客の権利を設定することをライセンス供与といいます。

ライセンス供与は,企業の知的財産に顧客の権利を設定するという2つの要素(知的財産とライセンス)からなります。

l  知的財産

知的財産とは,特許,著作,意匠,商標,ノウハウ(営業秘密その他技術上又は営業上の情報)等の無体物としての財産であり,将来的にも広がる可能性があります。

知的財産は,その保有者の許諾(ライセンス)を受けなければ,法律上又は事実上,利用ができないという性質があります。

本指針は,ライセンスを供与する知的財産の例として,①ソフトウェア及び技術,②動画,音楽及び他の形態のメディア・エンターテインメント,③フランチャイズ,④特許権,商標権及び著作権を挙げます(指針143)。

l  ライセンス

ライセンスは,企業の知的財産を一定の範囲で利用する顧客の権利です。ライセンスの本質は,知的財産を保有する企業が,顧客に対し,許諾した一定の知的財産の利用を制限しない(不作為)義務を負うことにあり,その反面として,顧客は,企業の知的財産を一定の範囲で利用する権利を取得します。企業は,顧客との契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を定めますが,本基準は,これをライセンスの属性と呼びます(IFRS/B 62(a))。

ライセンスは,顧客の権利であり,その基礎となる企業が保有する知的財産そのものとは異なります。ライセンスの属性は,企業の活動が知的財産そのものを変化させるかどうかとは関係がありません(指針66(1),148参照)。

ライセンスの本質

顧客に供与するライセンスが,ライセンスでない他の財又はサービスと別個のものかどうか(第34項参照)を判定するにあたって,ライセンスの本質を考慮することが有用です。

ライセンスの本質は,知的財産の保有者(ライセンサー)が,相手方(ライセンシー)に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限しない(不作為)義務を負うことにあります。

ライセンスは,この本質に関連し,次のa又はbに分類することができます。

a 法律上の禁止権を解除するライセンス

企業が保有する知的財産が,特許権,著作権,意匠権,商標権,不正競争防止法により保護される知的財産(営業秘密等)のように,法律上,第三者に対して一定の知的財産の利用を禁止する(侵害行為を差し止める)ことができる場合には,ライセンスの本質は,契約により,企業が,顧客に対し,一定の知的財産の利用に対する禁止権(侵害行為差止請求権)を行使しない義務を負うことにあります。

この類型のライセンスは,顧客による一定の知的財産の利用に対する禁止権(侵害行為差止請求権)を行使しないことだけがライセンスの本質に関わる約束です。そのほかに,企業が顧客による一定の知的財産の利用を事実上容易にするために財又はサービスを顧客に移転することは,別個の財又はサービスとして独立の履行義務を識別する場合があります。

一般に特許権,意匠権,商標権のように登録型の知的財産は,このライセンスに分類されますが,著作権,不正競争防止法により保護される知的財産のように非登録型の知的財産は,法律上の禁止権が存在するかどうかが不確実であるため,法律上の禁止権を解除するライセンスと事実上の禁止状態を作り出すライセンスの両方の性質を有することも少なくありません。

b 事実上の禁止状態を作り出すライセンス

企業が保有する知的財産が,法律上,第三者に対し,一定の知的財産の利用を禁止することが不可能又は不確実であるが,保有者から許諾を受けなければ,事実上利用ができない場合には,ライセンスの本質は,企業が,顧客に対し,一定の知的財産の利用を事実上可能にし,契約により,顧客にそれ以外の利用や第三者への提供をしない義務を負わせることにあります。

例えば,著作権法は,プログラムの著作物を本来の用法に従って使用(起動,操作等)することや第三者に提供することを禁止していないため,企業は,ソフトウェア使用許諾契約で,顧客にプログラム著作物を提供してその使用を事実上可能にするとともに,それ以外の利用や第三者への提供を禁止することで,誰もが企業の許諾なしにプログラム著作物を利用できない事実状態を作り上げます。

この類型のライセンスは,企業が,①顧客に一定の知的財産の利用を事実上可能にする行為(例えば,プログラム著作物の提供)と,②顧客にそれ以外の利用や第三者への提供を禁止すること(例えば,一定の範囲外のインストール禁止)は,ライセンスの本質に関わる不可分な約束です。②は,顧客が企業に対して負う契約上の義務であり,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における約束として識別することはありません。

ライセンスを供与する約束の識別

l  ライセンスを供与する約束

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,契約における取引開始日に,契約における約束として,ライセンスを供与する約束を識別します。

ライセンスを供与する約束は,契約書では,一般に,企業が,顧客に対し,企業が保有する知的財産を一定の範囲(期間,地域,用途等)で利用することを「許諾する」という表現を用います。この許諾がライセンスを供与することを意味しており,企業は,顧客に対し,法律上又は事実上,許諾した一定の知的財産の利用を制限しない(不作為)義務を負います。企業は,この義務を負うことによって,顧客に対し,企業が保有する知的財産を一定の範囲で利用できるようにするサービスを提供します。

ライセンスを供与する約束が契約の目的とされているかどうかによって,次のa又はbに分類することができます。

a ライセンスを目的とする契約(ライセンス契約)

企業(ライセンサー)が一定の知的財産の利用を顧客(ライセンシー)に許諾し,顧客がその対価(ライセンス料)を支払うことを約する契約(ライセンス契約)は,ライセンスを目的とする契約であり,企業は,ライセンスを供与する約束を,契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務として識別します。

フランチャイズ契約も,多くの場合,企業(フランチャイザー)が特許権やノウハウ(営業秘密),商標権等の知的財産の利用を顧客(フランチャイジー)に許諾し,顧客がその対価(加盟金,ロイヤルティ)を支払うので,ライセンス契約に該当します。

ライセンスを目的とする契約(ライセンス契約)では,当事者は,一般に契約の目的とされたライセンスを供与する約束を明示し(第127項),多岐にわたる契約条項を定める契約書を取り交わします。

Ø  契約に含意されている約束

ライセンスを目的とする契約には,契約に含意されている約束が含まれる場合が少なくありません。

例えば,利用可能になった時点で提供されるソフトウェアのアップグレード(IFRS/BC 87),フランチャイザーが行う新製品・メニューの投入,販売促進キャンペーン等は,契約書に定めがなくとも,企業の取引慣行,公表した方針等により,契約を締結する時までに企業が提供するという顧客の合理的な期待が生じている場合があります。

ライセンスを供与する約束とは別個の財又はサービスを移転するもの(例えば,ソフトウェアのアップグレード)は,契約に含意されている約束として独立の履行義務を識別しますが,顧客に財又はサービスを移転しないもの(例えば,フランチャイザーが行う新製品・メニューの投入)は,顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動に該当します。

b ライセンスを含む契約

ライセンスでない他の財又はサービスを契約の目的とする売買契約や請負契約がライセンスを供与する約束を含む場合があります。

ライセンスを含む契約では,当事者は,契約書において明示又は黙示にライセンスの供与を約束するほか,ライセンスに関する契約条項を定める場合もあります。

ライセンスを含む契約では,企業は,他の種類の契約と同様に,Step2「契約における履行義務を識別する」で,本基準第32項~第34項に従って,当該契約における履行義務を識別します(指針144)。

まず,企業は,契約における約束として,ライセンスでない契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束(契約の目的とされた財又はサービスを提供する強制力のある義務)を識別するとともに,ライセンスを供与する約束(企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務や契約に含意されている約束)を識別します。

次に,ライセンスを供与する約束が,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものかどうかを判定し,別個のものでない場合には,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と束ねて単一の履行義務を識別し(指針61),逆に,別個のものである場合には,独立の履行義務を識別します。

例えば,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と別個のものでないライセンスとして,次のⅰ又はⅱがあります(IFRS/B 54)。

ⅰ 有形の財の一部を構成し,その財の機能性と不可分であるライセンス

ソフトウェアが有形の財(例えば,自動車)の構成部分となっていて,その財がどのように機能するかに大きく影響を与えるものなど,ライセンスが有形の財の一部を構成し,その財の機能性と不可分である場合には,当該ライセンスは,有形の財に統合されており,アウトプットである当該財を製造するためのインプットにすぎません(指針6(1))。顧客は,有形の財との組合せなしに当該ライセンスから単独で便益を享受することができず(第34(1)),当該ライセンスを供与する約束を有形の財を移転する約束と区分して識別できないため(第34(2)),別個のものとはいえません(IFRS/BC 406(a))。

ⅱ 関連するサービスとの組合せでのみ顧客が便益を享受することができるライセンス

例えば,企業の主幹設備(システム等)にオンラインのアクセスによってのみ顧客がソフトウェアを使用することができるサービス(ホスティング又はストレージのサービス等)では,ライセンスの使用は,オンライン・サービスへの依存性又は相互関連性が高いといえます(指針6(3))。顧客は,ライセンスに対する支配を獲得しておらず,オンライン・サービスなしに当該ライセンスから単独で便益を享受することができず(第34(1)),当該ライセンスを供与する約束をオンライン・サービスを移転する約束と区分して識別できないため(第34(2)),別個のものとはいえません(IFRS/BC 406(b))。

ライセンス供与と別個の財又はサービス

l  顧客による知的財産の利用を事実上可能又は容易にするための財又はサービスの提供

企業は,顧客に対し,ライセンスを供与するとともに,許諾した一定の知的財産の利用を事実上可能又は容易にするための財又はサービスを提供することも約束する場合があります。

企業は,このような財又はサービスを提供する約束がライセンスを供与する約束と別個のものかどうか(第34項参照)を判定するにあたって,ライセンスの本質を考慮します。

a 法律上の禁止権を解除するライセンス

法律上の禁止権を解除するライセンスでは,顧客が,企業に無断で知的財産を事実上利用すれば,企業から禁止権(侵害行為差止請求権)を行使されるため,ライセンスを供与する約束は,その行使をしないようあらかじめ企業から許諾を受けることを意味し,禁止権の不行使(不作為)だけがライセンスの本質に関わる約束です。

したがって,企業は,顧客による一定の知的財産の利用を事実上容易にするための財又はサービスを顧客に移転する約束を,別個の財又はサービスとして独立の履行義務を識別する場合があります。例えば,企業が商品の製造・販売の方法に関する特許やノウハウ(営業秘密)のライセンスを供与するとともに,公開されている特許情報や開示したノウハウ(マニュアル)とは別に,顧客の従業員を実技形式で指導支援する約束は,多くの場合,別個の財又はサービスとして独立の履行義務を識別します。

b 事実上の禁止状態を作り出すライセンス

事実上の禁止状態を作り出すライセンスでは,顧客は,一定の知的財産の利用を事実上可能にするための企業の行為がない限り,その知的財産を事実上も利用できないため,ライセンスを供与する約束は,企業から当該行為(作為)を伴う許諾を受けることを意味します。

顧客による一定の知的財産の利用を事実上可能にするための企業の行為には,例えば,動画・音楽・プログラム等を保存した記憶媒体(メディア)の引渡し,ソフトウェアの使用やオンライン・サービスへのアクセスに必要なコード(ユーザID・パスワード等)の提供があります。これらの財又はサービスは,ライセンスの供与とは別個のものとなり得るとしても(第34(1)),多くの場合,当該財又はサービスを移転する約束は,ラインセンスを供与する約束と区分して識別できないため(第34(2)),別個のものとはいえず,束ねて単一の履行義務を識別します。

l  独占的・非独占的なラインセンスの供与

ライセンスを供与する契約条項では,「独占的な」又は「非独占的な」権利を許諾するという表現が用いられることが少なくありません。ライセンス契約に独特の慣行的な表現であり,一般的には,次のように解釈し,ライセンスを供与する約束と区分して識別できるかどうか(第34(2)参照)を判定します。

a 独占的な権利

顧客(ライセンシー)だけが許諾を受けた一定の知的財産の利用を独占するという意味合いであり,企業(ライセンサー)は,顧客に対し,顧客に許諾した一定の知的財産の利用を第三者に許諾しない義務を負います。

独占的な権利のライセンスのうち,企業(ライセンサー)自らも,顧客に対し,一定の知的財産を利用しない義務を負う場合を専有型と呼び,特許権,商標権等の登録型の知的財産では専用実施(使用)権として登録できる場合もあります。契約書では,一般に実施(使用)の「専有」の表現により,これを明示します。これに対し,契約書で特に明示しない場合には,企業による知的財産の利用が制限されない非専有型です。

独占的な権利のライセンスでは,ライセンスを供与する約束のほか,契約における約束(企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務)として,顧客に許諾した一定の知的財産の利用を第三者に許諾しない義務(専有型では,これに加え,自らも一定の利用をしない義務)を識別します。企業は,このような追加的な約束により,当該顧客以外からライセンスの対価を受け取ることができなくなるため,通常,顧客に対し,非独占的な権利のライセンスより高額の対価を要求します。

このような追加的な約束は,顧客が購入したライセンスに独占性を付与して経済的価値を高めるものであり,顧客が追加的な約束のみを購入し,ライセンス自体を購入しないことを決定することができません。したがって,このような追加的な約束は,ライセンスへの依存性や相互関連性が高く(指針6(3)),通常,ライセンスを供与する約束と区分して識別できないため(第34(2)),別個のものとはいえず,束ねて単一の履行義務を識別します。

b 非独占的な権利

顧客(ライセンシー)が許諾を受けた一定の知的財産の利用を独占しないという意味合いであり,企業は,顧客にライセンスを供与すること以外に追加的な拘束を受けません。企業は,当該顧客以外の第三者に対しても,同一の知的財産につき当該顧客に許諾した範囲の利用を重ねて許諾して,第三者からもライセンスの対価を受け取ることができます。

ライセンス供与と履行義務の属性の判定

l  独立の履行義務であるライセンス

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,ラインセンスを供与する約束を独立の履行義務として識別した場合には,Step「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約における取引開始日に,ライセンス供与における企業の約束の性質が,次のa又はbのいずれを提供するものかを区分し,一定の期間にわたり充足される履行義務又は一時点で充足される履行義務として処理します(指針62)。

a ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利である場合には,一定の期間にわたり充足される履行義務として処理し,履行義務の充足に係る進捗度を見積り,当該進捗度に基づき収益を一定の期間にわたり認識します(指針62)。

b ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利である場合には,一時点で充足される履行義務として処理し,顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できるようになった時点で収益を認識します(指針62)。

l  独立の履行義務でないライセンス

企業は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,ラインセンスを供与する約束が別個のものでなく,契約の目的とされた財又はサービスを移転する約束と束ねて単一の履行義務を識別した場合には,Step「履行義務を充足した時又は充足するにつれて収益を認識する」で,契約の目的とされた財又はサービスを移転する履行義務(ライセンス供与を含みます。)について,契約における取引開始日に,本基準第35項~第40項に従って,履行義務の属性(一定の期間にわたり充足される履行義務か,又は一時点で充足される履行義務か)を判定します(指針61)。

ただし,ライセンスと組み合わされた契約の目的とされた財又はサービス(アウトプット)が,その主要な又は支配的な構成要素としてライセンスを含む場合には,独立の履行義務であるライセンスと同様に,ライセンス供与における企業の約束の性質が,企業の知的財産にアクセスする権利又は企業の知的財産を使用する権利のいずれを提供するものかを考慮し,履行義務の属性を判定します(IFRS/BC 407,414X)。

ライセンス供与における企業の約束の性質

l  ライセンスの性質

ライセンスは,企業の知的財産を所有する権利ではなく,それを使用する権利であり,顧客は,権利の設定を受けた一時点で,その権利を行使する(使用する)かどうかを指図し,当該権利からの残りの便益のほとんどすべてを享受する能力,すなわちライセンスに対する支配を獲得するとみることが“支配”の概念に整合します(IFRS/BC 402)。

しかし,ライセンスは,非常に多様性があり,広範囲の異なる特徴及び経済的特性によって著しい相違があります。例えば,企業が,顧客に対し,一定の期間,企業の商標を使用し,企業の製品を販売する権利を顧客に付与するフランチャイズの場合(設例25),企業が保有する知的財産の形態・機能性・価値が企業の活動(例えば,顧客の変化する嗜好の分析や製品の改善,販売促進キャンペーン等)により継続的に変化しているので(動的である),顧客は,ライセンスが供与される一時点で存在している形態・機能性・価値での知的財産の使用を指図しても,ライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを享受することができません。このような場合,ライセンスは,その時々において存在している形態・機能性・価値での知的財産に対するアクセスを顧客に提供しており,アクセスの提供につれて顧客が便益を享受しているとみることができます(IFRS/BC 403)。

そこで,本指針は,顧客がライセンスに対する支配をいつ獲得するかを判断するため,直接“支配”の概念を厳密に適用するのではなく,企業の活動が知的財産を変化させるのかどうかに着眼し,ライセンス供与における企業の約束の性質を,次のa又はbの2つの種類に区分します(指針145IFRS/BC 414D)。

a ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利である場合には,企業の知的財産へのアクセスを提供するという企業の履行からの便益を,企業の履行が生じるにつれて顧客が享受しているとみることができます(第38(1)参照)。そこで,ライセンスを供与する約束を一定の期間にわたり充足される履行義務として処理します(指針146)。

b ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利

ライセンス供与における企業の約束の性質が,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利である場合には,当該知的財産はライセンスが顧客に供与される時点で形態と機能性の観点で存在しており,その時点で顧客がライセンスの使用を指図し,当該ライセンスからの残りの便益のほとんどすべてを享受することができます。そこで,ライセンスを供与する約束を一時点で充足される履行義務として処理します(指針147)。

l  企業の約束の性質の判断枠組み

本指針は,ライセンス供与における企業の約束の性質を2つの種類のいずれかに区別されることを確保するため,知的財産が静的であるよりも変化している(動的である)方が判定が容易であると考えられることから,企業の知的財産にアクセスする権利についての要件だけを定め,当該要件に該当しない場合には,企業の知的財産を使用する権利に区分します(IFRS/BC 408)。

l  企業の約束の性質の判定にあたって考慮しない要因

企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質の判定にあたって,次のa及びbの要因を考慮しません(指針66)。

a 時期,地域又は用途の制限(指針66(1)

企業は,顧客との契約において,顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を定めますが,これらは顧客の権利の範囲(ライセンスの属性)であり,その基礎となる企業が保有する知的財産そのものの範囲(属性)ではありません。ライセンスの属性は,企業の活動が知的財産そのものを変化させるかどうかとは関係がないため,企業の活動が知的財産に著しく影響を与えるかどうか(指針63(1))の判定にあたって考慮しません(指針148)。ただし,ライセンスに関する契約条件は,企業が保有する知的財産が受けた著しい影響が顧客の権利にも直接的に及ぶかどうか(指針63(2))に関係します。

b 企業が知的財産に対する有効な特許を有しており,当該特許の不正使用を防止するために企業が提供する保証(指針66(2)

企業が有効な知的財産を有しているという保証やその侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業の知的財産の価値を保護し,顧客に供与したライセンスが契約において合意された仕様に従っているという保証を顧客に提供するだけで,企業が保有する知的財産を変化させる活動を行うことを約束するものではありません。そのため,これらの保証や約束は,企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが契約により定められていること(指針63(1))には該当しません(指針148)。

なお,企業は,顧客との契約において,顧客に移転した財又はサービスについて,特許権,商標権又はその他の権利侵害を理由とする第三者の請求によって,顧客が負債を負い,又は損害を蒙った場合にその負担及び損害を顧客に補償することを約束する場合もありますが,取引価格を配分すべき履行義務ではありません(指針134)。

企業の知的財産にアクセスする権利

l  要件

企業は,次のa~cの要件のすべてに該当する場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利に区分します(指針63)。

a ライセンスにより顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことが,契約により定められている又は顧客により合理的に期待されていること(指針63(1)

企業の知的財産にアクセスする権利は,ライセンス期間にわたり企業の知的財産の形態・機能性・価値が継続的に変化している(動的である)ことに本質があり,顧客との契約において,企業が知的財産を変化させる活動を行うことが契約により定められている又は顧客により合理的に期待されている必要があります。企業の知的財産を変化させる活動は,顧客に財又はサービスを直接に移転しない(履行義務を充足しない)活動であり,企業の継続的な通常の活動や商慣行の一部として行われる場合があります(IFRS/BC 409)。

この要件は,“顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動”を企業が行うことが,“契約により定められている又は顧客により合理的に期待されている”ことの2つの要素からなります。

ⅰ 顧客が権利を有する知的財産に著しく影響を与える活動

企業の活動が知的財産を変化させるかどうかは,知的財産が顧客に便益を提供する能力に著しく影響を与えるかどうかを基礎に判定します。知的財産が顧客に便益を提供する能力は,知的財産の形態又は機能性から得られる場合もあれば,知的財産の価値から得られる場合もあります(IFRS/BC 414G)。

企業の活動が影響を与える対象は,企業が保有する知的財産そのものであり,知的財産に設定した顧客の権利(ライセンス)ではありません。顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)は,ライセンスの属性であり,企業の活動が知的財産そのものを変化させるかどうかに関係がありません(指針66(1),148)。

本指針は,企業の活動が次の又はのいずれかに該当する場合には,顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与えることを明確にしています(指針65)。

 当該企業の活動が,知的財産の形態(例えば,デザイン又はコンテンツ)又は機能性(例えば,機能を実行する能力)を著しく変化させると見込まれること(指針65(1)

顧客が権利を有している知的財産の形態又は機能性が著しく変化すれば,顧客が知的財産から便益を享受する能力が著しく変化すると考えられます(IFRS/BC 414G)。他方で,ソフトウェア,薬品の製法並びに映画,テレビ番組及び音楽作品の録音物等のメディア・コンテンツ等,知的財産が重大な独立した機能性を有する場合には,当該知的財産の便益の実質的な部分が当該機能性から得られるため,企業の活動が知的財産の形態又は機能性を著しく変化させない限り,顧客が知的財産からの便益を享受する能力は著しい影響を受けません(指針150)。

 顧客が知的財産からの便益を享受する能力が,当該企業の活動により得られること又は当該企業の活動に依存していること(指針65(2)

例えば,ブランドからの便益は,知的財産の価値を補強又は維持する企業の継続的活動から得られるか,あるいは当該活動に依存していることが少なくありません。このように,顧客が知的財産からの便益を享受する能力がライセンスを供与した後の企業の活動により得られるか,あるいは当該活動に依存している場合には,当該活動によって必ずしも知的財産の形態又は機能性が著しく変化しなくとも,当該活動は,顧客が知的財産からの便益を享受する能力に著しく影響を与えると考えられます(IFRS/BC 414G)。

ⅱ 契約により定められている又は顧客により合理的に期待されていること

企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが契約により定められているかどうかは,顧客との契約において企業が負担し又は拘束を受ける強制力のある義務を考慮して判定します。企業が有効な知的財産を有しているという保証やその侵害行為に対して知的財産を防御するという約束は,企業が保有する知的財産を変化させる活動を企業が行うことを約束するものではありません(指針66(2),148)。

企業が知的財産に著しく影響を与える活動を行うことが顧客により合理的に期待されていることを示す可能性のある要因としては,企業の取引慣行や公表した方針等があります。また,顧客が権利を有している知的財産についての企業と顧客との間での経済的利益の共有共有された経済的利害)の存在もその要因となります(指針149)。売上高に基づくロイヤルティの存在は,ライセンス供与における企業の約束の性質を決定づける要件ではありませんが,顧客が権利を有している知的財産についての企業と顧客との間での共有された経済的利害を示します(IFRS/BC 413)。

b 顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動により,顧客が直接的に影響を受けること(指針63(2)

企業は,ライセンスに関する契約条件(ライセンスの属性である顧客に許諾する知的財産の利用の範囲(期間・地域・用途等)を含みます。)を考慮し,企業の知的財産が受けた著しい影響が当該知的財産に設定した顧客の権利にも直接的に及ぶかどうかを判定します。

企業の知的財産の著しい変化が顧客の権利にも直接的に影響が及ぶ場合には,顧客がライセンス期間全体を通じてアクセスした時点での形態・機能性・価値での知的財産を使用するにすぎず,その時点で存在する知的財産からの残りの便益のほとんどすべてを享受することができず,顧客は一定の期間にわたって企業の知的財産にアクセスすることによりその便益を享受しているとみることができます。

これに対し,企業が知的財産に著しい影響を与える活動を行ったとしても,顧客の権利に何ら影響を与えない場合には,企業が単に自らの知的資産を変化させ,将来において便益を提供する能力に影響を与えたにすぎず,顧客が供与されたライセンスにより企業の知的財産から享受する便益に影響を与えないため,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません(IFRS/BC 409)。

c 顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動の結果として,企業の活動が生じたとしても,財又はサービスが顧客に移転しないこと(指針63(3)

顧客が権利を有している知的財産に影響を与える企業の活動には,顧客との契約に含まれる他の独立の履行義務を充足する活動を含めません。そのような活動は,ライセンスとは独立の別個の財又はサービスを顧客に移転しており,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません(IFRS/BC 410)。

例えば,ソフトウェア・ライセンスを供与する約束を含む契約において,企業の取引慣行,公表した方針等により顧客のソフトウェアをアップデートするサービスを提供する約束が含意される場合があります(IFRS/BC 87)。そのようなサービスは,契約における取引開始日に移転するソフトウェア・ライセンスの事後的なサポートであり,ソフトウェア・ライセンスとは独立の別個の財又はサービスとして識別するため,ライセンス供与における企業の約束の性質に影響を与えません。そのため,ソフトウェアをアップデートする企業の活動は,上記aの要件に該当する企業の活動ではなく,その活動によって顧客の権利に直接的な影響が及ぶとしても上記bの要件を充足しません。ソフトウェア・ライセンスは,ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利です(IFRS/BC 410)。

l  会計処理

企業は,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産にアクセスする権利に区分する場合には,ライセンスを供与する約束を一定の期間にわたり充足される履行義務として処理します(指針62)。

企業は,履行義務の充足に係る進捗度を見積るため,本基準第41項~第45項に従い,ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利を提供するという企業の履行を描写する適切な見積方法を選択します。

企業の知的財産を使用する権利

企業は,企業の知的財産にアクセスする権利の3要件(指針63)のいずれかに該当しない場合には,ライセンス供与における企業の約束の性質を企業の知的財産を使用する権利に区分し(指針64),ライセンスを供与する約束を一時点で充足される履行義務として処理します(指針62)。

企業は,本基準第40項に従って,ライセンスに対する支配が顧客に移転する時点を決定し(指針147),顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できるようになった時点で収益を認識します(指針62)。

例えば,ライセンス期間が開始していても,企業がソフトウェアの使用に必要なコードを顧客に提供するなどの方法で顧客が当該ソフトウェアを利用できるようになるまでは,ライセンスに対する支配が顧客に移転しないため,収益を認識しません(指針147)。

売上高又は使用量に基づくロイヤルティ

l  売上高又は使用量に基づくロイヤルティ

売上高又は使用量に基づくロイヤルティとは,顧客が契約において知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価をいいます。

売上高又は使用量に基づくロイヤルティは,変動対価に該当しますが,企業は,変動対価の額に関する不確実性が解消される(顧客に売上高又は使用量の実績が生じる)まで収益の認識が禁止されます。これをロイヤルティ制限といいます(IFRS/BC 421A)。

l  ロイヤルティ制限の目的

ロイヤルティ制限がない場合には,企業は,売上高又は使用量に基づくロイヤルティを一般的な変動対価として,本基準第50項~第55項に従って,顧客の将来にわたる売上高又は使用量を予測し,予測された売上高又は使用量から算定されるロイヤルティの金額を確率で加重平均した金額(期待値)として変動対価を見積り(第51項),変動対価の額に関する不確実性が事後的に解消される(顧客の売上高又は使用量の実績が生じる)際に解消される時点までに計上された収益の著しい減額が発生しない可能性が高い範囲内で将来にわたるロイヤルティの合計額を取引価格に含め(第54項),収益を認識することとなります。

しかし,このような取扱いによると,契約の存続期間が長期間にわたる場合,企業がたとえ最小限の収益を認識したとしても,契約における取引開始日に認識した収益の金額について多額の修正を繰り返すことになり,財務諸表の利用者に目的適合性のある情報をもたらしません(IFRS/BC 219,415)。

そこで,本指針は,売上高又は使用量に基づくロイヤルティについては,それが配分されている履行義務が充足されるだけでなく,変動対価の額に関する不確実性が解消される(顧客の売上高又は使用量の実績が生じる)まで変動する可能性のある収益を認識してはならないこととしました(指針151IFRS/BC 421I)。

l  要件

企業は,次のa及びbをいずれも満たす場合にロイヤルティ制限を適用します(指針67)。

a 対価が売上高又は使用量に基づくロイヤルティであること

ロイヤルティ制限は,顧客が知的財産のライセンスと交換に約束した顧客の売上高又は使用量に応じて変動する可能性のある対価(売上高又は使用量に基づくロイヤルティ)であることを前提とします。

本指針は,ロイヤルティ制限を知的財産のライセンスを伴う限定的な状況にのみ適用するものとします(指針151IFRS/BC 416421)。

b 対価が知的財産のライセンスのみに関連していること,あるいは当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目であること

例えば,ロイヤルティが関連する財又はサービスの中で,ライセンスに著しく大きな価値を顧客が見出すことを,企業が合理的に予想できる場合には,当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目であるといえます(指針152)。

本指針は,財務諸表利用者がライセンス契約であると考える可能性が高い範囲にロイヤルティ制限の適用を限定します(IFRS/BC 421D,421F)。

l  会計処理(ロイヤルティ制限)

企業は,次のa又はbのいずれか遅い方で,売上高又は使用量に基づくロイヤルティについて収益を認識します(指針67)。 

a 知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上する時又は顧客が知的財産のライセンスを使用する時

顧客に売上高又は使用量の実績が生じ,変動対価の額に関する不確実性が解消される時を指します。

なお,海外における売上高又は使用量に基づくロイヤルティ等,収益額を算定する際に発生時の計算基礎の入手が実務上困難であり,継続して契約によりロイヤルティ収入を受け取る場合には,現金を受け取る時点での収益認識を認める代替的な取扱いを要望する意見もありましたが,本指針は,現金を受け取る時点で収益を認識することは,一般的に比較可能性を損なわせる可能性があることから,代替的な取扱いを認めません(指針185)。

b 売上高又は使用量に基づくロイヤルティの一部又は全部が配分されている履行義務が充足(あるいは部分的に充足)される時

l  ライセンスでない他の財又はサービスに関連している対価

ロイヤルティ制限の要件を満たさない場合には,顧客が契約において約束した対価の全体を一般的な変動対価として取り扱い,本基準第50項~第55項を適用します(指針68)。

企業は,顧客が知的財産のラインセンスと交換に約束した変動対価の中にライセンスでない他の財又はサービスに関連している対価が含まれるとしても,対価を分割することなく,その全体にロイヤルティ制限を適用するか,又はその全体を一般的な変動対価として取り扱うかのいずれかで処理します(IFRS/BC 412J)。

 

   【凡例】 第〇項   企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」

指針〇    同適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」

設例〇   同適用指針設例

IFRS/B          IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」付録B(適用指針)

     IFRS/BC    IFRS15号「顧客との契約から生じる収益」(結論の根拠)

 

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