裁判所は法的判断によって売買価格を最終的に決定する権限を有していますが、株式価値評価について必ずしも専門的知見を有するわけではないため、通常、公認会計士等の専門家を中立的な専門委員や鑑定人として選任し、専門家の意見を参考に売買価格を決定します。裁判所は、株式価値の鑑定を採用する前に、審問期日で和解(非訟事件手続法65条)を試みることも少なくありません。裁判所は、鑑定前に和解成立の見込みがないときは、多くの場合、株式価値の鑑定を採用し、その鑑定結果に基づき和解を試み、それでも和解が成立しないときに、その鑑定結果を基礎にして売買価格を決定します。
専門委員や鑑定人に選任された専門家は、株式評価に関する知見と経験を有しますが、基本的には当事者の主張や当事者が提出した資料・証拠に基づき株式価値の意見を述べるので、専門家が選任された場合でも、当事者の主張・立証が重要であることに変わりありません。株式価値は、どのような評価方法を採用するかや複数の評価方法の折衷割合によって大きく結果が変わる可能性があり、それらの判断は専門的な裁量に委ねられているものの、最高裁判例などの裁判例が一定の基準を示している場合があります。当事者の代理人である弁護士は、株主構成や支配株主・譲渡等承認請求者の持株比率、発行会社が属する業界、事業の特性などに着目し、株式価値の鑑定が採用される前に、あるべき評価方法や折衷割合について説得力のある主張を展開する必要があります。
発行会社や発行会社の協力が得られる指定買取人は、発行会社の計算書類・会計帳簿を入手できるため、公認会計士等の専門家に株式価値評価書(私的鑑定)を取得することも少なくありません。他方、譲渡等承認請求者においても、あらかじめ計算書類・会計帳簿を入手し、株式価値評価書を取得する場合もあります。裁判所に提出する株式価値評価書(私的鑑定)の内容は、当事者の代理人である弁護士が展開する主張と整合する必要があります。逆に相手方から提出された株式価値評価書(私的鑑定)に対しては、代理人である弁護士が批判的に分析し、反論する必要があります。
このように、売買価格決定申立事件の当事者は、公認会計士等の専門家から株式価値評価書を取得するだけでなく、その専門家と連携し、株式価値評価書で採用した評価方法や折衷割合について説得力のある主張を展開することができる株式価値評価の実務に精通した弁護士を代理人に選任する必要があります。