取引価格の変動
連載「新しい収益認識基準で変わる契約書」
取引価格の変動
2017年10月5日初版 弁護士・公認会計士 片山智裕
A4小冊子 9ページ
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「取引価格の変動」 目次と概要
1.Step4-② 取引価格の変動
Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」では,企業は,契約開始時において,算定した取引価格を履行義務に配分しますが,その後に取引価格が変動したときは,変動した取引価格を契約開始時と同じ基礎により履行義務に配分し,充足した履行義務に配分した金額は,収益(又は収益の減額)として,直ちに(取引価格が変動した期間に)認識する必要があります(第88項)。
企業は,契約開始後の独立販売価格の変動を反映するために取引価格の再配分をしてはなりません(第88項)。
契約変更の結果として生じる取引価格の変動は,契約変更に関する本基準第18項~第21項に従って会計処理します。契約変更後に生じる取引価格の変動については,①取引価格の変動が契約変更前に約束された変動対価の金額に起因していて当該契約変更を本基準第21項(a)に従って会計処理している場合は,その範囲で,取引価格の変動を契約変更前の契約の中で識別された履行義務に配分し,②そうでない場合は,契約変更を本基準第20項に従って独立の契約として会計処理した場合を除き,取引価格の変動を変更後の契約の中の履行義務に配分する方法のいずれか適用可能な方法で取引価格の変動を配分します(第90項)。
2.取引価格の事後の変動
取引価格の変動の理由
不確定な事象の解決(不確実性の解消)や他の状況の変化などのさまざまな理由が,約束した財又はサービスと交換に企業が権利を得ると見込んでいる対価の金額を変動させます(第87項)。
例えば,企業が契約開始時に見積った変動対価について,その後に不確実性が解消されるに従って,又は残った不確実性に関する新たな情報が利用可能となるに従って,権利を得ると見込んでいる金額が変化します(BC 224)。
取引価格の事後の変動の取り扱い
契約開始後に取引価格が変動した場合には,次のいずれかの取り扱いが考えられます(BC 225)。
① 当該変動を変動の発生時に純損益に認識する。
② 当該変動を履行義務に配分する。
このうち①の取り扱いは,財又はサービスの移転を忠実に描写しない収益認識のパターンとなるおそれがあります。また,取引価格の変動により直ちにかつ全部を収益に認識することは実務において濫用のおそれがあります。取引価格の変動を収益とは区分して利得又は損失として表示したとしても,契約について認識される収益の合計額が,企業が契約に基づいて権利を得る対価の金額と等しくなりませんので,結果として収益認識のパターンを維持することができません(BC 226)。
②の取り扱いは,取引価格の事後の変動を,契約開始時における配分の方法論と整合的な方法で配分するものであり,変動対価の見積りの変更が,当該変動対価が関連している履行義務に配分されることが確保されます(BC 286)。
そこで,本基準は,取引価格の変動を契約の中のすべての履行義務に配分することとし,既に充足されている履行義務に配分される取引価格は,直ちに収益として(又は収益の減額として)認識することとしています(BC 227)。
☞企業は,契約開始後に取引価格が変動したときは,変動した取引価格を履行義務に配分し,既に充足されている履行義務に配分される取引価格は,直ちに収益(又は収益の減額)として)認識します。
3.取引価格の変動の会計処理
契約開始時と同じ基礎による配分
企業は,契約開始後の取引価格のあらゆる変動を,契約開始時と同じ基礎により履行義務に配分しなければなりません(第88項)。
本基準は,財又はサービスの移転のパターンを忠実に描写するために,取引価格の変動を契約開始時における配分と同じ方法で配分することにより,取引価格の変動以外の要因によって契約開始時に設定した財又はサービスの移転のパターンに影響を与えないようにしています。
この原理は,取引価格の変動を除き,契約開始時における配分の方法を変更してはならないことを意味します。そこで,本基準は,以下の点を注意的に明らかにしています(BC 286)。
● 独立販売価格の変動を反映してはならない。
企業は,契約開始後の独立販売価格の変動を反映するために取引価格の再配分をしてはなりません(第88項)。
● 変動対価の配分の方法を変更してはならない。
企業は,変動対価の配分に関する第85項の要件に該当する場合にのみ,取引価格の変動の全体を,履行義務(又は第22項(b)に従って単一の履行義務の一部を構成する別個の財又はサービス)に配分しなければなりません(第89項)。
履行義務への配分と収益認識
企業は,取引価格の変動を配分する各履行義務が,未だ充足されていないものと,既に充足されているものとによって,次のとおり会計処理を行います。
● 履行義務が未だ充足されていないとき
企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」において,取引価格の変動を当該履行義務に配分します。その後,Step5「企業が履行義務の充足時に(又は充足するにつれて)収益を認識する」において,当該履行義務が充足された時に(又は充足されるにつれて),当該履行義務に配分した取引価格の金額を収益として認識します。
● 履行義務が既に充足されているとき
企業は,Step4「取引価格を契約における履行義務に配分する」において,取引価格の変動を当該履行義務に配分し,直ちに(取引価格が変動した報告期間に)収益(又は収益の減額)として認識します(第88項)。
☞企業は,取引価格の変動を,契約開始時と同じ基礎により(契約開始時における配分の方法を変更せずに)履行義務に配分しなければなりません。そのため,企業は,契約開始後の独立販売価格の変動を反映したり,本基準第85項に従った変動対価の配分の方法を変更したりしてはなりません。
4.契約変更による取引価格の変動
本基準は,法律制度において成立した変更契約のうち会計処理に影響を及ぼすものとして,①契約の範囲が変更されるもの,②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものを「契約変更」と呼んで,第18項~第21項にその会計処理を定めています。
契約変更のうち②契約の価格が変更されるもの,③契約の範囲と価格が変更されるものは,契約開始後に取引価格を変動させます。しかし,契約変更に伴う契約の価格の変更は,契約開始後の当事者間の独立の交渉から生じるのに対し,変動対価の見積りの変更は,契約開始時に識別され合意された変数の変化から生じることから,契約変更から生じる取引価格の変動と変動対価の見積りの変更は,異なる経済事象の結果であるといえます(BC 82)。
そこで,本基準は,契約変更の結果として生じる取引価格の変動は,Step1-④契約の変更のサブ・ステップにおいて,第18項~第21項に従って会計処理することとしています(第90項)。この契約変更の会計処理に加えて,Step4-②取引価格の変動のサブ・ステップで会計処理を行う必要はありません。
☞企業は,契約変更の結果として生じる取引価格の変動は,本基準第18項~第21項に従って契約変更の会計処理を行います。
5.契約変更後に生じる取引価格の変動
企業は,契約変更後に生じる取引価格の変動については,取引価格の変動に関する本基準第87項~第89項を適用して,次のうちどちらか適用可能な方法で取引価格の変動を配分しなければなりません(第90項)。
a 取引価格の変動が契約変更前に約束された変動対価の金額に起因していて,企業が当該契約変更を本基準第21項(a)に従って会計処理している場合において,その範囲で,取引価格の変動を契約変更前に契約の中で識別された履行義務に配分する方法(第90項(a))
企業が,顧客が変動対価を約束する契約を開始した後に契約変更を行い,本基準第21項(a)に従って既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理した後になって,契約変更前に約束された変動対価に関して取引価格が変動することがあります。
このような取引価格の変動は,契約変更前の契約の中の履行義務に配分するか,契約変更後の契約の中の履行義務に配分するかのいずれかが考えられますが,約束された変動対価と不確実性の解消が契約変更の影響を受けない場合には,取引価格の変更を当初の契約の中の履行義務に配分することが適切です(BC 83)。
b 企業が契約変更を本基準第20項に従って独立の契約として会計処理しなかった場合において,取引価格の変動を変更後の契約の中の履行義務(すなわち,契約変更直後に未充足又は部分的に未充足であった履行義務)に配分する方法(第90項(b))
aに該当しない(aが適用可能でない)取引価格の変動については,企業は,変更後の契約の中の履行義務に配分します。
企業が契約変更を本基準第20項に従って独立の契約として会計処理した場合には,既存の契約か,又は契約変更による新たな独立した契約のいずれかについて,取引価格の変動の会計処理(第87項~第89項)を行います。
☞企業は,①本基準第21項(a)に従って既存の契約を解約して新契約を創出したかのように会計処理した後,契約変更前に約束された変動対価の金額に起因して取引価格が変動した場合は,その範囲で,取引価格の変動を契約変更前に契約の中で識別された履行義務に配分しますが,②そうでない場合は,取引価格の変動を変更後の契約の中の履行義務に配分します。
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