第8回

 今回は、売買価格の協議、売買価格決定の申立て、売買価格決定申立事件の審理、供託金(暫定買取代金)の取扱い、源泉所得税の取扱いについて解説します。

 

1 売買価格の協議

 発行会社・指定買取人が譲渡等承認請求者に対して買取りの通知をした場合には、発行会社・指定買取人と譲渡等承認請求者の間の協議によって対象株式の売買価格を定めます(会社法144条1項、7項)。

 この協議には期間制限があり、発行会社・指定買取人と譲渡等承認請求者の間の協議が調わずに、買取りの通知があった日から20日以内に発行会社・指定買取人と譲渡等承認請求者のいずれからも売買価格決定の申立てがなかったときは、供託金(暫定買取代金)が対象株式の売買価格となります(同条5項、7項)。

2 売買価格決定の申立て

(1) 申立人

 売買価格決定の申立ては、発行会社・指定買取人又は譲渡等承認請求者のいずれからもすることができます。

 売買価格決定の申立ては、発行会社・指定買取人による買取りの通知があった日から20日以内に(会社法144条2項、7項)、発行会社の本店の所在地を管轄する地方裁判所に対して(同法868条1項)、株式売買価格決定申立書を提出して行います(同法876条、会社非訟事件等手続規則1条)。

以上のように、譲渡等承認請求から株式売買価格決定の申立てまでの期間が短いので、譲渡等承認請求者は譲渡等承認請求を行う前に、譲渡等承認請求を受けた株式会社は譲渡等承認請求を受けたときから、株式売買価格決定の申立てに詳しい弁護士に相談しておくべきです。

(2) 関係人

 売買価格の決定は、裁判所が審問の期日を開いて利害の対立する関係人の陳述を聴かなければならない類型の非訟事件と定められており、発行会社・指定買取人が売買価格決定の申立てをしたときは譲渡等承認請求者が関係人となり、逆に譲渡等承認請求者が売買価格決定の申立てをしたときは発行会社・指定買取人が関係人となります(会社法870条2項3号)。

 株式売買価格決定申立書の写しは、関係人に送付されます(会社法870条の2第1項)。 

2 売買価格決定申立事件の審理

(1) 証拠の準備と申出

 裁判所は、審問の期日を開いて関係人の陳述を聴く必要がありますが(会社法870条2項3号)、関係人は、当事者ではなく、非訟事件手続法が準用する民事訴訟法第2編第4章第1節から第6節までの規定に従った証拠の申出をすることができないため(非訟事件手続法53条)、通常は、当事者参加(同法20条)又は利害関係参加(同法21条)をします。これにより、審問期日では、申立人と関係人による主張・立証が行われており、実際には民事訴訟類似の当事者主義的な手続となっています。

 このように、発行会社の計算書類・会計帳簿など株式価値評価のために必要な証拠は、当事者が裁判所に提出しなければなりません。通常、発行会社が自ら主張する株式価格の立証のために必要な範囲で計算書類・会計帳簿を提出します。しかし、発行会社が提出した範囲の計算書類・会計帳簿では、譲渡等承認請求者が自ら主張する株式価格の立証のためには不十分な場合もあり得ます。また、譲渡等承認請求者は、譲渡制限株式を譲渡しようとし、又は取得するときに、あらかじめ株式価値を算定し、売買価格決定申立事件に備える必要があります。そこで、譲渡等承認請求者は、会計帳簿閲覧謄写請求訴訟等も見据えた十分な期間を置いて、あらかじめ発行会社に会計帳簿閲覧謄写を請求するべきです。

(2) 株式価値の鑑定と株式価値評価書(私的鑑定)

 裁判所は法的判断によって売買価格を最終的に決定する権限を有していますが、株式価値評価について必ずしも専門的知見を有するわけではないため、通常、公認会計士等の専門家を中立的な専門委員や鑑定人として選任し、専門家の意見を参考に売買価格を決定します。裁判所は、株式価値の鑑定を採用する前に、審問期日で和解(非訟事件手続法65条)を試みることも少なくありません。裁判所は、鑑定前に和解成立の見込みがないときは、多くの場合、株式価値の鑑定を採用し、その鑑定結果に基づき和解を試み、それでも和解が成立しないときに、その鑑定結果を基礎にして売買価格を決定します。

 専門委員や鑑定人に選任された専門家は、株式評価に関する知見と経験を有しますが、基本的には当事者の主張や当事者が提出した資料・証拠に基づき株式価値の意見を述べるので、専門家が選任された場合でも、当事者の主張・立証が重要であることに変わりありません。株式価値は、どのような評価方法を採用するかや複数の評価方法の折衷割合によって大きく結果が変わる可能性があり、それらの判断は専門的な裁量に委ねられているものの、最高裁判例などの裁判例が一定の基準を示している場合があります。当事者の代理人である弁護士は、株主構成や支配株主・譲渡等承認請求者の持株比率、発行会社が属する業界、事業の特性などに着目し、株式価値の鑑定が採用される前に、あるべき評価方法や折衷割合について説得力のある主張を展開する必要があります。

 発行会社や発行会社の協力が得られる指定買取人は、発行会社の計算書類・会計帳簿を入手できるため、公認会計士等の専門家に株式価値評価書(私的鑑定)を取得することも少なくありません。他方、譲渡等承認請求者においても、あらかじめ計算書類・会計帳簿を入手し、株式価値評価書を取得する場合もあります。裁判所に提出する株式価値評価書(私的鑑定)の内容は、当事者の代理人である弁護士が展開する主張と整合する必要があります。逆に相手方から提出された株式価値評価書(私的鑑定)に対しては、代理人である弁護士が批判的に分析し、反論する必要があります。

 このように、売買価格決定申立事件の当事者は、公認会計士等の専門家から株式価値評価書を取得するだけでなく、その専門家と連携し、株式価値評価書で採用した評価方法や折衷割合について説得力のある主張を展開することができる株式価値評価の実務に精通した弁護士を代理人に選任する必要があります。

(3)決定

 裁判(決定)は、一般に「1株につき〇〇円とする」という主文であり、支払命令ではなく、仮執行宣言が付きません。決定には、理由が付されます(会社法871条本文)。

4 供託金(暫定買取代金)の取扱い

 対象株式の売買価格が確定すると、株式会社・指定買取人が供託した金額を限度として売買代金の全部又は一部を譲渡等承認請求者に支払ったとみなされます(会社法144条6項、7項)。したがって、譲渡等承認請求者は、供託所(法務局)に対し、供託金の還付請求をすることになります。

 裁判所で決定された売買価格が供託金額を超過する場合には、譲渡等承認請求者は、超過分を株式会社又は指定買取人に請求します。逆に供託金額が裁判所で決定された売買価格を超過する場合には、株式会社又は指定買取人は、供託所(法務局)に対し、超過分の供託金の取戻請求をします。

5 源泉所得税の取扱い

 発行会社が譲渡等承認請求者から対象株式を買い取り(自己株式の取得)、譲渡等承認請求者が発行会社から株式売買代金の支払を受けた場合(供託金を支払ったとみなされる場合を含みます。)において、その代金額が、代金支払の直前を基準に計算する発行会社の資本金等の額のうち対象株式に相当する部分(資本金等の額÷発行済株式等の総数×対象株式の数)を超える金額は配当であるとみなされます(所得税法25条1項5号、同条3項、所得税法施行令61条2項6号イ)。

 配当であるとみなされた部分については、発行会社に源泉徴収義務が生じるので、売買代金支払日の属する月の翌月10日までに源泉徴収税を納付します(所得税法181条1項)。

 所得税法181条1項は、「その支払の際、…配当等について所得税を徴収し」と定めていますが、ここでいう「支払」には、実際に任意に支払をする場合のほか、強制執行を受けて支払う場合、法令により支払ったとみなされる場合も含みます。発行会社が実際に任意に支払をしないときは源泉所得税を徴収することができない場合があり、その場合はいったん発行会社が源泉所得税を立て替えて税務署に納付し、譲渡等承認請求者に求償することになります。

【Q&A】

1 当社は、譲渡等承認請求者から譲渡等承認請求を受け、これを不承認とし、当社が対象株式を買い取る旨の通知をし、暫定買取代金として1億円を供託しました。その後、譲渡等承認請求者から売買価格決定の申立てがされましたが、みなし配当に係る源泉徴収税はいつ支払えばよいのでしょうか?

 裁判所で決定された売買価格が供託した金額(1億円)以下である場合には、裁判所の売買価格決定日の属する月の翌月10日に源泉徴収税を納付することになります。

 裁判所で決定された売買価格が供託した金額を超える場合(1億5000万円とします。)には、1億円の部分については、裁判所の売買価格決定日の属する月の翌月10日に、5000万円(差額)の部分については、実際の支払日が属する月の翌月10日に源泉徴収税を納付することになります。

 売買価格決定日を10月20日、差額支払日を11月20日、みなし配当金額を3000万円、源泉徴収の税率を20%(実際の税率とは若干異なります。)とすると、源泉徴収税の納付スケジュールは以下のとおりとなります。

11月10日 400万円(3000万円×20%×1億円÷1.5億円)

12月10日 200万円(3000万円×20%×5000万円÷1.5億円)

2 当社は、譲渡等承認請求者から譲渡等承認請求を受け、これを不承認とし、当社が対象株式を買い取る旨の通知をし、暫定買取代金として1億円を供託しました。その後、当社も譲渡承認請求者も売買価格決定の申立てをせず、買取通知の日から20日が経過し、暫定買取代金1億円がそのまま売買価格となりました。この場合、供託金から源泉所得税の納付を行うことはできますか?

 貴社(供託者)と譲渡等承認請求者(被供託者)の間で、貴社が源泉徴収税額の供託金取戻請求権を有すること、譲渡等承認請求者が供託金額1億円から源泉徴収税額を控除した額の供託金還付請求権を有することにつき、合意ができれば、供託所から貴社が源泉徴収税額の供託金の払渡しを受けることができます。しかし、そのような合意ができない場合には、譲渡等承認請求者が供託金額全額の1億円の還付を受けることとなります。この場合には、貴社は、源泉徴収税の納期限までに自らの資金で税務署に納付し、譲渡等承認請求者に対し、不当利得返還請求(訴訟)を行うことになります。

 

 

投稿者: 片山法律会計事務所