連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」

 

契約の結合と変更

 

2017年6月30日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕

A4小冊子 10ページ

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「契約の結合と変更」 目次と概要

 

1.Step1-③ 契約の結合/Step1-④ 契約の変更

 

通常の契約の開始時に行うStep1「顧客との契約を識別する」は,Step1-①契約の成立とStep1-②契約の識別のサブ・ステップでほぼ終了ですが,本基準は,同一の顧客(又は顧客の関連当事者)と同時又はほぼ同時に締結した複数の契約が一定の要件に該当するときに単一の契約として会計処理すること(契約の結合)を義務づけていますので(第17項),企業は,Step1-③契約の結合において,この要件に該当しないかどうかを常に確認する必要があります。

また,企業が顧客との間で契約(既存の契約)を締結した後に,同じ顧客との間で変更契約を締結することがあります。この場合も,企業は,Step1-①契約の成立と②契約の識別のサブ・ステップで新たな変更契約を識別しますが,それにより,企業が既存の契約に従って既に識別していた履行義務の内容や,既に算定,配分していた取引価格に影響を及ぼすことがあります。本基準は,変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものを「契約変更」と呼び,その取り扱いを定めています(第18項~第21項)。そこで,企業は,顧客との間で変更契約を識別したときは,Step1-④契約の変更において,会計処理に影響を及ぼすかどうかを確認し,会計処理に影響を及ぼすときは,本基準に従って会計処理する必要があります。

 

2.Step1-③ 契約の結合(概要)

 

法律制度における契約では,当事者(企業)が相手方(顧客)の同意なく,複数の契約の条件を自由に結合して履行したり,請求したりすることはできません。しかし,以下のようなケースでは,法形式上,複数の契約で定められた契約対価に従って区分して会計処理すると,経済的実態に従って一つの契約として会計処理した場合と,収益の金額及び時期が異なってしまう可能性があります(BC 71)。

価格の相互依存性

ある契約における財又はサービスの対価がその他の契約における財又はサービスの対価に依存する場合(価格の相互依存性),それらの契約を区分して会計処理すると,各契約の履行義務に配分される対価の額は,顧客に移転される財又はサービスの移転に係る経済的実態を忠実に描写しないおそれがあります(BC 73)。

法形式の選択可能性

また,法形式上,複数の契約で財又はサービスの移転を約束しているものの,仮にそれらを一つの契約で約束したものとして,履行義務の識別に関する本基準の定めを適用すると,単一の履行義務として識別される場合(法形式の選択可能性),実質的に同一の経済的実態がありながら,企業が契約を法形式上どのように構成するかによって本基準の適用結果が異なってしまう可能性があります(BC 68,73)。

そこで,本基準は,経済的実態を反映させるという会計基準の目的から,企業に対し,一定の要件を満たす複数の契約については,法形式上の契約に従って区分して会計処理することを容認せず,単一の契約とみなして会計処理することを義務づけています(第17項,BC 73)。

 

3.契約の結合の要件

本基準は,以下の要件をすべて満たすときに,単一の契約とみなして会計処理することを義務づけています(第17項)。

a 企業が同一の顧客(又は顧客の関連当事者)との間で複数の契約を締結したこと

b 企業が同時又はほぼ同時に複数の契約を締結したこと

c 次の要件のいずれかに該当すること

ⅰ 契約が単一の商業的目的を有するパッケージとして交渉されている

ⅱ 1つの契約で支払われる対価の金額が,他の契約の価格又は履行に左右される

ⅲ 複数の契約で約束した財又はサービス(又は各契約で約束した財又はサービスの一部)が, 本基準第22項から第30項に従うと単一の履行義務である

 

☞本基準は,経済的実態を反映させるという会計基準の目的から,同一の顧客(その関連当事者を含む。)との間で同時又はほぼ同時に締結した複数の契約に,①価格の相互依存性又は②法形式の選択可能性を示す一定の関係がある場合には,単一の契約とみなして会計処理することを義務づけています。

 

4.Step1-④ 契約の変更(概要)

 

● 契約変更

法律制度における契約は,いったん成立した以上,その当事者間でその契約(既存の契約)の内容を変更する契約(変更契約)が成立しない限り,変更されることはありません。契約を変更するためには,既存の契約とは別に,当事者間で新たに契約(変更契約)が成立しなければなりません。

企業は,新たな変更契約について,Step1-①契約の成立と②契約の識別のサブ・ステップを行いますが,変更契約を識別することによって,企業が既存の契約に従って既に識別していた履行義務の内容や,既に算定,配分していた取引価格に影響を及ぼすことがあります。

そこで,本基準は,法律制度において成立した変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものとして,①契約の範囲が変更されるもの,②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものを「契約変更」と呼んで(第18項),その会計処理を定めています。

 

● 契約変更の会計処理

本基準は,企業が契約変更により,既に移転した財又はサービスとは別個の追加的な財又はサービスを約束した場合において,追加の財又はサービスの価格設定が独立販売価格を反映しているときは,契約の範囲の拡大部分を既存の契約から独立した契約として会計処理し(第20項),それ以外の契約変更については,残りの財又はサービスが変更前に移転した財又はサービスと別個であるときは,(a)既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理し,別個でないときは,(b)既存の契約の一部であるかのように会計処理しなければならないと定めています(第21項)。

 

5.契約変更の要件と会計処理

 

本基準は,契約変更について,変更後の契約における企業の権利及び義務を忠実に描写するという全体的な目的から,以下の3通りの会計処理を定めています。

 

a 独立した契約として会計処理する(第20項)

 

要件(次の両方の要件を満たすこと)

ⅰ 別個の財又はサービスの追加(契約の範囲の拡大)

ⅱ 契約価格の増額が追加の財又はサービスの独立販売価格を反映して設定されていること

増額分が追加の財又はサービスの契約変更時の独立販売価格そのものでなくとも,例えば,新規顧客に販売する際には生じるであろう販売関連コストの分だけ値引きしているなど,具体的な契約の状況を反映するために独立販売価格が適切に調整されているときは,独立販売価格を反映して価格設定されていると評価できます。

会計処理

企業は,契約変更を独立した契約として会計処理しなければなりません。このような場合は,追加的な財又はサービスに関して,他の顧客が新たに独立した契約を締結する場合と,既存の顧客がこのような要件を満たす契約変更を行う場合との間には経済的差異がないからです(BC 77)。

 

b 既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理する(第21項(a))

 

要件(次の両方の要件を満たすこと)

ⅰ 独立した契約として会計処理する要件(第20項)を満たさないこと

ⅱ 残りの財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものと識別されること

財又はサービスが別個か否かは,本基準第27項,すなわち別個の財又はサービス(の束)という会計単位によって判定します。既存の契約において,ほぼ同一で顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービスとして単一の履行義務を識別しているときは(第22項(b)),単一の履行義務に属するからといって,契約変更日以前に移転した財又はサービスと,残りの財又はサービスとが同一であるとは限りません。

会計処理

企業は,契約変更を,既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理しなければなりません。このような場合は,契約変更後に支払われる対価の金額が既存の契約の価格又は履行に左右されている可能性がありますが,本基準は,契約変更は既存の契約の締結後に生じた新たな事実及び状況に基づいて交渉されており,残りの財又はサービスが過去に移転したものと別個である以上,過去に移転したものとは区別して将来に向かって会計処理すべきであり,このような場合にまで,下記cの既存の契約の一部であるかのように実質的に過去に充足した収益の修正をもたらす複雑な会計処理(累積的キャッチアップベースの会計処理)をすべきではないと述べています(BC 78)。

 

c 既存の契約の一部であるかのように会計処理する(第21項(b))

 

要件(次の両方の要件を満たすこと)

ⅰ 独立した契約として会計処理する要件(第20項)を満たさないこと

ⅱ 残りの財又はサービスが契約変更日以前に移転した財又はサービスと別個のものと識別されないこと(第21項(a)の要件を満たさないこと)

会計処理

企業は,契約変更を既存の契約の一部であるかのように会計処理しなければならない。このような場合,本基準は,残りの財又はサービスは,過去に移転したものとは別個ではなく,契約変更日現在で部分的に充足されている単一の財又はサービス(の束)の一部を構成する以上,過去に移転したものとの関連性を遮断して新たな契約として会計処理すべきではなく,当該履行義務の取引価格及び完全な履行に向けての進捗度の測定を見直すことが,建設業界では特に目的適合性があり,一般的に受け入れられていると述べています(BC 80)。

 

d 残りの財又はサービスが,移転済みの財又はサービスと別個の部分(第21項(a))と既存の単一の履行義務の一部の部分(第21項(b))との組合せである場合

 

契約変更が独立した契約として会計処理する要件(第20項)を満たさず,残りの財又はサービスが,移転済みの財又はサービスと別個の部分(第21項(a))と既存の単一の履行義務の一部の部分(第21項(b))との組合せである場合は,企業は,契約変更が変更後の契約の中の未充足(部分的な未充足を含む。)の履行義務に与える影響を,第21項の目的に整合する方法で会計処理しなければなりません。

 

☞企業は,①既存の契約とは別個の財又はサービスを追加で約束し,②契約価格の増額が追加の財又はサービスの独立販売価格を反映しているときは,契約変更を独立した契約として会計処理します。それ以外の契約変更は,残りの財又はサービスが契約変更日までに移転した財又はサービスと別個のときは,既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理し,別個でないとき(同じ財又はサービス(の束)の一部であるとき)は,既存の契約の一部であるかのように会計処理します。

投稿者: 片山法律会計事務所