2016年12月11日号(「公正な価格」を考える29号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

組織再編による客観的な価値の毀損・増大と「公正な価格」
 このような観点から,平成23年4月19日付け最高裁決定は,「反対株主に『公正な価格』での株式の買取りを請求する権利が付与された趣旨は,吸収分割等という会社組織の基礎に本質的変更をもたらす行為を株主総会の多数決により可能とする反面,①吸収合併等がされなかったとした場合と経済的に同等の状況を確保し,さらに,②吸収合併等によりシナジーその他の企業価値が生ずる場合には,上記株主に対してもこれを適切に分配し得るものとすることにより,上記株主の利益を一定の範囲で保障することにある。」と判示しています。
 平成24年2月29日付け最高裁決定は,平成23年4月19日付け最高裁決定の判旨をさらに推し進め,組織再編によって客観的な企業価値が毀損する場合と増大する場合とに分けて,以下のとおり,判示しています。
「①株式移転によりシナジー効果その他の企業価値の増加が生じない場合には,株式移転完全子会社の反対株主がした株式買取請求権に係る『公正な価格』は,原則として,当該株式買取請求がされた日における,株式移転を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有していたであろう価格をいうと解するのが相当であるが,
②それ以外の場合には,(・・・中略・・・)上記の『公正な価格』は,原則として,株式移転計画において定められていた株式移転比率が公正なものであったならば当該株式買取請求がされた日においてその株式が有していると認められる価格をいうものと解するのが相当である。」

投稿者: 片山法律会計事務所