2017年4月11日号(「公正な価格」を考える41号)
弁護士・公認会計士 片 山 智 裕

1 「公正な価格」の決定
 以上までの判定により,「公正な価格」は,基本的に次のとおり決定されます。
(1)組織再編行為により企業価値の増加が生じない場合(企業価値を毀損する組織再編)
 「公正な価格」は,組織再編行為を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有していたであろう価格(ナカリセバ価格)として決定されます。
(2)組織再編行為により企業価値の増加が生じる場合(企業価値が増大する組織再編)
 ① 一般に公正と認められる手続を経ている場合
  「公正な価格」は,対象会社(被買収会社)と買収会社との間で実際に合意に至った組織再編対価として決定されます。
 ② 一般に公正と認められる手続を経ていない場合
  「公正な価格」は,対象会社(被買収会社)と買収会社との間で価格が成立し得る客観的な価値の範囲内で,増加価値(シナジー効果)を公正に配分する組織再編対価として決定されます。
2 「公正な価格」の基準時への時点補正
 上場株式については,「公正な価格」の決定にあたって参照した市場株価の時点(株価参照日・株価参照期間)と,基準時である株式買取請求時が異なるときは,原則として時点補正が必要になります。
 とりわけ,組織再編行為を承認する旨の株主総会決議がされることがなければその株式が有していたであろう価格(ナカリセバ価格)を決定するときは,基準時の市場株価から組織再編を行う旨の開示情報による株価変動の影響を排斥するため,いったん情報開示前の株価を参照し,それ以降の基準日までの一般的な市場株価の変動を織り込んで時点補正する必要があります。
 これに対し,市場価格がない株式については,算定の前提とした価値形成要因について時点の間に変化があり,価格に影響を及ぼすときに時点補正が必要となります。
 以上のような判断枠組みを経て,最終的に「公正な価格」が決定されます。

 

投稿者: 片山法律会計事務所