委託販売契約
2022年1月10日
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕
※本文中で引用,参照する会計基準書等の条項は,末尾の凡例に表示の略語で記載しています。
適用指針「委託販売契約」の概要
企業(供給者)が商品・製品を需要者に提供するプロセスに他の当事者(販売業者)が関与する場合には,需要者に当該商品・製品が移転される前に当該他の当事者が当該商品・製品を支配するのかどうかを検討します。
商品・製品が需要者に移転される前に他の当事者が当該商品・製品を支配する場合には,他の当事者が“顧客”であり,企業は,他の当事者との間の売買契約(独立の販売)を識別し,顧客である他の当事者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。
商品・製品が需要者に移転されるまで他の当事者が当該商品・製品を支配しない場合には,需要者が“顧客”であり,企業は,需要者との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別し,顧客である需要者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,企業は,他の当事者に商品・製品の物理的占有を移転した時に収益を認識しません(指針75)。
このように,企業は,他の当事者を顧客とする独立の販売か,又は需要者を顧客とする他の当事者との委託販売契約かを判定する必要があります。その判定あたっては,企業と他の当事者との間の法律上の契約の性質(売買契約・販売委託契約)や委託販売契約の指標(指針76(1)~(3))を考慮します。
適用指針「委託販売契約」(指針75,76)は,企業(供給者)が商品・製品を需要者に提供するプロセスに他の当事者(販売業者)が関与する場合に,他の当事者を顧客とする独立の販売か,又は需要者を顧客とする他の当事者との委託販売契約かを判定する指針を提供します。
委託販売契約の概要
l 販売委託契約
法律上,販売委託契約とは,他人のために商品・製品の販売を引き受ける契約をいいます。下図で,企業(A)が他の当事者(B)に対して商品・製品の販売業務を委託する場合,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約が販売委託契約であり,法律上の契約類型は,委任契約(準委託契約)です。
l 売買契約
法律上,売買契約とは,売主が一定の財産権を買主に移転することを約し,買主がその代金を支払うことを約する契約をいいます。
企業(供給者A)が商品・製品を需要者(C)に提供するプロセスに他の当事者(販売業者B)が関与する場合には,法律上の契約の組み合わせは,次のa~cに分けられます。
a A・B間の売買契約+B・C間の売買契約
企業(A)が,他の当事者(B)に対し,売買契約に基づき当該商品・製品を売り渡し,他の当事者(B)が,需要者(C)に対し,売買契約に基づき当該商品・製品を売り渡します。
b A・B間の販売委託契約+B・C間の売買契約
企業(A)が,他の当事者(B)に対し,販売委託契約に基づき商品・製品の販売業務を委託し,他の当事者(B)が,需要者(C)に対し,売買契約に基づき当該商品・製品を売り渡します。A・B間の販売委託契約を取次委託と呼びます。
c A・B間の販売委託契約+A・C間の売買契約
企業(A)が,他の当事者(B)に対し,販売委託契約に基づき商品・製品の販売業務を委託しますが,企業(A)自らが,需要者(C)に対し,売買契約に基づき当該商品・製品を売り渡します。A・B間の販売委託契約を代理委託又は媒介委託と呼びます。
l 委託販売契約
本基準は,法律上の契約に性質にかかわらず,企業の立場からみて,商品・製品が需要者に移転されるまで他の当事者が当該商品・製品を支配しない(すなわち需要者に当該商品・製品の支配が移転した時点で収益を認識する)場合における企業と他の当事者との間の契約を委託販売契約と呼びます。
企業(A)と他の当事者(B)との間が法律上の売買契約であっても,会計上,委託販売契約である場合があります。企業(A)と他の当事者(B)との間が法律上の販売委託契約であれば,会計上,常に委託販売契約になります。
委託販売契約の目的は,委託者の商品・製品を販売する手配サービスです。
l 支配の移転の時点
企業(供給者A)が商品・製品を需要者(C)に提供するプロセスに他の当事者(販売業者B)が関与する場合には,上図のとおり,一般に,商品・製品が企業(A)から他の当事者(B)を介して需要者(C)に移転するので,需要者(C)が当該商品・製品を支配する前に,企業(A)から他の当事者(B)に当該商品・製品の物理的占有を移転します。
適用指針「委託販売契約」は,企業(A)がこのプロセスで移転する目的となる商品・製品の対価(顧客対価)をいつの時点で収益として認識すべきかという問題を取り扱います。その前提として,企業(A)は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,商品・製品を顧客に移転する履行義務を識別し,Step3「取引価格を算定する」及びStep4「契約における履行義務に取引価格を配分する」で,当該履行義務に当該商品・製品と交換に権利を得ると見込む対価(顧客対価)を配分しています。
Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」では,企業(A)が他の当事者(B)に商品・製品の物理的占有を移転した時に,他の当事者(B)が当該商品・製品を支配するかどうかによって,次のa又はbに分けられます。
a 他の当事者(B)が商品・製品を支配する場合
他の当事者(B)が企業(A)から商品・製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品・製品を支配する場合には,企業(A)にとって他の当事者(B)が“顧客”であり,企業(A)は,その時点で履行義務を充足し,収益を認識します。
b 他の当事者Bが商品・製品を支配しない場合
他の当事者(B)が企業(A)から商品・製品の物理的占有の移転を受けても当該商品・製品を支配しない場合には,企業(A)にとって需要者(C)が“顧客”であり,企業(A)は,未だ“顧客”が当該商品・製品の支配を獲得していない以上,その時点では履行義務を充足しておらず,収益を認識しません。
このように,適用指針「委託販売契約」は,他の当事者(B)が商品・製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品・製品を支配するかどうかという問題に焦点を当てます(第40項(3),指針75)。
l 支配の移転の相手方(契約の相手方)
適用指針「委託販売契約」は,企業(A)が商品・製品の対価(顧客対価)をいつの時点で収益として認識すべきかという問題を取り扱いますが,この問題には,企業(A)は,他の当事者(B)と需要者(C)のいずれの当事者との間で顧客との契約を識別するのかというより根本的な問題が含まれています。
適用指針「委託販売契約」では,企業(A)は,Step2「契約における履行義務を識別する」で,商品・製品を顧客に移転する履行義務を識別していることを前提としていますが,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,商品・製品が需要者(C)に移転される前に他の当事者(B)が当該商品・製品を支配するかどうかによって,次のa又はbに分けられます。
a 他の当事者(B)が商品・製品を支配する場合(他の当事者(B)が顧客である場合)
商品・製品が需要者(C)に移転される前に他の当事者(B)が当該商品・製品を支配する場合には,企業(A)にとって他の当事者(B)が“顧客”であり,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業(A)と他の当事者(B)との間の売買契約(独立の販売)を識別し,Step2「契約における履行義務を識別する」で,商品・製品を顧客に移転する履行義務を識別し,Step5「履行義務を充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で,“顧客”である他の当事者(B)に当該商品・製品の支配を移転した時点で収益を認識します。
b 他の当事者(B)が商品・製品を支配しない場合(需要者(C)が顧客である場合)
商品・製品が需要者(C)に移転されるまで他の当事者(B)が当該製品・商品を支配しない場合には,企業(A)にとって需要者(C)が“顧客”となりますが,企業(A)と“顧客”である需要者(C)との間には,(企業(A)と他の当事者(B)との間の販売委託契約が代理委託・媒介委託である場合を除き)直接に契約が成立していません。そこで,本基準は,企業(A)と需要者(C)との間に成立した(とみなす)売買契約を“顧客との契約”として取り扱い,顧客との契約から生じる収益を認識することとします。
他方,企業(A)にとって他の当事者(B)は“顧客”ではなく,企業(A)と他の当事者(B)との間の委託販売契約は顧客との契約ではないため,当該委託販売契約から収益が生じることはありません。しかし,企業(A)は,他の当事者(B)との間に売買契約・販売委託契約(取次委託・代理委託)が成立していない限り,企業(A)と“顧客”である需要者(C)との間に直接に契約が成立せず,成立したとみなすこともできません。
そこで,企業(A)は,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業(A)と他の当事者(B)との間の売買契約・販売委託契約(取次委託・代理委託)を識別するとともに,企業(A)と需要者(C)との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約も識別します。
このように,適用指針「委託販売契約」には,企業(A)にとって“顧客との契約”の相手方すなわち“顧客”が他の当事者(B)か需要者(C)かという問題が含まれます。
本基準は,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約の内容によって商品・製品の支配が移転する時点が異なることに着眼し,適用指針「委託販売契約」を,Step5「企業が履行義務の充足した時に又は充足するにつれて収益を認識する」で判定する支配の移転の時点の問題に位置づけています(第40項(3))。しかし,企業から直接に商品・製品の支配が移転する相手方すなわち顧客との契約の相手方が異なることに着眼すると,適用指針「委託販売契約」は,本来は,Step1「顧客との契約を識別する」で,企業(A)と他の当事者(B)との間の契約の内容を検討すべき問題として位置づけられます。
本人と代理人の区分との関係
l 本人と代理人の区分
適用指針「本人と代理人の区分」は,企業(流通業者B)の立場から,他の当事者(供給者A)が財又はサービスを需要者(C)に提供するプロセスに企業(B)が関与する場合に,企業(B)が認識すべき収益の額は,需要者(C)から受領した顧客対価の総額か,顧客対価から他の当事者(A)に支払う額を控除した純額(報酬・手数料)かという問題を取り扱います。適用指針「本人と代理人の区分」では,そのプロセスで移転する目的となる財又はサービスを「特定の財又はサービス」と呼び,特定の財又はサービスの提供を受ける当事者(需要者C)を「顧客」と呼びます。
企業(B)がいったん特定の財又はサービスを支配した後にその支配を顧客に移転する場合には,企業(B)が本人として特定の財又はサービスを自ら顧客に移転するという履行義務を充足するので,顧客対価を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。
逆に,企業(B)が特定の財又はサービスを支配しない場合には,特定の財又はサービスを顧客に移転することができず,他の当事者(A)が直接その支配を顧客に移転するので,他の当事者(A)が顧客対価を収益として認識すべきです。企業(B)は,代理人として特定の財又はサービスが提供されるように手配するという履行義務を充足するので,その手配サービスと交換(同価値性)の関係にある対価(報酬・手数料)を収益として認識することが当該履行義務の充足について権利を得る対価を忠実に描写します。
このように,適用指針「本人と代理人の区分」は,特定の財又はサービスが需要者(C)に移転される前に流通業者(B)が特定の財又はサービスを支配するかどうかという問題に焦点を当てます(指針135,IFRS/BC 380,385C,D)。
l 販売業者が本人か代理人かの検討
適用指針「委託販売契約」は,企業(供給者A)の立場から,このプロセスで移転する目的となる商品・製品の対価(顧客対価)をいつの時点で収益として認識すべきかという問題を取り扱いますが,その問題を検討するため,他の当事者(販売業者B)が商品・製品の物理的占有の移転を受けた時に当該商品・製品を支配するかどうかに焦点を当てます(第40項(3),指針75)。
この検討は,特定の財又はサービスである商品・製品が需要者(C)に移転される前に販売業者(B)が当該商品・製品を支配するかどうかという問題にほかなりません。言い換えれば,企業(供給者A)において,販売業者(B)が本人か代理人かの検討を行っていることになります。適用指針「本人と代理人の区分」(指針39~47)で,販売業者(B)が自らを代理人と判定するケースには,企業(供給者A)と販売業者(B)との間の契約が委託販売契約である場合が含まれます。
l 本人と代理人の区分との関係
このように,適用指針「委託販売契約」において,供給者(A)の立場から,販売業者(B)が商品・製品を支配するかどうかという評価を行うことと,適用指針「本人と代理人の区分」において,流通業者(B)の立場から,特定の財又はサービスである商品・製品が需要者(C)に移転される前に流通業者(B)が当該商品・製品を支配するかどうかという評価を行うことは,同一の事象に対して異なる立場から同様の評価を行っていることになります。
販売委託契約
l 販売委託契約の要素
販売委託契約とは,他人のために商品・製品の販売を引き受ける契約をいい,①他人のため,②商品・製品の販売を,③引き受けるという3つを要素からなります。
l 他人のため
「他人のため」とは,受託者が他人の計算(経済上の効果)において行い,その経済上の効果すなわち損益がすべて他人に帰属することを意味し,他人の権利義務(法律上の効果)において行うことを含みます。
受託者である他の当事者が顧客に商品・製品を販売する場合に,委託者である企業の計算(経済上の効果)において他の当事者が売買契約の売主となる場合(取次委託)と,委託者である企業の権利義務(法律上の効果)において企業が売買契約の売主となる場合(代理委託・媒介委託)があります。
l 商品・製品の販売
「販売」は売買契約を指し,法律上,売主の地位が受託者にあるか又は委託者にあるかによって,次のa又はbに分けられます。
a 自己の名をもって販売する場合(取次委託)
受託者が自己の名をもって他人のために商品・製品の販売を引き受ける販売委託契約(法律上「取次委託」と呼びます。)では,受託者が売主として顧客との間で売買契約を締結します。「自己の名をもって」とは,受託者自らが法律行為の当事者となり,その行為から生じる権利義務の主体となることをいいます。商品・製品の流通に関わる商取引では,受託者が自己の名をもって販売することが少なくありません。
取次委託では,売買契約が下図の受託者(B)と顧客(C)との間に成立し,受託者(B)が顧客(C)に対して目的物引渡し義務を負い,売買代金を請求する権利を有しますが,委託者(A)は顧客(C)とは直接の契約関係に立ちません。下図のとおり,委託者である企業(A)は,受託者(B)に対する目的物の提供義務を介し,実質的に顧客(C)に目的物を引き渡し,また,受託者(B)に対する預り金(売上代金)請求権を介し,実質的に顧客(C)から売買代金を受領します。
企業(A)と顧客(C)との間には,法律上,売買契約は成立しません。しかし,企業(A)と受託者(B)の間に販売委託契約(取次委託)が成立している場合には,実質的には,企業(A)は,受託者(B)と売買契約を締結する顧客(C)に対し,受託者(B)を介して,対価を受け取る強制力のある権利を有し,財又はサービスを提供する強制力のある義務を負っているのと同視することができます。そこで,企業(A)と受託者(B)との間で販売委託契約(取次委託)が成立している場合には,受託者(B)と売買契約を締結した顧客(C)との間で企業(A)が同一内容の売買契約を締結したものとみなし,当該契約を“顧客との契約”として取り扱い,本基準を適用します。
b 他人の名をもって販売する場合(代理委託・媒介委託)
受託者が他人の名をもって他人のために商品・製品の販売を引き受ける販売委託契約では,委託者が売主として顧客との間で売買契約を締結します。法律上,受託者が他人の代理権を有するかどうかによって,次のⅰ又はⅱに分けられます。
ⅰ 代理委託
受託者が委託者の代理人として顧客と売買契約(法律行為)を締結する場合(法律上「代理委託」と呼びます。)には,その契約にあたって,委託者の名を表示し,受託者が委託者のために(代理人として)法律行為をすることを表示します(顕名)。代理人である受託者の名を併記するのが通常ですが,併記しない場合もあります。
企業(A)と顧客(C)との間に売買契約が成立するためには,企業(A)と受託者(B)との間に販売委託契約(代理委託)が成立し,受託者に代理権が存在することが前提となります。
ⅱ 媒介委託
受託者が委託者と顧客との間の売買契約の成約に向けて事実行為(いわゆる仲介・周旋・斡旋・勧誘等)だけを行う場合(法律上「媒介委託」と呼びます。)には,委託者自らが顧客と売買契約を締結し,その契約にあたって,立会人(仲介人)として受託者の名を表示する場合もあります。
受託者(B)の事実行為がない限り,企業(A)が顧客(C)との間で直接売買契約を締結することに事実上の障害がある場合が少なくありませんが,企業(A)と顧客(C)との間に売買契約が成立するためには,企業(A)と受託者(B)との間に販売委託契約(媒介委託)が成立している必要はありません。
下図のとおり,代理委託・取次委託では,売買契約が下図の企業(A)と顧客(C)との間に直接成立するので,企業(A)が顧客(C)に対して目的物の引渡し義務を負い,売買代金を請求する権利を有します。
企業(A)は,企業(A)と顧客(C)との間に成立した売買契約(顧客との契約)に本基準を適用します。
l 引き受ける
受託者は,委託者から委託を受けた販売事務を受託します。代理委託では,委託者のために法律行為(売買契約)を行うための代理権の授与を受けることも含まれます。
委託販売契約の識別
l 他の当事者との間の法律上の契約の性質
企業は,他の当事者(販売業者)との間で常に自らが当事者として契約を締結しており,契約書その他の取引証憑により契約の内容を確認することができます。そこで,企業は,Step1「顧客との契約を識別する」で,会計上,他の当事者を顧客とする独立の販売か,又は需要者を顧客とする他の当事者との委託販売契約かを判定するため,企業と他の当事者との間の法律上の契約の性質を考慮することが有用になります。
企業と他の当事者との間の法律上の契約の性質に応じて,次のa又はbのとおり,会計上の取扱いを判定することができます。
a 法律上の売買契約である場合
企業と他の当事者との間が法律上の売買契約である場合には,委託販売契約の指標(指針76(1)~(3))を考慮し,会計上,独立の販売か,又は委託販売契約かを実質的に判定する必要があります。
b 法律上の販売委託契約(取次委託・代理委託・媒介委託)である場合
企業と他の当事者との間が法律上の販売委託契約(取次委託・代理委託・媒介委託)である場合には,会計上,常に委託販売契約として取り扱います。
l 法律上の契約の性質と会計上の取扱い
企業(供給者A)が商品・製品を顧客(需要者C)に提供するプロセスに他の当事者(販売業者B)が関与する場合には,A・B間及びB・C間又はA・C間の法律上の契約の性質によって,下表のとおり整理することができます。
上図のA及びBの類型では,A・B間の契約書の表題や契約の内容からは法律上の契約の性質が売買契約か取次委託かが明らかではなく,会計上,独立の販売か,又は委託販売契約かを識別することが容易でない場合もあります。例えば,契約書の表題が「販売代理店契約」や「販売業務提携契約」であっても,会計上,独立の販売の場合があり,逆に,消化仕入契約の多くは会計上の委託販売契約ですが,法律上の売買契約である場合も少なくありません。このような場合には,企業は,委託販売契約の指標(指針76(1)~(3))を考慮し,会計上,委託販売契約かどうかを判定します。
上図のBの類型では,契約の内容が委託(引き受け)を要素としており,その経済上の効果(損益)をすべてAに帰属させるため,売買契約の履行に関する手続として,代金と手数料の精算,商品・製品の引渡し,契約不適合(瑕疵)・返品の取扱い等の詳細を定めることが多く,法律上の契約の性質が取次委託であることを識別することができれば,会計上,委託販売契約として取り扱います。
上図のC及びDの類型では,企業自らが顧客と直接契約を締結している事実や,A・B間の契約書の表題や契約の内容から,法律上の契約の性質が代理委託・媒介委託であることを容易に識別することができるので,会計上,委託販売契約であることが明らかです。
委託販売契約の指標
l 他の当事者に対する物理的占有の移転と支配の獲得
企業は,商品・製品を需要者(最終顧客)に販売するために,他の当事者(販売業者等)にその物理的占有を移転する場合には,当該他の当事者がその時点で当該商品・製品を支配したかどうかを判定します(指針75)。
この判定にあたっては,他の当事者に商品・製品の物理的占有を移転した時点だけではなく,需要者に当該商品・製品が移転される前に当該他の当事者が当該商品・製品を支配するのかどうかも併せて検討します。この検討は,企業の立場から,当該他の当事者が,本指針「本人と代理人の区分」に従って,当該商品・製品が需要者に移転される前に他の当事者が当該商品・製品を支配するかどうか(本人か代理人か)を評価することにほかなりません。
企業は,商品・製品が需要者に移転される前に他の当事者が当該商品・製品を支配するかどうかに応じて,次のa又はbのとおり処理します。
a 需要者に移転する前に他の当事者が商品・製品を支配する場合
商品・製品が需要者に移転される前に他の当事者が当該商品・製品を支配する場合には,他の当事者が“顧客”であり,企業は,他の当事者との間の売買契約(独立の販売)を識別し,顧客である他の当事者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。
b 需要者に移転するまで他の当事者が商品・製品を支配しない場合
商品・製品が需要者に移転されるまで他の当事者が当該商品・製品を支配しない場合には,需要者が“顧客”であり,企業は,需要者との間に成立した,又は成立したとみなす売買契約を識別し,顧客である需要者に当該商品・製品の支配を移転した時点で履行義務を充足し,収益を認識します。
企業と他の当事者との間の契約は委託販売契約であり,企業は,他の当事者に商品・製品の物理的占有を移転した時に収益を認識しません(指針75)。
l 委託販売契約の指標
企業と他の当事者との間の契約が,会計上,委託販売契約であることを示す指標には,例えば,次のa~cがあります(指針76)。
a 販売業者等が商品・製品を顧客に販売するまで,あるいは所定の期間が満了するまで,企業が商品・製品を支配していること(指針76(1))
企業は,販売業者等が商品・製品を顧客に販売するまで,又は所定の期間が満了するまで,直接“支配”の概念(第37項)を適用し,企業が当該商品・製品を支配しているかどうかを判定します。企業が当該商品・製品を支配していれば,他の当事者は当該商品・製品を支配していません。
b 企業が,商品・製品の返還を要求することあるいは第三者に商品・製品を販売することができること(指針76(2))
企業が他の当事者に商品・製品の返還を要求したり,第三者に商品・製品を販売したりすることができることは,企業が当該商品・製品を支配していることを示しており,他の当事者は当該商品・製品を支配していません。
c 販売業者等が,商品・製品の対価を支払う無条件の義務を有していないこと(ただし,販売業者等は預け金の支払を求められる場合がある。)(指針76(3))
他の当事者が,企業に対し,商品・製品と交換(同価値性)の関係のある対価(預け金は該当しません。)を支払う無条件の義務を負う場合には,他の当事者が当該商品・製品を支配していることを示す指標であり(第40項(1)参照),委託販売契約の受託者(代理人)ではなく,独立の販売であることを示します。
他の当事者が,条件付きで商品・製品の対価を支払う義務を負う場合(例えば,需要者に当該商品・製品を販売したという条件が付されている場合)には,委託販売契約の受託者(代理人)である可能性があります。
【凡例】 第〇項 企業会計基準第29号「収益認識に関する会計基準」
指針〇 同適用指針第30号「収益認識に関する会計基準の適用指針」
IFRS/BC IFRS第15号「顧客との契約から生じる収益」(結論の根拠)