組織再編比率の限界と成立範囲
2016年8月21日号(「公正な価格」を考える18号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕
1 組織再編比率の限界
理論的にみると,合併比率について,S社株式1株に対するP社株式の割当数を0.5株から0.425株へと引き下げていくことは,P社固有の事業・経営資源がシナジー効果に貢献している比率を高めていくことを意味しますが,どこかの段階で,増加価値をすべてP社に配分する合併比率(S社株式1株にP社株式0.4375株を交付する)の限界に辿り着きます。この限界値を超えると,S社株主は,吸収合併により1株当たり価値が毀損されるので,S社株主総会でこのような合併比率の吸収合併を承認することはありません。S社株主にとって,その吸収合併を実行することによりその保有する株式の価値がかえって,“組織再編をしない仮定での客観的価値”(売り手にとっての価値)を下回ることになるからです。
逆に,合併比率をS社に有利な方向に引き上げていくと,どこかの段階で,増加価値をすべてS社に配分する合併比率の限界に辿り着きます。この限界値を超えると,P社株主は,吸収合併により1株当たり価値が毀損されるので,P社株主総会でそのような合併比率の吸収合併を承認することはありません。P社にとって,その吸収合併を実行するために支払う組織再編の対価が“組織再編がある前提での客観的価値”(買い手にとっての価値)を上回るために,組織再編の前から保有する株式の価値が下がってしまうからです。
2 組織再編比率の成立範囲
以上のとおり,存続会社(新設会社・承継会社・完全親会社)の株式・種類株式を対価とする組織再編では,組織再編の対価が組織再編比率によって定められる場合がありますが,組織再編比率自体が内在的に組織再編による価値の変動(シナジー効果)を反映します。
価格と価値との間には,「価格」が常に「売り手にとっての価値」以上,「買い手にとっての価値」以下で成立するという一定の関係がありますが,組織再編の対価が組織再編比率によって定められる場合は,「売り手にとっての価値」は“組織再編がない仮定での価値”(=増加価値をすべて買い手に配分する組織再編比率)と,「買い手にとっての価値」は“組織再編がある前提での価値”(=増加価値をすべて売り手に配分する組織再編比率)と言い換えることができます。
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