2016年10月1日号(「公正な価格」を考える22号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

増加価値(シナジー)を超える価値を売り手に配分する組織再編比率
 合併比率を,増加価値をすべてS社に配分する限界(S社株式1株にP社株式0.583株を交付する)を超えてさらにS社に有利な方向へと動かしてみましょう。そうすると,下図のとおり,S社株式1株にP社株式0.933株を交付する場合,旧P社株主は,吸収合併前は,S社の企業価値1400とその他のP社の企業価値3200の合計4600を把握していましたが,吸収合併後はS社の企業価値1764(従来の企業価値1400+増加価値364)とその他のP社の企業価値2836の合計4600を把握しており,株式価値に変動がありません。つまり,旧P社株主にとっては,合併比率を0.933にまで不利な方向へと動かしても,その保有する1株当たりのP社株式の価値@100は低下しません。
 このケースでは,S社少数株主の株式12株にP社株式11.2株を交付することになるので,吸収合併後のP社の発行済株式は57.2株(@100)となります。株主の利害をみてみると,S社少数株主は,吸収合併前はS社の企業価値600を把握していましたが,吸収合併後はP社の企業価値1120を把握しており,株式価値が520増加しています。これは,吸収合併による全体の増加価値520を,S社ではなく,S社の少数株主に配分したかのように見えますが,シナジー効果がS社の少数株主30%持分だけから生じるはずがありませんので,合理的に説明することができません。仔細に分析してみれば,旧P社株主が従来まで把握していたP社固有の事業・経営資源の企業価値3200から364だけ,旧P社株主からS社少数株主に移転していることがわかります。このような現象は,経済的に明らかに不合理であり,旧P社株主としては承服できるものではありません。
 もし,S社株式1株に対して交付するP社株式が0.933株を上回るときは,旧P社株主にとって,吸収合併による全体の増加価値が全く配分されないどころか,1株当たり株式価値が毀損されてしまうので,当然ながらP社株主総会でこのような吸収合併を否決し,また,P社を介して支配しているS社株主総会でも同様に否決するはずです。

増加価値(シナジー)を超える価値を売り手に配分する組織再編比率

投稿者: 片山法律会計事務所