実際に合意された組織再編対価(比率)と「公正な価格」
2016年12月21日号(「公正な価格」を考える30号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕
実際に合意された組織再編対価(比率)と「公正な価格」
裁判所が「公正な価格」を決定しようとするときには,対象となる株式について,既に対象会社と買収会社との間で企業価値を評価,算定し,条件交渉を行い,組織再編対価(比率)の合意に至っています。裁判所がこれらの価値や価格を「公正な価格」として採用してよいかどうかという問題を考えるにあたっては,対象会社と買収会社が独立の経済主体として価格を交渉したかなど公正な手続により組織再編対価(比率)の合意に至っているかどうかを吟味する必要があります。
「公正な価格」は,価格である以上,実際の売り手である少数株主と実際の買い手である株式発行会社(対象会社又は買収会社)との間で交渉されることを前提として決定しなければなりません。しかし,対象会社と買収会社との間で企業価値を評価,算定し,条件交渉を行い,合意に至った組織再編対価(比率)は,少数株主が実際の交渉・意思決定の担い手ではないので,これを無限定に「公正な価格」として採用することはできません。「公正な価格」は,仮に株式発行会社(対象会社又は買収会社)の実際の交渉・意思決定の担い手が少数株主であったならば,相手会社(買収会社又は対象会社)との間で合意に至ったであろう組織再編対価(比率)でなければならないからです。
もっとも,株式発行会社の交渉・意思決定を担う者が支配株主(によって選任された取締役)であろうと少数株主であろうと,同一の会社である以上,通常は相手会社との間で利害・交渉力に差異はなく,合意に至るであろう組織再編対価(比率)の額は変わらないはずなのです。そのため,「公正な価格」は,基本的には,実際に株式発行会社と相手会社との間で合意に至った組織再編対価の額を採用して差し支えないといえるのです。
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