2017年1月11日号(「公正な価格」を考える32号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

独立当事者間価格
 よく耳にする「独立当事者間価格」という言葉は,文字どおり,独立の経済主体である両当事者間の交渉により合意に至る価格というような意味であり,何となく理解できる言葉ですが,これがどうして「公正な価格」と関係するのでしょうか。
 「独立の経済主体」とは,売り手と買い手の間に実質的な支配従属関係がないことをいいます。いずれか一方の会社が他方の会社の意思決定機関(=株主総会)を多数決によって支配しているときは,「独立の経済主体」ではありません。売り手と買い手の間に親子会社関係がある場合が,独立の経済主体ではない典型例です。では,独立の経済主体でない売り手と買い手の間で合意される価格が不公正であると評価されるのは,なぜでしょうか?
 その極端な例として,売り手も買い手も同一人である場合を想定してみると,分かりやすいと思います。一般に売り手はできる限り高く売りたい,買い手はできる限り安く買いたいという関係にありますが,売り手と買い手が同一人であると,そのような関係が成立しないため,価格の交渉が成り立たないのです。
 一方の会社が他方の会社の意思決定機関を多数決によって支配しているときは,一方の会社が当事者として価格の交渉・意思決定を担うと同時に,他方の会社の意思も多数決によって決定するので,いわば売り手と買い手が同一人であるために何ら価格交渉が期待できない状況に似ており,不公正な価格が成立するおそれが高いといえます。
 そのようなケースでは,仮に少数株主が株式発行会社の交渉・意思決定を担っていれば,相手会社との間で価格の交渉が成り立ち,本来あるべき公正な組織再編対価(比率)で合意に至っていたはずであり,それが「公正な価格」であるといえます。
 このように,売り手と買い手の間に実質的な支配従属関係がある場合には,実際に株式発行会社と相手会社の間で合意に至った組織再編対価(比率)を無条件で「公正な価格」として採用すべきではありません。

投稿者: 片山法律会計事務所