「公正な価格」の判断枠組み②
2017年3月21日号(「公正な価格」を考える39号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕
一般に公正と認められる手続を経ているか否か
企業価値の増加が生じる場合,すなわち企業価値が増大する組織再編については,次に,一般に公正と認められる手続を経ているか否かを判定します。
その最も重要な指標は,対象会社(被買収会社)と買収会社とが独立の当事者(経済主体)であることです。いずれか一方の会社が他方の会社の意思決定機関(=株主総会)を多数決によって支配しているときなど両社間に実質的な支配従属関係がある場合は,独立の経済主体とはいえません。例えば,親会社(買い手)と子会社(売り手)の合併や,経営陣(買い手)による株主(売り手)からの株式取得(MBO)などでは,特定の多数株主が買い手の意思決定にも売り手の意思決定にも影響力を持ち,他の少数株主と利益相反関係が存在するので,買い手と売り手との間で公正な価格交渉が期待できません。
そのほか,株主の判断の基礎となる情報が適切に開示されたことという指標も併せて検討します。
その結果,これらの指標を満たし,一般に公正と認められる手続を経ていると認められる場合には,対象会社(被買収会社)と買収会社との間で実際に合意に至った組織再編対価(額・比率)をもって「公正な価格」とします。
平成24年2月29日付け最高裁決定は,対象会社(被買収会社)と買収会社とが独立の当事者(経済主体)である場合を「相互に特別な資本関係がない会社間」と呼んで,「株主の判断の基礎となる情報が適切に開示され」ていれば,一般に公正と認められる手続を踏んでいるとみて,原則として,実際に合意された組織再編対価を「公正な価格」とみる旨を判示しました。もっとも,相互に特別な資本関係がある会社間など特定の多数株主と他の少数株主との間に利益相反関係が存在するケースでは,どのように判断するのかが示されていませんでした。
その後,平成28年7月1日付け最高裁決定は,売り手又は買い手の多数株主と少数株主との間に利益相反関係が存在する場合にも,独立した第三者委員会や専門家の意見を聴くなど多数株主等と少数株主との間の利益相反関係の存在により意思決定過程が恣意的になることを排除するための措置が講じられることなど一定の条件を満たす場合には「一般に公正と認められる手続」を踏んでいるとみて,実際に合意された組織再編対価を「公正な価格」とみる旨を判示していますので,今後の判例の集積が期待されます。
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