2016年10月11日号(「公正な価格」を考える23号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

1 組織再編の対価に反対するのか組織再編行為に反対するのか
 これまで,売り手と買い手との間に実質的な支配従属関係があるケースで,吸収合併により企業価値が増大することを前提として考察してきました。組織再編によって客観的な企業価値が増大するという前提の下では,企業やその株主が経済合理性に従って行動する限り,そのような組織再編行為自体は承認するはずなのです。
 これまでみてきたとおり,組織再編の対価(組織再編比率)が一定の限界を超えると,株主は,株主総会で組織再編に承認しない(反対する)と考えられますが,その反対は,あくまで組織再編比率が不公正であることを理由としており,組織再編を行うこと自体に反対しているわけではありません。
 会社法は,組織再編行為に反対する株主に株式買取請求権を保障し,その権利確保要件として,株主総会に先立ってあらかじめ組織再編の議案に反対する旨を通知し,かつ,その株主総会で反対の議決権を行使することを求めていますが,この「反対」するとは,議案に反対するという意味で,それ以上に反対の理由まで明らかにする必要がありません。
 しかし,裁判上の公正な価格の基本的な考え方や判断枠組みを考察するときは,反対株主は,経済的合理性に従って行動し,組織再編の対価に反対するのか,組織再編行為に反対するのかにも着眼します。
2 企業価値を毀損する組織再編
 組織再編によって必ずしも企業価値が増大するとは限りません。企業が経済的合理性に従って行動する限り,客観的な企業価値が毀損される組織再編を行うはずがなく,株主もまたそのような組織再編行為自体に反対するはずです。しかし,例えば,対象会社の再建,支援などの目的で,企業価値を毀損する組織再編が行われることがあります。客観的な企業価値そのものには影響を与えないような買収会社のレピュテーションなど,経済的合理性とは異なる様々な思惑や主観に従って組織再編を実行することがないとはいえません。

投稿者: 片山法律会計事務所