2016年5月1日号(「公正な価格」を考える7号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

売り手と買い手のどちらの要因を考慮して価値を算定するのか?
 前号でリストアップした企業価値の形成要因の中で,例えば,売り手と買い手が同一の業界に属しているのであれば,一般的要因や業界要因までは共通していますが,企業要因や株主要因については,企業ごとによって異なるはずです。例えば,売り手と買い手が同一の業界であったとしても,企業要因のうち(1)の業態や取引規模,(2)のライフステージが異なる場合があります。(3)の経営戦略や経営計画などは同じはずがありません。(4)以下の収益性,財政状態なども異なります。株主要因に至っては,取引前の株主の状況を考慮している項目もありますが,(4)取引後の株主構成の変化や(5)取引数量(全量,大量,中量又は少量)などは明らかに取引後の株主の状況を考慮することを意味しています。特に買主にとって取引後に支配権を獲得するかどうかは極めて重要であり,株式(企業・事業・経営資源)の価値に大きな影響を与えます。
 このようにみてくると,組織再編にあたって,専門家が企業価値を評価・算定する場合,“一体,売り手と買い手のどちらの企業価値形成要因を考慮して企業価値を評価・算定すればよいのか?”という疑問が生ずるはずです。
 そして,「どちらでも算定することができる」というのがその答えであり,“一物多価”といわれる価値は,売り手の企業価値形成要因を基礎に「売り手にとっての価値」としても,また,買い手の企業価値形成要因を基礎に「買い手にとっての価値」としても評価・算定することができます。

投稿者: 片山法律会計事務所