取引価格の配分
連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」
取引価格の配分
2017年9月23日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕
A4小冊子 9ページ
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「取引価格の配分」 目次と概要
1.Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」の概要
企業は,取引価格を算定した後の次のステップで,契約開始時に,それぞれの履行義務に対して取引価格を配分します。
このステップの適用は,次のとおり,1.契約開始時と,2.契約開始後に取引価格が変動したときの2つに分けられます。
1 履行義務への取引価格の配分
企業は,契約開始時に,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づいて取引価格を配分します(第74項)。
2 取引価格の変動
企業は,契約開始後に取引価格が変動したときは,契約開始時と同じ基礎により契約における履行義務に取引価格を配分しなければなりません(第88項)。
☞企業は,①契約開始時と,②契約開始後に取引価格が変動したときに,算定した取引価格を,約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で,それぞれの履行義務に配分します。
2.Step4-① 取引価格の配分
Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」では,まず,企業は,契約開始時において,算定した取引価格を,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約開始時の独立販売価格に比例して配分します(第76項)。
契約の中の約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合は,企業は,顧客が受けた値引きを,その値引きが一部の履行義務に関するものであるという観察可能な証拠を有している場合を除き,すべての履行義務に比例的に配分しなければなりません(第81項)。
契約において約束された変動対価が,一定の要件を満たすときは,変動性のある金額の全体を,1つの履行義務(又は単一の履行義務の一部を構成する1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第85項)。
3.配分の目的
配分の目的
取引価格を配分する目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で行うことにあります(第73項)。
本基準は,この目的を果たすため,企業は,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,独立販売価格の比率に基づいて取引価格を配分することとしています(BC 266)。ただし,値引きの配分(第81項~第83項),変動対価の配分(第84項~86項)に定める例外があります(第74項)。
契約に履行義務が一つしかない場合
契約に履行義務が一つしかない場合には,基本的に取引価格の配分に関する本基準第76項~第86項は適用されません。ただし,企業が,ほぼ同一で,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第22項(b))について単一の履行義務を識別し,かつ,契約において約束された対価に変動性のある金額が含まれている場合には,変動対価の配分(第84項~第86項)が適用される場合があります。
☞配分の目的は,企業がそれぞれの履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に対する取引価格の配分を,企業が約束した財又はサービスを顧客に移転するのと交換に権利を得ると見込んでいる対価を描写する金額で行うことにあります。
4.独立販売価格の算定
独立販売価格とは
独立販売価格とは,企業が約束した財又はサービスを独立に顧客に販売するであろう価格をいいます。
独立販売価格の算定の方法
企業は,取引価格の配分にあたって,次の場合に分けて,約束した財又はサービスの独立販売価格を算定します。
● 独立販売価格が直接的に観察可能な場合
企業が当該財又はサービスを同様の状況において独立に同様の顧客に販売するときの価格が観察可能である場合は,その観察可能な価格が,独立販売価格を算定する根拠となる最良の証拠であるといえます。財又はサービスについて契約に記載された価格や定価は,当該財又はサービスの独立販売価格である可能性がありますが,独立販売価格であると推定してはなりません(第77項)。
● 独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合
独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合には,企業は,配分の目的(第73項)に合致する取引価格の配分をもたらす金額となるように独立販売価格を見積らなければなりません(第78項)。
☞企業は,取引価格の配分にあたって,約束した財又はサービスの独立販売価格(企業が約束した財又はサービスを独立に顧客に販売するであろう価格)を算定します。企業が同様の状況において独立に同様の顧客に販売するときの観察可能な価格が独立販売価格を算定する根拠となる最良の証拠となります。独立販売価格が直接的に観察可能ではない場合は,企業は,配分の目的に合致するように独立販売価格を見積ります。
5.独立販売価格の見積りの方法
独立販売価格の見積りの方法
財又はサービスの独立した販売から生じた観察可能な価格を企業が有していない場合には,企業はその代わりに独立販売価格を見積らなければなりません。
その見積りの方法は,配分の目的に合致した独立販売価格の忠実な描写である限りは,制限がありません。本基準は,独立販売価格の見積りのための適切な方法を例示していますが(第79項),独立販売価格の見積りの方法は,それらの例示に限られず,また,特定の方法を禁止することもしていません(BC 268)。
実態適用の原則
企業は,独立販売価格を見積るにあたって,合理的に利用可能なすべての情報(市場の状況,企業固有の要因,顧客又は顧客の階層に関する情報を含みます。)を考慮し,観察可能なインプットを最大限使用しなければなりません(第78条,BC 268)。
一貫適用の原則
企業は,類似の特性を有する他の財又はサービスの独立販売価格の見積りの方法を首尾一貫して適用しなければなりません(第78条,BC 268)。
独立販売価格を見積るための適切な方法の例
財又はサービスの独立販売価格を見積るための適切な方法には,次のものが含まれますが,これらに限定されません(第79項)。
● 調整後市場評価アプローチ
企業は,財又はサービスを販売する市場を評価して,当該市場の顧客が当該財又はサービスに対して支払ってもよいと考えるであろう価格を見積ります。また,企業は,類似した財又はサービスについて,企業の競争相手の価格を参照して,企業のコストとマージンを反映するように必要に応じて当該価格を調整する場合があります。
● 予想コストにマージンを加算するアプローチ
企業は,履行義務の充足のコストを予測し,当該財又はサービスに対する適切なマージンを追加して独立販売価格を見積ります。
● 残余アプローチ
企業は,取引価格の総額から契約で約束した他の財又はサービスの観察可能な独立販売価格の合計を控除した額を参照して,残余の財又はサービスの独立販売価格を見積ります(BC 270)。
ただし,企業は,次の要件のいずれかに該当する場合にだけ,残余アプローチを使用することができます。
ⅰ 販売価格の変動性が高い状況
企業が同一の財又はサービスを異なる顧客に(同時に又はほぼ同時に)広い範囲の金額で販売している(すなわち,代表的な独立販売価格が過去の取引又は他の観察可能な証拠から識別できないため,販売価格の変動性が高い)ときは,残余アプローチを使用することができます。
例えば,知的財産及び他の無形資産に関する契約では,それらの財又はサービスを顧客に提供する際に企業に発生する追加コストが少額又は皆無であるため,価格設定の変動性が高くなります。こうした変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有している状況では,契約における独立販売価格を算定する最も信頼性の高い方法は,残余アプローチであることが多いといえます(BC 271)。
ⅱ 販売価格が不確定である状況
企業が当該財又はサービスについての価格をまだ設定しておらず,当該財又はサービスがこれまで独立して販売されたことがない(すなわち,販売価格が不確定である)ときは,残余アプローチを使用することができます。
独立販売価格の見積りの複数の方法の組合せ
企業は,約束した財又はサービスのそれぞれの独立販売価格を見積るにあたって,複数の方法を組み合わせて使用することが必要になる場合があります。企業は,複数の方法の組合せを使用して独立販売価格を見積ったときは,当該独立販売価格に基づき取引価格を配分することが,配分の目的(第73項)及び独立販売価格の見積りに関する原則(第78項)に合致するかどうかを評価しなければなりません(第80項)。
例えば,契約の中に含まれる3つ以上の財又はサービスのうち,独立販売価格の変動性又は不確実性の高い複数の財又はサービスが含まれるときに,それら複数の財又はサービスの独立販売価格の総額に残余アプローチを使用し,それらの個々の財又はサービスのそれぞれの独立販売価格の見積りに別の方法を使用する場合がありますが,そうした複数の方法の組合せを使用して見積った独立販売価格は,その結果が適切なのかどうかを検討する必要があります。
☞企業は,独立販売価格の見積りにあたって,合理的に利用可能なすべての情報を考慮し,観察可能なインプットを最大限使用します。適切な見積りの方法の例として,①調整後市場評価アプローチ,②予想コストにマージンを加算するアプローチ,③残余アプローチがあります。残余アプローチは,約束した財又はサービスが,(a) 変動性又は不確実性の高い独立販売価格を有する状況か,又は(b) 独立での販売実績がなく,販売価格が不確定である状況に限って使用します。
6.独立販売価格に基づく配分
企業は,契約開始時において,契約で識別されているそれぞれの履行義務に対して,その基礎となる別個の財又はサービスの契約開始時の独立販売価格に比例して取引価格を配分します(第76項)。
本基準は,独立販売価格に基づく配分を原則(デフォルト)とすることにより取引価格の配分に規律をもたらし,企業内及び企業間の比較可能性を高めています(BC 280)。
もっとも,独立販売価格に基づく配分は手段にすぎませんので,収益認識モデルの目的を達成するため,必ずしも企業が顧客から権利を得ると見込む対価の金額の忠実な描写とならない場合として,値引きの配分(第81項~第83項),変動対価の配分(第84項~86項)において,例外的に他の方法を使用すべき状況を定めています(第74項,BC 279,280)。
7.値引きの配分
概要
契約の中の約束した財又はサービスの独立販売価格の合計額が当該契約の取引価格を超える場合には,顧客が値引きを受けています。この値引きは,一部の履行義務に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例して各履行義務に配分されます(第81項)。
もっとも,例えば,契約の中の約束した財又はサービスにマージンの高いものと低いものがあるために,契約全体としては利益が生じるのに,値引きの配分によってマージンの低い履行義務の充足時に損失が生じる可能性があります。値引きを独立販売価格に比例して配分する結果は,必ずしも企業が特定の履行義務の充足について権利を得る対価の金額を忠実に描写しません(BC 277)。
そこで,本基準は,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有している場合に限り,値引きをすべて当該履行義務に配分することとしています(第81項)。
要件
企業は,次の要件のすべてに該当する場合には,値引きをすべて,契約の中の全部ではない履行義務の一つだけ又は複数に配分しなければなりません(第82項)。
a 企業は,通常,契約の中の別個の財又はサービス(の束)のそれぞれを単独で販売している。
b 企業は,通常,それらの別個の財又はサービスのうちのいくつかを束にしたものも,それぞれの束の中の財又はサービスの独立販売価格に対して値引きして販売している。
c bにおける財又はサービスの束のそれぞれに帰属する値引きが,当該契約における値引きとほぼ同額であり,それぞれの束の中の財又はサービスの分析により,当該契約における値引きの全体がどの履行義務に属するのかの観察可能な証拠が提供されている。
取引価格の配分の方法
企業は,第82項に従って値引きを配分するときは,当該値引きを配分してから,独立販売価格の見積りに残余アプローチを使用しなければなりません(第83項)。
例えば,企業が定例的に製品Aを@40で,製品Bを@55で,製品Cを@45で,製品Dを@15~45で(変動性が高い),個々に販売するとともに,製品BとCを一つずつ組み合わせて対価60で販売している状況において,製品A~Dを一つずつ組み合わせて対価130で販売するとします。
この場合,企業は,製品BとCを組み合わせて販売するときに40値引きをするという観察可能な証拠があり,製品Aを@40で販売するという観察可能な価格がありますので,製品A~Dを組み合わせたときの対価130のうち対価100を製品A~Cに配分し,値引き40全体をBとCに配分します。次に,残余アプローチを使用して,製品Dの独立販売価格を30と見積ります。企業は,製品Dの独立販売価格の見積りの結果30を検討し,観察可能な販売価格の範囲15~45に入っており,適切であると評価します(IE 173~176)。
このように,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つだけ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有しているというための要件(第82項)は,通常は,3つ以上の別個の財又はサービスのある契約に適用されます。この要件をすべて満たす状況は多くはありませんので,値引きがすべての履行義務に比例的に配分すべきではない状況は,制限的であるといえます(BC 282)。
☞企業は,値引きの全体が契約の中の全部ではない履行義務の一つ又は複数に関するものであるという観察可能な証拠を有する状況として本基準第82項の要件をすべて満たす場合に限り,値引きをすべて当該履行義務に配分します。
8.変動対価の配分
概要
契約の中に変動対価が含まれる場合には,その変動性のある金額は,一部の履行義務(あるいは別個の財又はサービス)に配分するために除外しない限り,基礎となる別個の財又はサービスの独立販売価格に比例して各履行義務に配分されます(第86項)。
もっとも,契約において約束された変動対価は,契約全体に帰属させることが適切な場合もあれば,次のいずれかのように,顧客への財又はサービスの移転と交換に権利を得る対価の金額を忠実に描写するため,契約の特定の一部分に帰属させることが適切な場合もあります(第84項,BC 278)。
a 契約の中の全部ではない1つ又は複数の履行義務
例えば,顧客が,契約の中に含まれる複数のうちの1つの財又はサービスを企業が所定の期間内に顧客に移転することを条件にボーナスを支払うことを約束する場合は,当該財又はサービスにボーナス(変動対価)を配分することが適切です(BC 284)。
b 契約の中の全部ではない別個の1つ又は複数の財又はサービス
例えば,ホテル管理サービスを1年間にわたり提供する契約において顧客が稼働率の2%を基礎として決定される変動対価を支払うことを約束するときは,企業が,毎日の個々の管理サービスにつき,ほぼ同一で,顧客への移転のパターンが同じである一連の別個の財又はサービス(第22項(b))として単一の履行義務を識別する場合でも,日次の稼働率により対価の不確実性が解消されるため,日次に決定される変動対価を毎日の個々の管理サービスに配分することが適切です(BC 285)。
そこで,本基準は,変動対価が契約の中の全部ではない履行義務(あるいは財又はサービス)に関連する場合は,変動性のある金額をすべて当該履行義務(あるいは当該財又はサービス)に配分することとしています(第85項)。
要件
企業は,次の要件の両方に該当する場合には,変動性のある金額(及び当該金額のその後の変動)の全体を,一つの履行義務(又は第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する1つの別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第85項)。
a 変動性のある支払の条件が,当該履行義務の充足(あるいは当該別個の財又はサービスの移転)のための企業の努力(又はその特定の結果)に個別に関連している。
b 変動性のある対価の金額の全体を,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが,契約の中の履行義務及び支払条件のすべてを考慮すると,配分の目的(第73項)に合致する。
取引価格の配分の方法
企業は,第85項に従って変動対価を配分するときは,取引価格のうち第85項の要件に該当しない残りの金額を配分するため,取引価格の配分に関する本基準第73項~第83項を適用しなければなりません(第86項)。
☞企業は,契約において約束された変動対価について,①変動性のある支払の条件が,履行義務の充足(あるいは第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する別個の財又はサービスの移転)のための企業の努力(又はその特定の結果)に個別に関連し,かつ,②変動性のある対価の金額の全体を,当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分することが配分の目的(第73項)に合致するときは,変動性のある金額の全体を当該履行義務(あるいは当該別個の財又はサービス)に配分します。
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