2016年12月1日号(「公正な価格」を考える28号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

組織再編によって客観的な価値が毀損する場合と増大する場合
 売り手である株主が,①組織再編を行うこと自体に反対したのか,②組織再編対価(比率)が不公正であることを理由に反対したのかを分けて,反対株主に対し,「公正な価格」として,組織再編によって生じる減少価値を反映させない組織再編前の株式の交換価値を補償する必要があるのか,それとも,組織再編によって生じる増加価値を反映させた上で,仮に公正な組織再編対価(比率)を定めていたとすれば,反対株主が得られたであろう株式の交換価値を補償する必要があるのかを考察しました。
 しかし,会社法上,株式買取請求権を行使する株主は,株主総会に先立ってあらかじめ組織再編の議案に反対する旨を通知し,かつ,その株主総会で反対の議決権を行使すればよいだけで,組織再編の議案に反対した理由まで明らかにする必要がありません。会社法は,上記①又は②のいずれの理由かを区別せずに,反対株主に株式買取請求権を保障し,価格決定申立制度を設けています。
そのため,裁判所は,価格決定申立事件で,個々の反対株主が上記①又は②のいずれの理由で反対したのかによって,別々の「公正な価格」を決定することは相当ではありません。実際上,反対株主が上記①又は②のいずれの理由で反対したのかを必ずしも明確に意識しているわけではありませんし,反対理由が混在していることもあり得ます。
 そこで,反対株主が経済合理性に従って行動するものとして統一的に判定し,反対株主に対し,①組織再編によって客観的な企業価値が毀損する場合は,それによって生じる減少価値を反映させない組織再編前の株式の交換価値を補償し,②組織再編によって客観的な企業価値が増大する場合には,それによって生じる増加価値を反映させた上で,反対株主が得られたであろう株式の交換価値を補償すべきであるということになります。

投稿者: 片山法律会計事務所